第38話 おじさん・・何言ってるの?


6階層に入るなり、俺達は一瞬でわかった。

俺はその場で自然と息を殺して静かにしている。

おじさんも同じように動いていない。

「ハヤト君・・」

おじさんが静かに言葉を出す。

「えぇ、わかっています。 この階層は、今の俺達では無理なようですね」

「あぁ、賢明な判断だ。 俺もそう思う」

俺とおじさんは同じ判断だった。

俺達は6階層入口までにして、一度外へ出ることになった。

魔法陣に触れると、すぐにダンジョン入り口に到達。


「ふぅ・・やっぱりおっさんにはしんどいな」

おじさんがホッとしたのだろうか、ニヤッとしながらつぶやく。

俺はおじさんを見ながら余計な言葉を出してしまった。

そして、言った瞬間に後悔した。

「おじさん、これだけダンジョンで活動できているのなら、国などが募集している調査隊に入ればどうですか・・って、すみません余計なことを言って・・」

「あぁ、別に謝ることじゃない。 ハヤト君が心配するのも無理はないよ。 何せ、俺はニート状態だったからな、アハハ・・」

おじさんはカラカラと笑っている。

そして話を続ける。

「ハヤト君、あの調査隊だが・・国民を守るために・・ってやつだろ?」

国が自国の安全のために設立した組織。

ダンジョンなどで魔物が落とす武具や魔石などが結構役に立つらしい。

それらを回収して資源にしている話があった。

フリーランスで活動する者もいるが、国という大きな組織になると、行動範囲や得られる報酬も大きいという。

国が管理し、一般人が入れないダンジョンもあるという。

それにレベルも上がりやすいそうだ。


おじさんは少し考えていたかと思うと話し出す。

「あんなのはロクなものじゃないだろう」

「「え?」」

俺と中田は目を合わせておじさんを見つめる。

「なんていうのかな・・今は個人が力を持つようになっているだろう? それこそ国などに属さなくても安全を守れるくらいに・・そうなられては国としては困るわけだ。 だからある方向性を向かせて便宜を図り、自分の存在が他者のために役立っていると思わせる・・頭のいい官僚たちが考えそうなことだよ」

おじさんが珍しく、多く言葉を出している。

いや、もともとこういう人だったのかもしれない。

俺は改めておじさんの言葉に耳を傾けていた。

おじさんの話は続く。

「・・官僚たちって、俺たちが考えていることくらい把握済みだよ。 頭のいい連中が集まって計画しているんだろ? 悪だくみ以外にないぞ。 それに足がつくようなことはほとんどないだろう。 例えば俺達みたいなのをコントロールして、自国を守らせ、他国からの抑止力に考える。 ついでに人助けもさせて国民の注意を向ける。 まるで英雄扱いだ。 自分たちには決して注目をさせることはなく、うまい汁だけは確実にいただく。 それに、そういう存在が現れ始めているだろう?」

おじさんの言うように、確かにそんな存在を知らせるようなものがある。

確か、最近ランク付けをしたとか言っていたが。

俺は、アメリカなどの英雄に対抗するためと思っていたが、もっと深い意味があるのだろう。

「とにかく、俺はごめんだね。 国の組織に10年ほどいたが、中でいれば最高だよ。 だがね・・おっと、余計なことを愚痴ってしまったな」

おじさんが頭をかきながら苦笑いしていた。


「い、いえ・・いいんです。 じゃあ、おじさんはこれからどうするんですか?」

おじさんは自営業で何とか生活しているイメージしかなかったからな。

・・・

・・

「・・笑わないで聞いてくれるか?」

少しの間をおいて、おじさんが真剣な顔で言う。

俺と中田は黙ってうなずいた。

「実はな・・レベル30を超えたならって、考えていたことがあるんだ」

子供がとても興味深いものを見つけたような感じで、おじさんが話す。

「この世の中の『悪』という存在を消す」

俺は驚いた。

いったい、何を言ってるんだこの人は?

俺は言葉を出せずに中田を見る。

中田も驚いているようだ。

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