第34話 世の中ってそんなものだろ
<ハヤト>
「フフ・・ほんと、情けないわね」
俺の
「村上さん・・考えてみれば、あなたはいつも遠くを見つめていたような気がするの」
「は? いったいどうしたんだ・・中田・・」
「ううん・・ごめんなさい。 こんな世界になって半年・・村上さんがいなければ、私なんか死んでいたかもしれないわね」
「ま、まさか・・そんなことはないだろう」
「いえ、きっとそうよ。 気づくのが遅すぎたのね・・組織という大きな器の中で、みんなが背伸びして誰が成長したかを確認し合って、それがすべてだと思っていたわ。 それで世界に通用すると思っていたの・・バカみたい」
「中田・・」
俺は黙って聞いている。
中田が俺の方を見て微笑む。
「そういう目線で見れば、村上さんなんて、最初から違っていたのね。 お金などで価値を考えるのではなく、自分の背丈で生きていく方法を選んだ・・簡単だけど実際にできる人は少ない。 それが今のこの結果というわけね・・」
中田は完全に自信を失っているらしい。
「中田・・それは違うぞ。 俺もさ・・本当のことを言えば、金がないのは辛いよ。 それにこれだと言えるものが何もない。 いくら組織にいた時に凄かったといっても、所詮はその中でのことだ・・まぁ、言葉は悪いがみすぼらしいものだよ。 ただ・・たまたま運が良かったのだろうな。 こんな世界にならなければ、それで終わっていただろう」
俺はそこで一息つくと、続ける。
「・・それにさ・・人って何の出来事が今の自分を作っているのかわからないし・・」
俺はフトそんな言葉を出していた。
「え? どういうこと?」
中田が静かに聞いてくる。
「あ、あぁ・・これは俺のおじさんなんだけどさ・・いつも家族に粗末に扱われていた人がいたんだ・・どうしてるのだろう?」
俺は遠くを見つめるような目線で上を向いていた。
慌てて中田を見つめ直す。
「あ、あぁ、すまない・・そのおじさんだけど、頭も良くてとてもいい人だった。 でも、お金を稼ぐことが出来なかったらしい。 前の職を退職するまでは凄いエリートだったとかって聞いていたけどね」
中田は妙に真剣に聞いている。
「それで?」
「う、うん・・そのおじさんの奥さんが金、金って言う人だったらしいんだ。 子供たちの前でも平気でおじさんを
「ま、よくある鬼嫁って話ね」
中田が興味深そうに目をキラキラさせていた。
「そ、それに、おじさんは生活費や病院代もくれないので、うかうか病気にもなれなかったらしい・・ハハハ。 稼いできたお金は、全部家に入れていたというのにね。 他にも・・食事は自分のは自分で作ってたらしいし・・子供の残り物があれば、おかずにしたって笑いながら話してくれたことがあったなぁ・・」
俺も何かの時に聞いた話なんで、正確には覚えていない。
話を続ける。
「でもさ、おじさんは文句も言わずに・・耐えていたんだろうね。 そんなある日、おじさんは家を追い出されたらしい・・自分の家なのに」
「酷いことするわね・・」
「まぁな・・でも、奥さん目線ではお金がすべてだったんだろう。 それに奥さんの始めたお店がうまく行き出したのも余計に拍車をかけたのだろうね。 ただ、そんな奥さんでも子供たちには不自由なく生活はさせていたみたいだよ・・おじさんをバカにしながらね」
中田がフンフンとうなずく。
「でもさ・・そのおじさんがいなくなって半年くらいした時だろうか・・その家族がバラバラになって、奥さんのお店もダメになったようなんだ」
俺がそこまで話していると中田が妙な顔をする。
「・・村上さん・・いったい何が言いたいわけ?」
俺は中田の顔を見て笑う。
「あはは・・中田・・それだよ、それ」
「え・・何が?」
「答えをすぐに要求するだろ?」
中田が驚いた顔をしている。
「なんていうのかな・・一見無駄に見えるものでも、何かの役になっているってことだよ。 そして、その役立っている役割に与えられている時間は、目に見える時間じゃないってことさ」
「む、村上さん・・難しいんだけど・・」
「そうだなぁ・・そのおじさんはお金は稼げないけど、居るだけで、その家族全体で見れば、支えになっていたんだよ。 みんなの不満や不安さをおじさんが受け流していたんだろうね・・だからさ、中田が情けないと思うことでも、見方を変えたり時間が経過すれば、もしかして良いことかもしれないって話さ」
俺もうまくまとめれないが、世の中の物事ってそういうものだと思う。
「・・村上さん・・それって私を励ましてくれてるの?」
「う~ん・・どうだろうなぁ」
・・・
「あのね・・でも、少し元気出たわよ。 ありがとう」
「フフ・・それは何より・・でも、中田・・お前とはやらないぞ」
「もう! せっかくのリスペクトが台無しよ!」
中田に軽く殴られた。
「フフ、まぁ考えても仕方ない。 世界のルールが変わってしまったのだから・・とにかく今はレベルを上げるのがベターな選択だと思う・・行こう」
俺の言葉に中田はゆっくりとうなずき、俺達はダンジョンの中を進んで行く。
俺のレベルは28となっていた。
そのため俺のレベルアップのためではない。
とにかく中田が生き延びるために、最低限のレベルを確保して欲しいのがあった。
それにダンジョンが普通に解放されてから階層が明らかに深くなっている。
そこは俺も興味がある。
ナビに聞いてもわからないらしい。
◇
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