第43話 こりゃ、何でもアリだな。


前田は微笑みながら言葉を出す。

「先輩方、シミュレーション仮説って知ってます?」

「「は?」」

先輩警官たちは呆けているようだ。

「な、何を言ってるんだ? 仮説?」

「シミュレーション・・? ゲームか何かか?」

・・・

・・

先輩たちは思いついた言葉を口にする。

前田は頭をかきながらニヤッとしてうなずく。

「いえ、何でもないっす」

前田の言葉を聞いているのかどうかわからないが、先輩たちは犯人を確保どころか殺害してしまったことに対する報告をどうするかで協議をしているようだ。


前田は思う。

レベルシステムの世界になった。

夢じゃない。

俺も学生時代からいろいろとそういった分野に興味があったから考えていた。

今の世界は創られた世界・・そりゃ世界は創られている。

だが、誰かの頭の中で作られた、いわばゲームの中の世界。

その世界に現実と呼ばれる物理現象を与えて、キャラを配置する。

後は中で勝手に世界を作らせて行く。

今の自分たちの世界でも、PCを使って同じようなことをしている。

実際、人という生き物は神様になりたいんじゃないのかとさえ思ったものだ。

だが、それを確認する方法はない。

・・・

疑問を持つことはできる。

宇宙には光を超える速度が存在する。

だが、自分たちの現実には光を超える速度は許されていない。

限界という世界の中にいる。

おかしいじゃないか。

なぜ限界があるのか。

それがこの世界の処理速度限界だと気づくことは難しくない。

そう考えれば、あの天の声・・この世界を創った奴か管理者か、そんな感じだろう。

そして、それが確実に実感された瞬間だった。


・・ま・・

・・・まえ・・

「前田!」

前田はハッとして、声の方を見た。

先輩が不思議そうな顔で見つめていた。

「前田・・さすがに犯人を斬ったのはこたえたか?」

「え? い、いえ・・少し考え事をしていたものですから・・」

先輩は笑いながら前田の背中をポンポンと叩く。

「まぁ良かったよ。 前田も一応は人間だな。 でも・・確かにあんな連中に情けをかけていたらダメだな・・これからは本気で改革が必要なようだ」

先輩たちの協議は終わったらしい。


前田は先輩の後ろを歩きながら深呼吸をする。

「ま、考えても仕方ない。 与えられた世界で俺たちは生きるしかない。 このレベルシステムを使って正義を執行してやる」

前田は独りつぶやく。

かつての何もできなかった、優しく弱い自分を思い出しながら。


<ハヤト>


中田と分かれて1か月が経過。

俺は相変わらずダンジョンを周回していた。

1人でレベルアップ、まさに作業だ。

そう・・中田と一緒にダンジョンを攻略していた時には、こんな妙な感覚は起こって来なかった。

寂しいとかつまらないとかではない。

何か物足りないような感じがする。

ダンジョンを攻略していると、確かに自分のためになる。

誰からも邪魔されない。

それはいいことだ。

なのに物足りない。

レベルは31になっていた。

ナビさんのおかげもあって、効率よく進めて行くことができたからだが。


ハヤト

レベル:31

HP :506/515

SP :510/520

力  :577    

耐久 :500  

敏捷 :596   

技能 :516   

運  :63   

スキル:ベスタ3

    神眼3

    プリースト2


看破が神眼に変わっていた。

相手をより深く見抜くことができるようだ。

嘘も見抜くことができるようになるという。

それにパートナーがベスタに変化。

これって確かローマ神話かなんかの女神の名称だったはず。

おまけに回復がプリーストになっていた。

これってスキルというより職種じゃね?


何でもアリのような感じになってきたが、とにかくたった3つしか選べないスキルだが、俺は自分でも凄いと思っている。

自分にしか自慢できないが。

・・・

それに、人に言えばどうなるか・・恐ろしい。

いくらレベルが高くても数の暴力には勝てないだろう。

そして確保されたら最後・・モルモット・・だろうな。

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