第36話 油断


オーガキングのお腹に大きな穴が開いていた。

オーガキングは何やら言葉にならない言葉を発しながら、倒れていく。

「ふぅ・・」

ハジメは軽く息を吐き、後ろのオーガの群れを見る。

・・・

「おぉ、ポチもなかなかやるなぁ」

オーガは残り3体となっていた。

ワン、ワン、ワン・・・。

ポチの吠える声が聞こえる。

ハジメはその声の方に走り、そのまま残りのオーガを瞬殺。


ポチが前足を引きずりながら、ハジメの方に近づいて来た。

ハッハッハ・・と、ベロを出している。

『おい、遅いじゃないか。 こっちは死にそうになっているんだぞ』

ポチの声が聞こえる。

「ハハハ・・すまないな、ポチ。 どれどれ・・」

ハジメはポチを抱き上げてチェックする。

「なるほど・・前足が折れているようだ・・よく頑張ったな」

ハジメはそう言うと、ポチに回復を施していた。


ポチは気持ちよさそうにハジメの腕の中で休んでいる。

『ふぅ・・気持ちいいぞ。 ありがとう、ハジメ』

「フフ・・ポチこそお疲れ様」

ハジメはポチを丁寧になでなでする。

ポチは回復すると、ハッハッハ・・とベロを出しながらハジメの方を向く。

『ハジメ・・もっと早く助けに来んかい。 全く・・死んだらどうするんだ。 ワシのようにかわいい犬はいないぞ』

「ごめんよ、ポチ。 でも、レベル上がっただろ? 俺は上がらないけど・・」

『な・・まさか、ワシのレベルを上げるために大量のオーガを狩らせたのか?』

ポチの言葉を聞きながらハジメは微笑む。

『・・なるほどなぁ・・って言うと思ったか!』

ポチはそう言うと、ハジメのお尻に噛みつく。

がぶ!

「い、痛いぞ、ポチ」

『うるさい。 ワシはそれで前足は折れる、傷だらけになる、死ぬかと思ったんだ』

「い、いいじゃないか。 死ななかったんだし・・それに回復してるだろ?」

『ぐぬぬぬ・・いつもそれだ。 ワシはレベルを上げる時にいつも死にかける。 もし死んだらどうするんだ!』

ポチは甘噛みだが、ハジメのお尻にくっついたまま離れない。

「いでで・・大丈夫だよ、俺が守るから」

ハジメの言葉を聞き、一瞬甘噛みが緩んだ。

その隙にハジメに掴まり、抱き上げられる。

『ほ、ほんとだな? ワシ、死にたくない』

「もちろんだよ、安心していいよ」

・・・

『な、なんか信じられないのだが・・』

ポチが不安そうにベロを出しながら、ハジメをもう一度見てパッと飛び降りる。

『ハジメ・・なんだその笑いは?』

ポチはまたハジメに掴まり抱き上げられた。

『ハ、ハジメ・・本当だろうなぁぁぁ』


ハジメたちはダンジョンを進んでいく。


<ダンジョン5階層>


中田と俺はダンジョン5階層に来ていた。

この地域で、ナビさんお勧めのダンジョンだ。

こんな世界になって半年経過。

まだまだ俺のようなレベルの奴は現れていない。

当然と言えば、当然かもしれない。

何せ、先行して俺にレベルが付与されていたのだから。


「中田・・結構レベル上がっただろ?」

俺が聞くと、中田が立ち止まり確認する。

「そうねぇ・・でも、このダンジョンって、あまり人と出会わないわね」

俺は少し返答に困ってしまった。

こいつ、まだ状況がよくわかっていないんじゃないか?

こんな世界になって半年しか経過していない。

レベルがあるとわかっていても、ゲームじゃない。

死ねばそこで終わりだ。

だからこそ、みんな安全な方法で地道にレベルを上げているに違いない。

そりゃ、勢いで挑戦するやつはいるだろうが、結果は無言の帰宅になるだろう。


「・・あのな中田・・簡単にレベルなんて上がらないぞ。 それに・・」

俺が説明しようとすると中田が微笑みながら言う。

「フフ・・村上さん、わかっているわ。 誰でも命をかけてまで無理をしないわよね。 私もレベル18になってる、ありがとう。 普通はここまでなかなか来れないのでしょ?」

なんだ・・中田わかってるじゃないか。

「ま、まぁ・・そうだよな・・ん?」

俺の雰囲気の変化に気づいたのか、中田が俺を見つめる。


「どうしたの? 村上さん・・」

俺は中田の後ろの方、階層入口を見つめる。

「・・うん・・何か・・人のような気配が・・」

俺がそう言うと、魔法陣のところにスッと人の姿現れていた。

!!

中田も一緒に目撃する。

俺達は声が出なかった。

まさか、この階層に人が来るとは・・油断していた。

何が油断かって?

もし、悪意を持った連中なら覚悟しなきゃいけない。

こんな世界になったんだ。

人の命なんて軽くなっているだろう。

・・・

・・

俺の頭の中はフル回転だ。

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