第49話 偶然?
俺はラフな服装で8時15分には宿舎前に出てきていた。
数は少ないが、この時間に外に出てきている者もいる。
俺が壁を背に立っていると、近づいてくる人がいた。
おそるおそる近づいてくる。
俺の視界に入ったので、ゆっくりと顔を向けた。
若い男の人だ。
「す、すみません・・1人でおられたもので、声を掛けさせてもらいました」
若い男の人が俺の前に来て頭を下げる。
「あ、はい・・」
「あの・・あなたも希望されて入隊されたのですか?」
若い男の人が聞いてくる。
「えぇ、まぁそうですけど・・」
「そうですか・・あ、僕は大橋といいます。 よろしくお願いします」
大橋と名乗る男の人が丁寧に接してくる。
俺を見て、年齢とかが気にならないのかな?
俺は少し不思議に思うが、放置。
悪い感じはしない。
「あ、私は村上といいます、こちらこそよろしくお願いします」
俺も慌てて挨拶を返す。
大橋はニコッとして話し出す。
「村上さん、先程の揉め事ですが、投げ飛ばした隊長さん? 凄かったですね。 手首を掴んで瞬殺ですよ」
「え、えぇ・・私も驚きました。 何せ、いきりがっていた連中がすぐに地面に倒れていたのですから・・それよりも大橋さん、よく見えましたね」
俺は少し驚いていた。
あの隊長の動きをしっかりと見れていたのだと。
「え、えぇ、まぁ・・僕、ゲームとかでシューティングが好きなので、そういった動きを把握するのが得意みたいなんです」
大橋が笑顔で話してくる。
・・・
嘘だな。
俺の頭には即座にその言葉が浮かんだ。
レベル22、大橋のレベルだ。
こいつは油断ならない相手のようだ。
その素振りでは大したことはない優男の雰囲気だが、レベルが物語っている。
自分を鍛えるのが趣味か、サイコパスか、とにかくレベル的には強いのは間違いない。
・・・
大橋と適当に会話をしていると、集合時間となる。
先程、若者たちを投げ飛ばしたおっさんが現れた。
皆を見渡しながら話す。
「集合時間に集まるのはいいことだ。 それにしても・・まだ集まってない連中がいるのか・・やれやれ・・」
おっさんが頭をかきながら一呼吸置く。
「先程も言ったが、俺は内閣調査隊の田中だ。 一応申告しておくが、レベルは23となっている。 君たちには嘘は言わないつもりだが、相手の言うことを鵜呑みにしないように。 今日の予定だが、午前中は君たちの素養検査となる。 午後は君たちの希望と検査結果から部署が決まる。 そこでどうしても合わなさそうなら、除隊も可能だ」
田中の言葉に少しざわついていた。
「うむ・・君たちの言いたいことは大体わかるつもりだ。 確か、1年は除隊できないってあったはずだ・・・あれは方便だ。 まずはその覚悟を持って入って来てもらわないと、後が困るからな。 実際に命の危険を伴う職場だ。 無理強いはできない。 そんなわけで今日でさよならの人もいると思うが、最後まで規律は守ってくれ、以上だ」
田中がそう話すと、鈴木が出て来て俺たちを素養検査場所へと案内してくれた。
◇
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「ねぇねぇヘキッち、ヘキッち・・私たちの部隊にイケメンかつ、いい男がいるの、知ってる?」
工藤ゆかりが日置大和ににこにこしながら話しかける。
少し前のことだ。
ヤマトが訓練から帰って来ると、新人隊員が集まっていた。
定期的に新人隊員が送られてくる。
ヤマトは、転校という形で内閣調査隊に派遣された。
旧家のつながりで、国の出先機関などと調整して、個人の経歴などどうとでもなる。
高校卒業程度の単位は取得出来ていた・・という設定だ。
この内閣調査隊の新人訓練機関で日置大和は活動をする。
それが評価されるのだそうだ。
もっとも、その国自体がどうも怪しいのだが、難しいことはわからない。
ヤマトは家名を守るということにこだわりはないが、やはり親から受けた恩というか、今までまともに育ててもらっていた。
他者から見ればどうかわからないが。
とにかく、そのことは常々感謝している。
だからこそ親の意向を無下にしたくない。
それに学校でいても、自分はどうも馴染めそうもないのも事実だった。
毎日、勉強と弓術の繰り返し、普通の女の子のような浮ついた話に興味がわかなかった。
そんな中、この部隊で活動することになった。
すると、新人が集まっている中に見知った顔があるではないか!
工藤ゆかり、先日までいた高校の弓道部員だ。
ヤマトは驚いた。
聞けば、高校でも才能がある人たちは飛び級やら調査隊やら冒険者などで活動しているようだ。
この半年の間に変われば変わるものだ。
これを自由というのだろうか?
弓道部の清水部長はそのまま大学へ進学し、サークルで冒険者をやっているという。
神楽君も調査隊に入ったらしいが、どこの部隊に配属されたのかはわからない。
ただ、工藤ゆかりだけが日置大和の部隊にいた。
偶然なのだろうか?
とにかくヤマトが驚いたのは間違いない。
◇
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