第56話 悪魔? 小悪魔?


「それじゃ渡辺さん、報告をお願いしますね」

「えぇ、取りあえずレベルの報告はしておきます」

渡辺教官は表情も変えずに席を立つ。

楠木教官が俺を見て微笑む。

「村上さんは私のグループに入ることになるわ。 素材を振り分けたり、回収したりと、結構多忙なのよ。 頑張ってね」

「楠木教官・・その・・自分のレベルアップとかは、なかなかできそうにないのですか?」

俺は率直に聞いてみた。

「ん? 村上さんはさらに強くなりたいの?」

俺は少し迷ったが、うなずく。

「う~ん・・今でも十分すぎるくらいだと思うけど・・素材班といっても、魔物とも遭遇するし・・」

楠木教官が顔を近づけて来て、小声でささやく。

「それにね、あまり強くなりすぎると、国からマークされるわよ。 いくらレベルが高くても、数の暴力と寝てる時は危ないでしょ? それにレベルを制御させる装置みたいなのも開発されてるしね」

・・・

それって、奴隷じゃないか。

俺はこの組織に入ったのを少し後悔した。

「村上さん・・あなた、今この組織に入るんじゃなかったって思ったでしょ?」

「え?」

「でも、もう遅いわよ。 あなたの個人情報は既に登録されているわ。 それにこの世界にいれば、遅かれ早かれどこかでその存在を知られることになると思うわよ。 初めに自分に適したところに入っておくのは、一応安心は得られるしね。 噂なんだけど、他国では完全なレベルのピラミッドが出来上がっている国もあると聞くし・・まぁ普通にしていれば、何も問題ないのだけれど、ね」

楠木教官がウインクをする。

「普通・・ですか、なるほど」


俺は何となくこの教官は信用できそうな気がした。

・・・

「あ、楠木教官・・」

「何?」

「そういえば、先程私で2人目だって言ってましたよね」

楠木教官が少し目線を上にしてから俺を見る。

「あぁ、坂口君のことね」

「坂口・・さん?」

「そう・・私が言うのもなんだけど、とてもカッコいい男ね。 それに強いのよ。 性格もいいし・・」

楠木教官が指を顎に当てて考えている。

おい! 

それって完璧じゃねぇかよ!

「でもねぇ・・心を許せるかって言われると、難しいわね」

女にそこまで言わせる男っているんだな。


「教官が言うくらい強いのですか?」

「うん・・おそらく内閣調査隊でトップくらいに位置すると思うわ。 ま、強さだけなら他にもいるけど、人間性も含めると、彼ほどの人はいないんじゃないかな・・って、余計なこと言ったわね。 内緒よ♡」

ドッキューン!

この教官の悪魔的な仕草に俺のハートは撃ち抜かれている。

この人、おそらく何でもこの仕草で相手にOKと言わせるんじゃないか?

も、もしかしてスキルか?

『ハヤト様、スキルではありません』

ベスタがしっかりとフォローしてくれた。

いいタイミングだな、おい。


「わ、わかりました。 ありがとうございます。 これからよろしくお願いします」

俺は取りあえず頭を下げる。

楠木教官が俺を見て何かを思いついたようだ。

「そうそう、まだ聞いてなかったわね。 村上さんって何歳なの?」

「え?」

俺は意表をつかれた。

まさか、このタイミングで年齢?

何故?

理由はともかく、答えても別に問題はないっていうか、俺の契約書に書いてただろ?

見てないのか?

「えっと、・・36歳です」

「えぇぇぇ!!」

楠木教官が驚く。

今日一番の大きな声だった。

いや、そんなに驚かなくてもいいだろう。

「す、す、すみません・・私ったら失礼な言葉ばかり使ってしまって・・その・・」

「教官、別にいいのです。 私って、年齢など本当に気にしませんから」

「で、でもぉ・・」

楠木教官が妙にクネクネしている。

何かの病気か?

「そ、それでは、こちらこそよろしくお願いします」

楠木教官が改まって挨拶をしてきた。

「きょ、教官、やめてください。 私が後輩なんですから、先程までと同じように接してください」

まさか、たかが年齢だけで態度を一変させると、妙に違和感を感じる。

まぁ、それはそれでしっかりと教育されてるんだなとも思えるが。

俺的には、年齢が上の人は誰でも尊敬している。

それは、生物としては自分よりも長く生きているということに対する敬意だけだが。


「わかりました。 では、村上さん、これからよろしくお願いしますね」

「はい」

楠木教官の悪魔的な笑顔が戻っていた。


〈世界情勢〉


現代の文明レベルを維持するには、現行の社会システムがベターだということは、誰でも理解しているだろう。

だからこそ大きな戦争などは起きていなかった。

レベルに目覚めた当初、諸外国で暴走があった。

日本も、もしかしたら危なかったのかもしれない。

『力』と思えるレベルを手に入れて、まるで超人のような感覚になったのだろう。

制御できない輩などが、最悪、核を使用した。

他国に向けては発射しなかったが、自国にピンポイントで発射などをした。

政治家などの権力者が気に入らない連中のいる場所や情報の誤誘導で集められた連中を一挙に倒すためなど、理由はいろいろある。

その暴発も一時的なものとなっていた。

今は逆に妙に世界は静かだ。

他国に情報が漏れないようにしているのかもしれない。

ただ、世界人口は間違いなく減少しただろう。


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