第50話 事故


「ゆかり・・別に私は興味ないから・・」

ヤマトが表情を変えずに答えると、ゆかりがグイッと大きな胸を突き出して詰め寄って来る。

「またまたぁ~、そんなこと言って・・何でも坂口恭二って言って、これが武道の達人らしいわよ・・若いのに」

「若いのにって・・あのね、ゆかり・・私たちも若いわよ」

「あはは・・そりゃそうよ! だって半年前まで現役JKでしょ! って、そんな話じゃないわよ。 この坂口って人だけど、素養検査でレベルがわからなかったんだって」

ヤマトがゆかりを見つめる。

「・・それって・・本当?」

「お! ヘキッち・・やっぱり興味があるんじゃない」

「べ、別にそういう興味じゃないわよ・・レベルがわからなかったって・・」

「うん、そうなのよ・・私も聞いた話を集めてるだけだけれど、検査した教官よりも強いっていうし・・それがレベルによるものか、その人の能力のよるものかが判別できなかったらしいのよ。 詳しくはわからないのだけれどね」

ゆかりがまるで見てきたかのような話をする。

ヤマトは聞きながら考えていた。

もしかして、私と同じように最初に能力が目覚めた人かもしれない。

そして、すぐに順応していった人・・。

・・・

・・へ・・

ヘキ・・

「ヘキッち!」

「あ、あぁ・・ごめん、ゆかり・・少しボォーッとしてたわね」

「どうしたのよ・・疲れてる? ・・あ! もしかして、やっぱ気になってるとか・・」

「ち、違うわよ!」

「そうやってムキになるところをみると・・怪しいわね。 よし、私に任せなさい! 私が会わせてあげるわ・・いや、私が狙おうかしら・・」

ゆかりとヤマトの会話は盛り上がる。


<アメリカ>


空気に重さがあるのだろうか。

ズーンと重そうな雰囲気だ。

カタカタとキーボードを叩く音が聞こえる。

特に会話が聞こえてくる感じはない。

だが、人は結構いるようだ。


小綺麗な机に両肘をつき、まっすぐに前を向いている男がいた。

何やら考えている感じだ。

その男のところにヒップアップのお尻をゆっくりと振りながら近づいてくる女性がいる。

肩口まである金色の髪を優しく揺らしていた。

女性が机の前に来ると、男は顔を上げる。

「どうしたんだ、ジェニファー」

ジェニファーを呼ばれた女性が微笑みながら答える。

「キース・・ジョーの居た場所だけど、何も残っていなかったらしいわ。 生物の痕跡もなかったそうよ」

キースは目を閉じると軽くうなずいた。

「そうか・・確か大きな事故・・いや、軍が核ミサイルを撃ったという話も聞く・・そうか・・誰もいなかったのか・・」

一瞬、ジェニファーが不審そうな顔を見せるが、すぐに元の微笑みになる。

「・・ジョーのことが気になるの? 親友だったものね・・」


ジェニファーは何も知らないようだ。

その事故を起こした張本人が目の前にいるということを。

キースは椅子に深く座り直して目を閉じる。

少しして口を開く。

「ジェニファー・・よく調べてくれた。 ありがとう」

ジェニファーは目を大きくした。

まさか、キースの口からありがとうという言葉が出るとは思ってもいなかった。

「キース・・あまり気を落とさないでね」

ジェニファーはそう言うと、机から離れていく。

「ふぅ・・」

キースは大きくため息をつく。


ジョー・・君は良い友人だったが、力を見せすぎたのだ。

まぁ、今となっては誰でもレベルがある世界になってしまったが。

君のおかげで僕も迷わずにレベルの使い方がわかる。

君には感謝しているよ。

だがね・・君のような純粋な正義感を持った人間では、人のシステムは生きていけない。

君の代わりに僕がこの国をまとめよう。

それが君に対するお礼というものだろう。

僕が作る国づくりに、君のような特別な存在は必要ない。

出来上がった国を見せることはできないが、アメリカは誰もが強い国になる。

皆が弱すぎず、強すぎず、個人個人が他国からの脅威に怯えない力を手に入れる。

それがまとまる強い国になる。

・・

見ていてくれ、ジョー。

君の犠牲は無駄にはしない。


キースは微笑みもせず両肘を机につき、組み合わせた両手の上に顎をのせる。

どこを見るともなく、遠くを見つめる目線で事務所の中を見つめていた。


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