第61話 リタイア?


「お疲れさん、どうだ、中は・・」

楠木班長と共についてきたおっさんが聞く。

名前は聞いたが、忘れた。

「はい、問題ありませんが・・」

「ん?」

おっさんは怪訝そうな顔を向ける。

「助教、私は早く地上へ戻りたいです。 こんなところ、半日も居たくありません」

厳重な入口の番人だろう人が言っていた。

初め、俺は冗談かと思ったが、表情は真剣だ。

「すまんな・・後半日しないと、交代は来ない」

「そ、そうですよね・・すみません」

おっさんが番人だろう人の肩を軽く叩く。


「おいおい・・いったい何だ?」

「ヤバい雰囲気じゃねぇかよ」

「私・・やめようかな」

・・

俺達の中から言葉が漏れていた。

おっさんが振り返り、ニヤッとする。

「お前たち、本当に辞めたいなら、辞めておけ。 確かに、ここから先の安全は保証できん。 今から行くところは4階層だからな」

おっさんの言葉に、全員の動きが一瞬止まったようだ。

・・・

誰かが言葉を出す。

「きょ、教官・・いえ、班長・・どういうことです?」

楠木班長が申し訳なさそうな顔をしながら答える。


「ごめんなさいね・・こういう訳なのよ。 実戦を兼ねて素材を回収。 しかも4階層から始めなければならないのよ、素材班は。 攻略組も似たようなことやっていると思うけど・・だからこそ私たちがついてきているのだけれど、完璧じゃないし・・」

楠木班長の最後の方の言葉はよく聞き取れなかった。

誰も言葉を出すものはいない。

・・・

・・

しばらく沈黙が続いたが、1人の女の子がおそるおそる片手を挙げて言葉を出す。

「きょ、教官・・私・・リタイアします」

楠木班長は責めるでもなく、微笑みながらうなずく。

「えぇ、問題ないわよ。 来たバスに乗って帰ってもらえればいいわ。 ありがとう、ここまで来てくれて・・気を付けてね」

何人かがリタイアとなる。

俺は各人がいろいろとおこなっている時にベスタと話していた。

「ベスタさん、このダンジョンって、そんなにヤバいのか?」

『いえ、ハヤト様の神社の方が危険でしたね』

ベスタが回答してくれた。

・・・

マジですか・・そんなダンジョンを俺はトライしていたのか。

何か、意味なく不安になる。

『ハヤト様、問題ありません。 私がついております』

ベスタの強気な言葉に、完全には納得できないまでも、今まで問題はなかった。

「ありがとう、ベスタさん。 ま、何とかなるよな」

『もちろんです』


しばらくして、昨日残っていた素材班の人員の2/3がいなくなった。

残ったのは4人だけ。

俺と若い女の子、後は同世代くらいの男の人と、やや年配のおっさんだった。

楠木班長と助教のおっさんは当たり前のようにニヤッとしてうなずく。

「楠木班長、今回はなかなか残りましたね」

「えぇ・・真田助教、これからが大変ですが、よろしくお願いします」

「わかっています」

俺はこの時、おっさんの名前を覚えた。

真田って言うんだな。


「さて、君たち、今から中に入って行くが、気を引き締めてくれ。 とはいえ、昨日の素養検査をパスしているんだから、問題はないだろうけどね」

真田助教がそう言いながら、門番の人に挨拶をして、俺達はゲートを通過する。

通路を歩きながら、いろいろと説明を受ける。

どうやら人材をしっかりと育成している時間はないらしい。

素養試験段階で、攻略組と素材班で耐えれそうな人材を選んでいるようだ。

・・・

・・

「おっと・・そろそろ魔物と遭遇するエリアだ。 おしゃべりはおしまいだな」

真田助教の顔つきが変わった。

話では、オーガなどの個体がいるということだった。

俺的には大したことないという認識だが、他の人たちは遭遇したことがないらしい。

残った人たちは最高でレベル14、低いのはレベル11だ、根性あるよな。

オーガジェネラルやキングが出てくれば、アウトだろう。

そのために班長達がいる。

俺は楽観的な見方をしている。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る