第46話 移動


<ハヤト>


俺は久々に暇を持て余している。

いや、言葉が悪いな。

内閣調査隊の入隊までの時間待ちだ。

こういった時間は久々の感覚だった。

毎日同じことの繰り返しでも、何かのために待つというのはなかった。

妙に新鮮さを感じる。

だが、寝ているわけにもいかず、ダンジョンを攻略してレベルを上げていた。

なかなか上がらないが。


また、テレビなどニュースもよく見るようになった。

トップニュースはレベルに関しての知ったか解説ニュースが多い。

それに強烈な事件などの報告もある。

夜遅くのニュースで、俺の記憶が正しければ1度くらいしか流れたことがないものがある。

何やら『ギルド』なる組織が出来つつあるというものだ。

個人規模で勝手に情報をやり取りするものらしい。

それが世界でネットワークを形成しつつあるという。

現代社会が異世界設定に近づいてきたような気がしたが、気のせいか?

ただ、それ以降はそんな情報を聞くことはない。


さて、入隊の日が来た。

俺が入隊手続きをした事務所に集合する。

時間は7時だ。

俺は少し驚いていた・・結構人が集まっていることにだ。

ざっと見て20人くらいはいるんじゃないか?

俺的には4~5人くらいかと思っていた。

まさか同地域という狭い範囲でこれだけ集まるのだな。

それだけ職がないということか。

俺は勝手に推測していた。


友人同士で参加したのだろうか、まるで遠足気分の若い連中もいる。

「・・俺達、今日から内閣調査隊の隊員なんだよな?」

「いや、既に隊員だ」

「あはは・・そうだよな・・」

「こんなに人がいるとはな・・」

「あぁ、女の子もいるし、おっさんもおばさんもいるな・・」

「ま、俺達も負けないようにしないとな・・」

「あはは・・何競ってんだよアキヒロ。 人は人、俺達は俺達だぜ」

・・・

・・

しばらく他愛ない会話を聞いていたが、1人の男の声でみんなが静かになった。

「おはようございます。 皆様、よくぞ集まってくださいました。 内閣調査隊の鈴木です。 これからバスによる長距離移動となります。 少しご不便をおかけしますが、よろしくお願いします」

鈴木が軽く挨拶すると、バスに乗車となった。

皆、特に疑いもせず、バスに乗り込んでいく。

バスは長距離移動用の路線バスを借り上げたのだろうか。

座席が個人個人に与えられている。

椅子の周りにはカーテンが引かれており、プライベート空間は確保されていた。

背もたれもフルフラットになるらしく、プチ高級感を味わうことができた。

俺以外の乗客? 隊員? たちもうれしそうに騒いでいた。


「え~、これから10時間ほど、高速道路を移動となります。 各自ゆっくりとくつろいでください」

鈴木が一言声を掛けると、皆自然とリラックスモードのようだ。

・・・

なんか、修学旅行のような雰囲気を思い出す。


しらない間に眠りに落ちていたようだ。

気がつくと無事、目的地に到着したらしい。

ここまで寝ていられたなんて、俺って案外図太い性格なのかもしれない。

いや、バスの乗り心地が良すぎたのだろう。

とにかく内閣調査隊の任務が今から始まる。


俺達は鈴木の案内でバスから降りる。

結構広い駐車場だ。

鈴木がゆっくりと見渡しながら声を出す。

「皆様、お疲れ様でした。 ここは防衛省の敷地内になります。 ここで2ヵ月ほど訓練していただきます。 その後は各自の希望と能力に沿ってダンジョンに向かってもらう予定です。 よろしくお願いします」

鈴木の説明がまだ続くようだが、俺の前の奴等が発言していた。

「えっと・・鈴木さんでしたっけ? 俺達、仲間内で結構レベル上げて来たのですが、それでもまだ訓練を受けなければいけないのですか?」

一応は丁寧な言葉で話していた。

まぁ、ぶっちゃけ、自分たちは強いんだぞと言ってるようなものだな。

「はい、いくら強くても、ダンジョンは怖いところです。 一瞬ですべてが無になります。 訓練はし過ぎても、し過ぎることはありません。 それに皆さまも、既に調査隊の隊員になっております。 指示には従っていただきます」

鈴木はまっとうな発言をする。

質問した奴も、納得はできないかもしれないが、反論はしない。


鈴木はしばらく黙っていたが、言葉を出す。

「それでは、皆様の宿泊していただく施設へとご案内いたします」

鈴木の言葉に従って俺たちは移動する。

・・・

・・

どうやら自衛隊の隊員たちが使っていた施設を丸ごと1棟借り上げたみたいだ。

結構な人数が収容できそうだ。

俺達がその施設に近づいて行くと、窓から何人かが顔を出す。

なるほど・・他の地域からの調査隊員もいるんだな・・当然だ。

俺はそんなことを思いながら施設の中に入る。

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