第51話 クンフー


<中国>


国家主席の下、よく人民は耐えたものだ。

この世界システムが暴走を抑えているのかもしれない。

この国には、多くのダンジョンが存在している。

当初は、レベルの発現者が集められ訓練を重ねていた。

ダンジョンの攻略も初めは思うように進まなかった。

だが帰還すれば、何かを持ち帰って来る。

諸外国の情報などと合わせると、どうもレア素材らしい。

レベルのあるものが持てば、木のようなものが鋼鉄の強度を出したりする。

素材を加工すれば、今までにはなかったようなものも出現した。

ただ、ある程度レベルのあるものしか加工はできないが。


そんな状態が半年続き、ある日突然、誰にでもレベルが付与された。

国家元首以下、そのレベルの活用を協議。

レベルの先行者には、すぐに追いつくことはできなかったが、近いところまでは基礎訓練をすれば到達できることが証明される。


この国家元首、クンフーを幼少時から習得しており毎朝の日課にしていたほどだ。

ただ、それを知っている者は側近中の側近だけだったが。

それが功を為したのか、ダンジョン攻略にも喜んで参加。

名前はそのままで、正体は隠していた。

案外、攻略組の中では人気があった。

面倒見がよく、的確な指示を出す。

だが、決してリーダーにはなろうとはしない。

それが奥ゆかしさを感じさせたのかもしれない。

攻略組の1人が気軽に言葉をかけていた。

チュンさんのクンフー、本当に無理がないですね。 私もその境地までたどり着きたいものです」

チュンは軽くお礼を言うだけで、返答はしない。

まさか現役の国家元首がこんな攻略組にいるとは、誰も想像しないだろう。


国家元首はレベルは22まで成長。

側近の中には、自分が直接は動かずに、魔物のとどめだけをしてレベルを上げるようなものもいた。

それが本来のの在り方なのだろうか?

チュン先生、今朝のクンフーはいかがでしたか?」

国家元首、中主席の側近がお伺いを立てる。

「うむ・・やはり人というのは身体を動かすのは良いことだね」

「それは中先生だからこそです。 先生は幼少の時より、お身体の鍛錬を怠ったことはないと聞きます。 その修練の成果が今の中先生の存在を作っているのです。 私などにはとても及びません」

側近は忖度そんたく全開だが、事実、鍛錬を怠ったことはない。

ハク君、前に集めたレベルのある者たちはどうなったのかね?」

・・・

ハク側近は少し言葉に詰まってしまった。

自分の言葉が聞こえていなかったのか?

全く予想していない言葉が返ってくる。

「え、えぇ・・実は・・今残っているのが5名となっております」

「・・なるほど・・」

中主席は一言発言すると、何か考えているようだ。


しばらくして、中主席が口を開く。

「今残っている者たちを、我が党の幹部に採用してあげたまえ。 そして、ダンジョンの攻略に力を入れさせよ。 戦利品はとても貴重な品となる。 後、暴走した軍の連中の処分は終わったのかね?」

白側近はうなずくとおそるおそる言葉を出す。

「はい・・恐れながら・・数名が逃亡いたしました。 今、所在を確認中です」

「白君・・我が国民に不安を与えてはいけない。 一刻も早く確保、処分するように」

「は、はい」

中主席は、本気で国民の心配をしていた。

自分のために。


軍の暴走・・レベルが発現し、世界に先立って軍が暴走。


レベル先行者たちが戦い、とにかく沈静化はできた。

ただ、核爆弾を使用した地域もある。

貴重なレベルのある者たちが消えた。

核などを使いおって・・惜しいことをした。

核に勝てる生物などいるはずがない。

ジョーは耐えたようだが、知るはずもない。


「白君・・これからは、我々が世界の秩序を整えていかなければいけない。 そういえば、ハツ君の姿が見えないようだが・・」

中主席が白を見つめる。

「は、はい・・彼はダンジョンに潜っております」

「おぉ、そうだったな。 彼は我が国が誇るレベル高位者、ドンドン頑張ってもらわねば」

中主席は満足そうにうなずいていた。 


<ハヤト>


俺達は体育館のような講堂と言えばいいのだろうか、室内の大きな空間がある場所に集められていた。

ザッと150人くらいはいるだろうか・・俺の感覚だ。


本当にいろんな人が集まっているな。

俺が結構年配者に入るのかと思っていたら、そうでもなかった。

案外目立たないかもしれない。

あのおっさんなんて、もう60歳くらいじゃないのか?

それにこっちの若いのは、まだ学生じゃなかろうか?

女の人もいろいろいる。

俺が勝手に人物鑑定などしていると、ベスタが話しかけてきた。

『ハヤト様、緊張されずとも大丈夫です。 あなたがこの中では最強です』

・・・

いや、あのね・・別に最強なんてどうでもいいんだよ。

俺は自分が強くなりたかったから、なっただけだ。

「ベスタさん・・俺・・最強なんて称号はいらないのよ。 まずはこの集団の中で目立たないようにしたいのだけれど・・」

『了解しました、おまかせください』

ベスタが意気揚々と答えてくれる。

それがかえって不安材料になるのは気のせいだろうか。

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