第55話 そんな認識だったの?


「え~、お待たせいたしました。 それではこれより、皆様の適性区分を発表致します。 区分割に納得できなければ、すぐに申し出てください。 また、試しに活動してみて、やはり合わない場合も同じように申告お願いします。 では、検査を受けた教官のところに整列してください」

アナウンスを聞きつつ、みんな案外素直に指示に従って整列していく。

どうやら教官の強さを肌で感じたらしい。

我流の力の限界を知ったというところだろうか。

俺のグループには面接をしてくれた渡辺教官と、楠木教官が2人で立っていた。

渡辺教官が、紙を見ながら説明をする。

「え~、今日はお疲れ様でした。 素養検査の結果ですが・・」

・・・

・・

俺の配属部署は、ダンジョン攻略ではなかった。

何でもダンジョン素材を扱う部署らしい。

俺は別に不満はない。

後は夕食まで自由時間が与えられた。


時間は15時過ぎ。

会場で解散となり、その解放感から一斉にザワザワとした雰囲気となった。

後、夕食の時間には宿舎の前に整列らしい。

遅れた場合には罰が与えらえるとも伝えられていた。

皆、今度はきちんと時間は守るだろう。

そういったことも踏まえての素養検査だったのかもしれない。

ただ、俺は宣言通り、楠木教官に尋問を受けることになる。


俺は渡辺教官と楠木教官に連れられて、職員の接客室に案内された。

「村上さん、どうぞ座ってくださいな」

楠木教官が笑顔で席を勧めてくれる。

「は、はい・・」

俺の前に渡辺教官が座る。

おい!

そこは楠木教官が座るんじゃないのか!

俺は頭の中で突っ込む。

楠木教官は横で立って、両腕を組んでいた。

む、胸が・・。

俺は思わずロックオンしそうになった。

強引に視線を、渡辺のおっさんに戻す。


「村上さん、私たちを信用しろとはいいません。 ですが、あの楠木教官を吹き飛ばしたのは・・あなたの力ですね」

渡辺が真剣なまなざしで聞いてくる。

俺は即座に、ベスタですと頭の中で返答。

だが、言えるはずもない。

ナビゲーションシステムがそんな機能を備えているとは、誰も思ってもいないだろう。

だから俺は素直に答えることにした。


「・・はい・・その通りです。 実は、私のレベルは27です」

ここでも俺は嘘をつく。

実際はレベル31だが、さすがにそれは言えないだろう。

俺が今まで接してきた中で、そんなレベルはいない。

最高でもレベル25か26辺りだったと思う・・自信はないが。

俺の返答に楠木教官は固まっていた。

渡辺教官も俺を見つめたまま動かない。

・・・

しばらく沈黙が続いたが、渡辺教官が楠木教官をゆっくりと見上げる。

そして、またゆっくりと俺を見る。

「な、なるほど・・おそらく内閣調査隊の最高位レベルです。 どうしましょう・・」

渡辺教官が言う。

いやいや、どうしましょうって・・こっちが聞きたいのですが。

俺は言葉を出せずに、渡辺教官と楠木教官を何度も交互に見ていた。


楠木教官が両腕を解く。

「渡辺さん・・どう報告します? あまりにも衝撃的な事実ですよ。 だからと言って、私たちで持ち合う情報ではないし・・」

「えぇ・・僕もそれを考えていました。 素直に報告しますか・・」

「そうね、その方がいいわね」

教官たち、何か投げやりだな。

楠木教官が微笑みながら俺を見る。

「それにしても、私の知る限り・・2人目ね、村上さん」

「え?」

俺は完全に呆けていた。

「あなた、ギフト組でしょ?」

「ギフト組?」

俺は同じ言葉をつぶやく。

「知らないのね・・あなた、あの天の声でレベルに目覚めたタイプではないでしょ? それ以前から発現していたタイプのはず・・」

楠木教官が俺を探るような目で見つめる。

俺は返答できなかった。

事実だからだ。

でも何か反応はしなきゃいけない。

だが、正直に答える必要もないだろうと思う。

まだ自分にとって、この人たちが敵になるのか味方になるのかわからない。

それにこの世界、日本だってどうなるかわからない。


「い、いえ・・私も、あの天の声でレベルが目覚めたタイプですよ」

俺の言葉に教官たちは全く信用していない目線だ。

「ほ、ほんとですよ・・ただ、私は発現してから寝る間も惜しんでレベルを上げました。 ダンジョンなんてものが近くにあるものですから、ほんとに一日中トライしてました」

・・・

相変わらず信用していない目線で俺を見る。

「フフ・・村上さん、どうやってダンジョンを見つけたの? どこにでもあるわけじゃないし、そりゃ探っていればそのうち見つかるでしょうけど・・」 

楠木教官が俺を試す。

「え? 初めにあったスキルにナビゲーションシステムってありませんでした?」

俺はとぼけて答える。

確か、このシステムは誰でも発現するはずじゃなかったのか?

その後は枠を2つも占有するので、ほとんどの人が他の有効なスキルに変更するようだが。

「は?」

「へ?」

渡辺教官と楠木教官が少し驚いていた。

お互いの顔を見合わせる。

「あれって、チュートリアルなんでしょ? すぐに自分に合ったスキルが発現してくるから、みんな変更してるし・・使い捨てスキルって聞いたけど・・」

「えぇ、僕もその認識で合ってます・・違うのですか?」


「え?」

逆に俺が驚いた。

そんな認識になっているのだ、と。

レベルが上がって来ると、とても重要なスキルなんだが・・!!

そうか!

レベル20位を超えないと変化しなかったっけ?

う~ん・・よく覚えていないな。

ただ、そこまでみんなレベルアップできてないし、他者よりも優位に立ちたいならスキルを変更するよな。

俺は勝手に推測。

「えっと・・そのスキルを持った時に、ダンジョンの位置なんかを教えてくれましたよ」

俺の返答に教官たちは何やら考え込んでいる。

「そうだったんだ・・」

「なるほど・・」

・・・

・・

「了解。 わかったわ、村上さん。 ま、これからよろしくね」

楠木教官が握手を求めてくる。

俺は遠慮なく両手で教官の手を握り返した。

楠木教官は少し驚く。

「村上さん・・ちょっとキモイわよ」

笑顔のままディスられる。

「す、すみません」

俺も慌てて手を離し、ペコペコと頭を下げた。

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