第41話 レベル20


パリッとスーツを着こなした2人の人物が近づいてくる。

キョウジは家の前でその到来を待っていた。

1人は男でもう1人は女の人のようだ。

「あなたが坂口恭二さんですね」

男の人が笑顔で話しかけてくる。

「はい」

「私は政府によって立ち上げられた、内閣ダンジョン調査隊の岩渕と言います。 よろしくお願いします」

岩渕と名乗る男は握手を求めてくる。

キョウジも素直に握手を返す。

「坂口さん、単刀直入に伺います。 我々と一緒に、この国の力になってもらえませんか?」

岩渕の言葉に、ほんの少しキョウジは考えていた。

・・・

結局、力を持てばこうなるだろうことは推察できた。

ならば向こうが必要と思ってくれている時に売り込めば高く買ってくれるはずだ。

そこまで打算的な考えはないが、それに似たような感じをキョウジは持っていた。

やはり自分もどこかで俺TUeeeをしたいのかもしれない。

キョウジたちは、家の中に入って行く。


移動中にキョウジは二つ返事で応対していた。

横で、凛が少し驚いたような表情を見せる。

キョウジは優しく微笑み、凛の頭を撫でる。

「凛、兄ちゃんは問題ないからな。 これからは大きな組織で働くことになるだろう。 たまに帰ってくるから、母さんたちを頼むな」

凛は深くはわからないが、兄がどこかに行ってしまうのだけは理解していた。

「に、兄ちゃん・・凛が余計なことを言ったから・・」

「凛・・そうじゃないって。 これは兄ちゃんが行きたいんだ、きっと。 自分1人で頑張っていたけど、どこかで自分を表現したい気持ちがあったと思うんだ。 だからごめんな、凛」

キョウジが優しく凛に謝っていた。


キョウジに声をかけた男は少し戸惑っていた。

まさか即答してくるとは思っていなかった。

いろいろと条件を小出しにして誘うつもりだったが、何にせよ反対されずに助かったといったところか。

「坂口さん・・迷われませんね」

「えぇ、私個人では何をするにも限界がありますからね」

「なるほど・・いやね、正直言いますといろいろと条件を提示しなければ耳を傾けてもらえないかと思っていました。 ですが、それを即断なさるなんて・・ありがとうございます」

岩渕は頭を下げる。

「では、詳細をお話させていただけますか?」

岩渕のその言葉を聞き、キョウジの母が奥の部屋へ案内する。

・・・

・・

キョウジは政府に協力する代わりに、家族と生活環境の安全保証を確約させた。


<ハヤト>


中田は国の調査隊に入隊して行った。

基本、誰でも入ることができる。

基本給<15万円>があり、後は出来高次第だ。

国もそれほど財源があるわけではない。

最近までパンデミックで騒いでいたが、レベルシステムが発現してからは、妙に病気関連のニュースは聞かなくなった。


ただ、事件となると、今までのような生易しいものではない。

レベルの恩恵による戦いが繰り広げられる。

それは、まるでSF映画を思わせるシーンの連続だ。

車を素手で止めたり持ち上げたりする。

銃を発砲されても、倒れない人が存在する。

俺もそうだが。

しかし、その反動だろうか。

犯人? と呼ばれる現行社会のシステムから逸脱したような人物は、ほとんど生きて捕獲されることはない。


◇◇


<都内某所>


「おい、止まれ! それ以上抵抗するな! これが最後の警告だぞ!」

警察官が銃を構えて1人の男を囲んでいた。

男は焦る風でもなく、ゆっくりと両手を挙げる。

「全く・・1人を捕まえるのに5人かよ」

警察官たちは銃を構えたまま、油断することはない。

「そのまま動くな。 両手を頭の後ろで組め」

その指示に従い、男は頭の後ろで手を組む。

1人の警察官がゆっくりと男に近づいて行った。


頭の後ろで手を組んだ男の手首に手錠をかけようとする。

この手錠は特殊性で、レベル20くらいの人間では壊せない設計となっていた。

その手錠をはめようとしたその時、頭の後ろで手を組んでいた男が揺れた。

!!

次の瞬間、男に近づいていた警察官の片手首を掴み、捻じりながら警察官の後ろに立つ。

「おっと・・動くなよ。 お仲間さんが死ぬことになる」

男はそう言いながら手錠を手に持っていた。

「これか・・レベル20でも壊せないという手錠は・・すげぇものを開発したな」

男は警察官を盾に、言葉を出す。

「き、貴様、その警察官を放せ!」

警察官の仲間が、ありきたりな言葉を発する。

それに、構えた銃を今にも発砲しそうな雰囲気だ。

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