第52話 素養検査
間もなく、田中が壇上に現れた。
マイクに向かって話しかける。
「注目! 諸君、これから素養検査を受けてもらうが、まずは1人1人と教官が面接をし、その後、軽く組み手を行ってもらう。 それで大体の人物調査が終わる。 こちらの教官たちはみんな相手の素養を見抜く能力を持っているからな。 君たちも遠慮なく行ってくれたまえ」
田中はそれだけ言うと壇上を降りる。
すぐに素養検査が始まる。
教官たちは20人くらいいるだろうか。
俺達はそれぞれ均等に分けられて教官の前に列を作る。
1人1人、何やらいろいろ話をしている。
笑い声などが聞こえてくるところもある。
まずはそれぞれが会話による面接のようだ。
・・・
俺の順番が回って来た。
俺はベスタに話しかける。
「ベスタさん、本当に大丈夫だよな? 俺のレベルがバレると、結構面倒なことが起こりそうな感じがするぞ」
『ハヤト様、問題ありません。 バレるはずがありません』
結果は確かにバレなかったが、マークがついたのは間違いないだろう。
「村上さん、どうぞ」
面接官が笑顔で俺を迎えてくれる。
俺はその指示に従って面接官の前に座る。
「内閣調査隊へようこそ。 面接を対応させていただきます渡辺です」
渡辺と名乗る面接官が丁寧に挨拶をしてくれた。
「は、はい。 私は村上 隼と言います。 よろしくお願いします」
俺の返答を笑顔を崩すことなく聞いてくれる。
「え~と・・皆さんに同じ質問をしているのですが、村上さんの入隊希望動機は何ですか?」
渡辺が聞いてくる。
「はい、個人では入れないダンジョンなどに行けるということで入隊を希望しました」
「ふむ・・調査隊の成功報酬はご存知ですか?」
「はい、魔物を倒した戦利品の2割が出来高となると聞いております」
「えぇ、その通りです」
渡辺がそう答えると、少し前のめりになって俺に話しかけてくる。
「村上さん・・あなた、レベルが高いですね」
俺はドキッとした。
渡辺はその仕草を見逃さない。
ニコッとすると話を続ける。
「ご心配なく・・個人の情報は漏らしません。 ただ・・他の人にも普通に気づかれると思いますよ」
俺はすぐに言葉が出て来なかった。
少し間をおいて返答する。
「・・ほんとですか?」
ただ、その言葉を出した瞬間、俺はやられたという感覚に襲われた。
つまり、俺は試されていたんだ、と。
「はい」
渡辺がゆっくりとうなずきながら微笑む。
俺は少し警戒しながら言葉を続ける。
「渡辺さん・・私のレベルですが、23なのですよ」
今度はこちらから自分の情報を提供してみた。
俺が見た、渡辺のレベルと同じだ。
今度は渡辺が少し驚いていた。
「それはそれは・・私と同じようなレベルですね。 なるほど・・私などはなかなか苦労してこのレベルになったのですが、村上さんは個人で到達しておられる・・脅威です」
・・
こりゃ、俺が何を言っても地雷を踏んでるような感覚がある。
ダメだな。
それからは他愛ない会話を済ませると、次の検査の組み手まで休憩しておいてくれと言われた。
特に大した会話はしていないが、渡辺はそういった分野のプロなのだろう。
俺とのやり取りで、俺にはわからない情報を取得したに違いない。
「ベスタさん・・あの面接官、完全に俺にフラグを立てたよな?」
『問題ありません。 ハヤト様の情報は、何も得られなかったと思います』
・・・
ベスタさん、自信過剰って言葉、知ってる?
だご、考えてももう終わったことだ。
俺は次の組手のことを考えていた。
1時間ほど待たされただろうか。
面接した教官たちのところへ集まって行く。
教官が俺達を見渡すと話しかけてきた。
「お待たせいたしました。 次は組手といいますか、模擬戦といいますか、こちらの教官と戦っていただきます。 もちろん、各自得意な武具を使用してもらって構いません。 まぁ、殺傷能力のあるものは用意していませんが、そこに並んでいる武具をよければ選んでください。 こちらも遠慮なく使わせていただきますから」
面接した教官の横に、艶やかな黒髪のスレンダーな女性が立っていた。
まだ20代半ばだろうか。
その微笑みは、何ともエロい妄想を抱かせてくれる。
胸も大きくはないが、しっかりと強調している。
中田よりもいい体型だなと俺は思って見ていた。
「模擬戦を担当する
!
おぉ、何て色っぽい声なんだ。
そのスタイルといい、男なら誰でもお願いしたくなるぞ。
魔物?
こっちの魔物が目覚めそうだよ。
実際、前のめりになっている奴は・・いないな。
俺がそんなアホなことを考えていると、違うグループのところが賑やかになっていた。
1人の弓矢を持った、若い青年? が微笑みながら立っている。
そのすぐ近くに、明らかに怯えながら尻餅をついている男がいた。
・・・
「すげぇ・・」
「いったい、いつの間に攻撃したんだ?」
「かっこいい・・それに可愛いわね♡」
「教官だわよね?」
・・・
何か黄色い声援と称賛の声だろうか、聞こえてきた。
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