第39話 中田のこれから


「フフ・・まぁ抽象的なイメージだよ。 悪といっても時代によって違うし、根絶なんて不可能だろう。 でもね、今までにニュースや周りでもいただろう。 意味なく暴力を振るったり子供を殺害したりする。 今までの世の中は被害者が永遠に救われない、そんな社会だった。 加害者の人権を優先させていた。 そしてそんなクズどもを擁護する言葉遊びの連中・・そんな弱者をさらに虐げる奴等をこの力を持って消して行く・・言葉通りにこの世からな・・」

おじさんが言葉静かに言う。

俺は一瞬、背中が寒くなった。

「お、おじさん・・」

俺は小さな声でつぶやく。

「ハハ・・引いてしまったかな? まぁ、普通に生きていくよ、取りあえずはね…でもまぁ、ニュースとかで反社会の組織などが壊滅したなんて話が流れたら、俺だと思ってくれ。 それに、弱者といっても誰も彼もじゃないぞ。 ずるい弱者もいるしな・・」

おじさんは軽く微笑むと、静かに拳を握りしめていた。


俺はおじさんを見ていて思う。

この人は正義の味方みたいなものになろうとしているのだろうか?

だが、何か違うような気もする。

また、世の中のわるという連中もレベルがあるのは知っているはずだ。

そんな奴等こそ、このシステムを上手に使って行くだろう。

今はまだ表面化していないが。

それに、おじさんも言っていたが、人だけじゃなく動物などもレベルが上がっているという。

この連れている犬もレベルがあり、17という。

これには俺も驚いた。

人だけじゃなく、生き物すべてに注意しなければいけないのかもしれない。

まぁ、人が一番凶悪なのだろうけど。


それから少し今後のことなども話して、俺達はおじさんと分かれ、帰路についていた。

おじさんの家族のことは聞けなかったな。

まぁ聞いても仕方ないし。

しばらく無言で歩いていると、中田が俺を見ながら話しかけてくる。

「村上さん、本当にありがとう。 これで私も十分に生きて行けるわね」

俺は微笑みながらうなずく。

中田はレベル23になっていた。

「村上さん・・あのね・・あなたのおじさん、いい人だけど何か怖い感じがしたわ。 うまく言葉にできないけど・・何ていうのかな・・人がブレーキするところでアクセルを踏むみたいな感じがしたの。 あ、決して悪い方の意味じゃないの。 正義って言葉は嫌いだけど、あの人の信念というか、逆鱗触れたらヤバい感じっていうのかな・・」

中田もうまく言葉をまとめれないようだ。

「そうだなぁ・・俺もそんな感じがするよ。 あのおじさん・・もっと静かというか、存在感すら薄い人だったような気がしたんだけど・・あの姿が自然体だったのかな?」

「フフ・・とても活き活きとしていたわね。 まさか40歳を超えてるなんて思えない人ね」

中田の言葉に俺も大きくうなずく。

「それにね、あなたたちの話を聞いていて思ったの。 私、国の組織に志願してみようかと思うの」

中田がいきなり妙なことを言う。

「え? な、中田・・」

「うん、心配してくれるのはわかる。 でも、今の仕事もなくなってしまったし・・それにこのレベルなら、結構役に立ちそうじゃない?」

「そ、そりゃ・・な。 確かレベル20を超えたらランクB扱いじゃなかったか? それに、レベル30を超えるとA級とか何とか・・」

俺は記憶にある情報を言ってみる。

「そう・・なんだ。 そんなランク付けされているのね」

・・

中田、お前、そんなことも知らずに志願するつもりだったのか。

思わず心の中で突っ込んでいた。

「だ、大丈夫かよ、そんなで・・」

「大丈夫よ。 それよりも村上さんも入らない?」

中田が軽く聞いてくる。

「い、いや・・俺の頭には・・そんな選択肢はないな・・今のままで十分だよ」

「フフ・・あのおじさんと似てるのね」

中田が俺を見つめる。

「似てるか・・」

俺は自分をおじさんに重ねていた。

・・・

イメージできないな。

あのおじさん、ほんとに存在感なかったからな。


「中田・・無理に自分の居場所を探さなくてもいいと思うぞ」

「なによ~、そんなに私ってダメなのかな?」

「何言ってるんだよ、その逆だ。 俺から見れば凄い人間になったと思うぞ。 働き過ぎるなって言ってるんだ。 もっと気楽に生きるのもアリなんじゃないかと思っているだけだ」

「フフ、そうねぇ・・でも、私はそういう風に生きられないのかもしれない。 この半年、会社がなくなってから漠然とした不安が拭いきれなかったのよ。 でも、村上さんがこうやって傍にいてくれたおかげで助かったわ。 だから今度は私が何か人の役に立ちたいの・・直感だけどね」

中田、それってダメなパターンかも・・。

俺はそう思ったが、言葉には出さずにいた。

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