第42話 タガが外れているのはお前だけじゃない


「おや? 俺を撃つのかい? いいぜ・・でも、一撃で仕留められなければ、お仲間は死ぬぜ」

男の言葉に、警察官は迷っていた。

銃を発砲するのはいい。

本当に1撃で仕留められなければ、仲間は死ぬだろう。

だが、このまま見過ごすわけにもいかない。

それに、目の前の男がレベル20を超えていたら、自分たちの持っている銃では倒せない。

自分達のレベルも、まだ20に到達していない。

警察官は男に照準をつけたまま考えていた。

相手のレベルがわかればどうということはない。

だが、それは無理というものだ。

仲間が捕まったということは、同等かそれ以上のレベルの持ち主だろう。

銃が通用しないかもしれない。

複数人で取りかかれば確保できるかもしれない。

・・・

・・

いろいろと頭の中で考えが巡る。


「おいおい・・いい加減、銃口を向けるのはやめてくれるかな? あまり気分のいいものではないんだ」

男は警察官を盾に、落ち着いた口調で話す。

だが、内心はドキドキだった。

この警察官を確保してみたが、俺の方が少しレベルが上のようだ。

そして、この腕を振りほどこうとする力・・ギリギリだ。

おそらく全員で囲まれれば、俺はやられる。

ここは余裕を見せておかねばならない。

こういったハッタリは大事だった。

そして、そういった経験はたくさんしてきた。

男はさらに強く警察官の腕を捻じり上げる。

「ウグッ・・」

警察官からうめき声が漏れた。


「「お、おい!! やめろ」」

銃を構えた警察官から怒声が飛ぶ。

すると、その警察官の後ろから落ち着いた声が響く。

「先輩たち、いつまで従来の感覚を持っているんですか? こちらは4人もいるのに・・」

頭をかきながら一人の警察官が前に出てくる。

「お、お前は最近配属された・・」

銃を構えたままの警察官が言葉を出していた。


警察官を盾にしている男は目を大きくして後から現れた男を見る。

・・・

いったい、いつ現れたのだ?

今までこの確保している男を含めて5人しかいなかった。

気が付けば・・そう、気が付けば1人増えていた。

どういうことだ?

そんな男の目線を気にするでもなく、後から出てきた警察官が男と目を合わす。

「フン・・お前、レベル19か・・」

「な・・」

警察官の言葉に男は一瞬動揺した。

!!

その一瞬の動揺を利用される。

男がハッとした瞬間に、警察官を確保していた腕が切断されていた。

そのまま男は後ずさるように数歩後ろに下がる。

後から現れた警察官に突き飛ばされたようだ。


捉えられていた警察官に絡みついている腕を引きはがし、スッと背中を押して仲間の方へ押しやる。

「先輩、あちらへどうぞ」

片腕を失った男は、何が起こったのか理解できていない。

いや、わかっている。

自分の腕が切断されたのだ。

だが、いったいいつの間に・・。

ただ驚いた表情で目の前の警察官を見つめている。

「ハハ・・何を驚いているんだ? 単純にお前がしていたことと逆のことをしただけだが・・あれ? ちょっとやり過ぎたかな?」

「お、お前・・警察官がこんなことをしていいと思って・・」

片腕を失った男がそこまで言葉を出した時だ。

ズバン!

片腕を失った男は、頭から真っ二つに切断されていた。


警察官は倒れて行く男を見つめながらつぶやく。

「ったく・・いつまでも警察官を舐めるなよ。 タガが外れたのは、お前たちだけじゃない。 これからは貴様らのようなクズを処分してやる」

そのままクルッと背中を向けて、先輩たちのところへゆっくりと歩いて行く。

「お、お前・・」

救出された先輩警察官がオロオロとした様子で言葉を出していた。

「先輩、もうそんなことを言っている時代じゃなくなったのですよ。 やらなきゃやられるし、あんな奴を捕まえても、どこかでまた悪さしますよ」

「し、しかしなぁ・・」

先輩警察官が返答に困っていると、仲間が話しかける。

「君は、確か前田君だったね・・」

そこまで言葉を出しながら、頭をかいていた。

「う~ん・・どう報告すればよいものか・・」

先輩警察官たちは本気で悩んでいた。

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