第59話 ギルド


「ミスターハワード、どの道、魔物の対処には出かけるよ」

ジョーから言質げんちを取ると、ハワードの雰囲気が明るくなった。

これで州知事に対して自分の仕事をしたことになる。

そして、付け加えた。

「ジョー・・我々も危惧しているのだが、君たちが作っている情報ネットワークの組織だが・・」

ジョーとサラが目線を合わせる。

「あぁ、ギルドのことかね」

ハワードがうなずく。


レベルのある世界になり、一時期は各国が貴重な情報を必死で集めようとしていた。

だが、今までのように国の武力における影響力が極めて疑わしい。

自国に攻撃をしかけるようなやからがいる。

人々は言葉にこそしないが、自分たちの所属している国を完全に信用することはできなくなっていた。

自然な流れだっただろう。

ネットによる情報伝達システムにより、世界各地に同時期に情報を交換する組織みたいなものが出来始めた。

数人の規模から始まり、人数も様々な組織ネットワークが出来上がった。

世界の情報を瞬時に手に入れられる。

通称、『ギルド』と呼ばれるようになった。

誰が呼び始めたのかわからないが、自然と名称がついていた。

国も初めは便利な機関くらいにしか考えていなかった。

しかし、その日々行き交う情報量に危険を感じるのも不思議ではないだろう。

国が併合しようと考えるも、既に世界に乱立している。

制御できるはずもなかった。


武力による制圧を試みるも、ギルドに所属するレベルのあるものは自由を好み、用心棒のような安全装置となっているものもいた。

当然、衝突が起こる。

すると、その国の軍に対して世界各地からレベルのある者たちが攻撃を仕掛けて来たりする。

レベルが絶対的な世界になった。

数の暴力? それには勝てるはずもない。


ただ、全面戦争になるようなことはどうにか免れていた。

戦争になると、その後の復興に余計な経費をお互いに捻出しなければならない。

その間に、他国やギルドに今の生活システムを奪取され、全く初めから文明生活を変更しなければいけないかもしれない。

それはお互いに不幸だとは理解していたようだ。

だからこそ、お互いに睨み合ったままの共存となっている。

まだ数カ月程度しか経過していないが・・。



ハワードがジョーを見つめていた。

「ミスターハワード・・確かに、我々のような個人的な組織などは、国からすれば面白くはないだろう。 だがね、今までの国というのが大きすぎたのではないのかね? 州自体でもいろんな制約があり、いわば独立している。 だが、国とは同じ方向を向いている・・まぁ、我々を受け入れてくれたこの州には感謝している。 無茶はしないよ。 サラ、行こうか」

ジョーはそれだけを言うと席を立つ。

ジョーもわかっている。

国のトップに位置する・・いや、利益を収奪している連中たちが面白くないのだろう。

今までのように金で動く世界ではなくなった。

レベルで動く世界と言ってもいい。

絶対ではないが、努力すれば間違いなくレベルが上がる。

そうすれば、自分の思い通りの世界になるというより、自由を得られるようになる。

僕たちのところには暴走するものはいないが、他国ではそういった話も聞く。

・・・

ジョーは軽く目を閉じると、サラの方を向く。


「サラ、君はどう思う?」

「はい、間違いなく意図的なものだと思います。 我々の出方を伺っているのでしょう。 そして、我々は間違いなく動くことがわかっています」

サラの回答にジョーが微笑む。

「サラ・・出撃準備をお願いできるかな? 後、事務方の人たちとの調整も頼む。 無理をさせるね」

ジョーが申し訳なさそうにサラを見る。

「マイヒーロー、お安い御用です」

サラは笑顔で立ち上がると、サッと動き出す。


ハワードが不安そうな顔つきでジョーとサラを見送っていた。


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