第58話 来訪者


アメリカは大統領の下、各州がその指針に従っているがレベルのある世界になり、少し揺らいでいるのは気のせいではないだろう。

サラたち、事務方などのプチ行政を行うものたちは感じていた。

本当に、このまま国という大きな入れ物の方向を向いていて良いのかと。


サラは思う。

ジョーのところにつどう人たちは、ジョーと同じ方向を向いているだけであって、国と同じとは限らない。

それにジョーの集団だけでも、もしかしたら本当に国の力に匹敵するかもしれない。

私だけに見せてくれた、ジョーの新しい力。

とてもじゃないが、人に言えるようなものじゃない。

左腕を失って得られた力だと、マイヒーローは言う。


3つあるスキルの1つだという、量子崩壊クォンタム ディケイ

ジョーのないはずの左腕に、光の腕が現れる。

その腕が触れた大きな岩が一瞬で無くなった。

一筋の光の柱が出来上がったかと思うと、光の粒になり拡散していく。

たったそれだけだったが、目の前から大きな岩が消えた。

「サラ、君にだけ見せておきたかったんだ。 これが僕の新しい能力の1つだよ。 今度、核爆弾が来ても、これでこの世から消滅させられる」

ジョーは笑顔で話していた。

私には神・・いや、悪魔の力に見えた。

人が使ってよい力なのか?

ジョーが言うには、何度も連続して使えるようなものではないらしい。



事務所でサラの報告を聞いていたジョーは常に笑顔だ。

腕を失ってからは人に対して、更に優しさが増したかもしれない。

サラは笑顔で笑っているジョーを見つめていた。

その視線の端に人が近づいてくるのを確認。

目線を新たな人に向ける。

「こんにちは、えっと・・サラさんですね。 そして、ジョーさん」

微笑みながら握手を求めてくる、中年くらいの男だ。

「えぇ、サラです」

「ジョーだ」

ジョーは笑顔で握手を交わしていた。


「私は、この州の総務を担当しているハワードと言います。 よろしくお願いします。 さて、早速ですがお仕事のお話をさせてください・・」

ハワードが笑顔から真顔にパッと切り替わっていた。

・・・・

・・・

・・

治安出動の依頼らしい。

ハワードが言うには、自分たちのいる州に国が圧力をかけてきたそうだ。

ライフラインに対する費用負担や税率の変更など。

その原因がどうもジョーたちの集団の受け入れにあるらしいことなど。

そして、州の端にあるダンジョンから魔物が溢れ出した。

その魔物の対処に行動してほしいということだ。

州内の上位レベルの者たちは住民の安全のために派遣している。

とてもじゃないが人が足りない。

それに魔物のレベルが高い。

レベル20前後の存在が確認されている。

普通のレベルたちでは、対戦できそうもない。


ジョーはハワードの話を聞きながら、広げられた地図の地点を確認する。

「ミスターハワード、この地域で出没したのだね?」

「はい」

ジョーがサラを見る。

「はい、マイヒーロー・・私も同意見です」

ハワードがジョーとサラの会話にキョトンとしていた。

「いったい何が同意見なのですか?」


ハワードの問いにジョーが答える。

「ミスターハワード、州に圧力がかかって来た時期とダンジョン付近での魔物の確認・・都合が良すぎるのだよ」

「いったいどういうことです? ・・まさか、国が意図的に行っていると・・」

ハワードが不安そうな顔をジョーに向ける。

サラがうなずくと説明する。

「いえ、断定はできません。 ですが、このダンジョンはそれほど深い階層でもない。 誰かがダンジョン管理者になったのかもしれません。 今、管理が確認されているダンジョンは、最高でも4階層程度です。 私くらいのレベルでもクリアできる程度です。 魔物もそれほど強いものはいません。 実際に、ハワードさんから聞くまでは、無関心な地点でした」

ハワードは理解したようだ。

「なるほど・・確かに、冷静に考えれば不思議なことです。 そもそもダンジョンから魔物が出てくることはない。 だが、管理者が意図したりすれば、わからないでもないですな」

ハワードが難しい顔をしてうなずく。

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