第37話 獣王?


魔法陣に現れた人の姿がゆっくりと歩き始める。

迷うことなく俺たちの方に近づいてきた。

瞬時に俺たちに気付いたのか?

さすがこの階層に来られるだけはある、それにどうやら一人のようだ。

・・

いや違う。

足下に犬がいるようだが・・。

近づいてくる男の人が少し顔を突き出して俺たちを見つめる。


「・・あれ? もしかして、ハヤト君かい?」

俺は声を聞き、少し戸惑っていた。

聞いたことのある声だ。

だからこそ返答に少しのタイムラグがあった。

「・・おじさん? ハジメ・・おじさんですか?」

俺の返答を聞くと、ニコッとしておじさんが勢いよく近づいてきた。

おじさんって、こんなに活発に動く人だったっけ?


ハジメおじさんが俺達の前に来て、屈託のない笑顔で話しかけてきた。

「やっぱりハヤト君だ。 どうしたんだい、こんなダンジョンにって・・レベル上げに決まってるよな?」

おじさんは俺に握手を求めてくる。

俺もおじさんの手を握る。

おじさんはスッと俺から目線を移動し、中田を見た。

「こんにちは、俺はハヤト君のおじで、村上一といいます。 よろしく」

おじさんは中田にも握手を求めていた。

「よ、よろしくお願いします」

中田の返答を聞くと、おじさんが話しかけてくる。

「ハヤト君の彼女かい? 美人だねぇ・・」

おじさんが顎に手を当てながら品定めをするように中田を見ていた。


「い、いえ、違います。 俺の前の職場の同期です」

俺は急いで答えた。

「ま、どうでもいいさ」

か、軽いな、おじさん。

『ハジメ、ワシを放置しておるぞ』

犬がベロを出して、ハッハッハと言いながらハジメおじさんを見つめている。

「あぁ、すまないポチ。 この男の子、俺の甥っ子なんだ」

おじさんが犬に向かって言葉を出していた。

俺と中田は驚く。

中田と目が合うも、言葉が出せない。

その様子をおじさんが見て笑う。


「ハヤト君、今俺をおかしなおっさんだと思っただろう。 実はね、俺のスキルに従魔契約というのがあって、この犬と契約しているんだ。 俺の相棒だよ」

!!

「え? えぇ~!! お、おじさん・・それって異世界っていうか・・ほんとにそんなことができてるんですか?」

俺の驚き度はMaxに近い。

「あぁ本当だ。 な、ポチ」

『だからポチではない、獣王と呼べ』

犬が何やらおじさんの方を向いて、ハッハッハと言ったかと思うと、おじさんのお尻に噛みついていた。

「いてて・・」

おじさんがポチをスッと抱きかかえる。

「全く・・この犬はポチって呼ぶと、獣王と呼べってうるさいんだ」

おじさんが普通に話す。


「お、おじさん・・犬と会話できるんですか?」

俺は思わず聞く。

「あ、あぁ・・契約を結んだら、俺の頭に言葉が飛んで来るんだよ」

「マ、マジですか・・俺にはワンワンという声しか聞こえないです」

「そ、そうなのか?」

今度はおじさんが驚いている。

「なるほど・・俺もこんな世界になって、まともに話しているのはハヤト君が初めてかもしれないしな・・」

おじさんが何やら考え込んでいる。

というか、おじさんどれだけ引きこもりなんだよ。

・・・

・・

それから俺たちはその場でいろいろと話し合った。


「おじさん、それにしてもたった半年でレベル28なんて凄いことですよ」

俺は思わず感心する。

「そうなのか? まぁ特にやることもなかったし、毎日ほとんどダンジョンに来ていたからな。 それにこういうRPGゲームは好きだったし・・いつ死んでも問題ないって思ってたしな・・」

おじさんはだんだんとつぶやくように話していた。

「お、おじさん・・死ぬって・・」

「ハハ・・ハヤト君、ごめんごめん。 今は死にたくなんてないよ。 むしろこんな世界になって最高だよ」

おじさんが両手を広げて肩をすくめる。

「ま、何にせよ、君たちもレベル上げなんだよね」

俺達はうなずく。

「そっか・・じゃあ、一緒に6階層に足を踏み入れてみないか? クリアしようというんじゃないんだ。 取りあえずどんな魔物がいるか見てみたいんだ」

おじさんが言う。

俺はチラッと中田を見る。

「6階層か・・俺たちも死にたくないけど、興味ありますね・・どうする中田?」

「フフ・・どうもこうも、私は村上さんの好意に甘えているだけだから・・」

「ではおじさん、よろしくお願いします」

俺の返答を聞くと、おじさんがうなずく。

「了解だ。 こちらこそよろしく頼むよ・・それよりも、ハヤト君、やっぱり君たち付き合ってない?」

「お、おじさん!」

俺は困惑したが、中田は笑うだけだった。

・・・

・・

俺達は難なく5階層をクリアし、6階層に到達した。

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