第57話 その楽観さが危ういのですが・・


<アメリカ>


この国は、合衆国というだけあって、州の力が日本の県とは全く違うようだ。

いや、違ったと過去形で言った方がいいかもしれない。

その州ですら、ゲーティッドコミュニティなるものが、レベルのある世界以前から騒がれていた。

自分達の力で、自分たちの領域は守る。

そういった集団が増え始めていた。


ジョーのいる集団も徐々に規模が大きくなっている。

ジョーに対する以前のイメージが強く残っていたのだろう。

そして、そのイメージと違わぬ人格に人々は引き寄せられたのかもしれない。

そして、その情報はすぐに広がってゆく。

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整然とした、事務所の中だろうか。

1人の男が椅子を蹴り飛ばして立ち上がった。

「なんだと!! あのジョーが・・生きていたというのか!」

キースは驚いていた。

あまりの衝撃に言葉が出て来ない。

報告をしていた事務官だろうか、キースとジョーの間柄を親友として認識していた。

事務官は、親友の生存に狂喜しているのだろうと思っていた。

実際は違ったが。

「キース閣下、本当に良かったですね。 あのヒーローが生きていたなんて・・私もうれしい限りです。 これで・・」

事務官はそこまで報告すると言葉を失う。


キースが目を真っ赤にして、事務官を睨む。

まるでこの世の恨みのすべてをぶつけるような目線だ。

まさかキースが喜びではなく、単なる衝撃で混乱しているなどとは思いもしない。

事務官はこれ以上は何も言わずに、そっとしておこうと考えた。

軽く頭を下げると、キースの前からいなくなる。


キースの身体の中を、まだ衝撃が駆け巡っていた。

椅子を掴んだ手が震えてる。

・・・

何故だ?

何故、やつは生きているんだ。

あの・・やつがいた場所には、間違いなく核爆弾が直撃したはずだ。

その映像は何度か確認した。

その後も大きなクレーターが出来上がっていた。

念のため、調査員すらも派遣した。

当然の報告だが、生物の反応はなかったという。


核爆弾だぞ。

生き延びれる生物などいるはずもない。

その上、ピンポイント直撃だ。

いったいどうやって・・

・・

いや、それよりもジョーのいる集団がまるで小国のような規模になってきているという。

今やこの国は、レベルで整列された国になろうとしている。

その情報統制の結果、諸外国とのパワーバランスを保てるようになってきた。

どの国も、レベルがどのように作用するのか実験段階中だ。

アメリカは常に世界の基軸であらねばならない。


私たちのチームが制御し、レベルによる上下の差は格段に小さくなった。

それはいいことだろう。

誰かが突出することはない。

広告塔のように、何人かは『パワー』顕示のために、えて情報公開している者もいる。

想定の範囲内だ。


それを・・あの男は、またしても私の邪魔をしようというのか。

自由と無法の違いもわからない連中だ。

・・・

いや、そんなことは問題ではない。

いったいどうすればいいのか。


キースはゆっくりと椅子に座ると目を閉じる。

背中を深く椅子に預けて大きく息を吐く。


<ジョー>


「マイヒーロー、このところ人の流入が加速しています。 建物はどうにかなるとしても、水と食料の問題が起こる可能性があります」

サラが紙を片手に報告をする。

ジョーは笑顔で答える。

「ありがとうサラ、それは問題だね。 でも、君たちがいるから心配はしていないよ。 すでに答えはあるのだろ?」

「はぁ・・マイヒー・・いえ、ジョー・・あなたのその笑顔にはかないません」

サラは両手を広げてやれやれという感じだ。

「はい、ジョーの確認を取るだけで、既に農産物などの提携は確保はできています。 州の安全を守るという治安維持が発生しますが」

ジョーはその報告を聞くと、にっこりとうなずく。

「うん、それは僕の専門分野だ」


まるで子供のような笑顔に誰もが騙されるかもしれない。

「マイヒーロー、私は心配なのです」

「何がだい? サラ・・」

「はい、この国にも軍隊はあります。 こんな変な世界になってしまいましたが、武力というのは必要悪だと私は思っています」

ジョーはうなずきながら聞いている。

「それに匹敵する力を私たちの集団が持っていると思われることが不安なのです」

「フフ・・サラ、それなら僕たちが軍に入れば問題解決じゃないのかい? まさか個人を目のかたきにするのかな?」

ジョーはあくまでも楽観的だ。

「マイヒーロー、私たちのところに最近妙な調査が入って来ているのですよ。 あのジョーは生きているのかとか、核爆発の生き残りがいるのかとか・・とにかく、この1週間はそんなことを聞かれてばっかりです」

「ハハハ・・いいじゃないか、実際に僕たちは生きている。 死んだ者もいるが、それは僕の力が足りなかったからだ。 今なら決して誰も死なせはしない」

「ジョー・・そんな・・」

サラは言葉をやめた。

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