第33話 マイヒーロー


ドン!!

女性の前方、2mくらいのところだろうか。

男の上半身が吹き飛んだ。

続けて、横の男も足だけを残して吹き飛ぶ。

「な、なんだ? お、おい・・お前たち・・」

男はその場で動かずに震えながら辺りを見渡す。

「ど、どこだ? いったい、どこから・・」

男がそこまでつぶやいた時だった。

最後の男も完全に吹き飛んだ。


子供をギュッと抱きしめた女は、驚くとともにホッとしていた。

腰が抜けたのか、その場でしゃがみ込んでいる。

子供が無邪気に女の人の頭を撫でていた。

まだ言葉を話せないようだ。

ニコニコとしながら女の人を見つめていた。

しばらくすると、1人の女の人が歩いてくる。

肩にライフル銃を担いでいた。

髪はポニーテールにして束ねているようだ。

「ちょっと・・1人で出歩いたら危ないって、あれほど言ったでしょ」

銃を担いだ女の人が声をかける。

「あぁ・・マリア様・・ありがとうございます」

子供を抱えた女の人は涙を流しながら喜んでいた。

「ふぅ・・ま、無事で何より。 さ、街へ戻りましょう」

「は、はい」

女の人は子供を抱え、マリアの後を追う。


<アメリカ>


「サラ、大丈夫か?」

「はい、もちろんです、マイヒーロー」

「ハハハ・・その呼び方はやめてくれ、ジョーでいい」

「いえ、私にとって・・いえ、アメリカにとってはヒーローですから」

たくましい身体つきの男、ジョーに付き従うように歩いている元気な女の子、サラは笑顔で言う。

ジョーは特に表情を変えずに、つぶやく。

「このダンジョンも何度目だろうか・・俺たちは地道に繰り返しながら強くなるしかない」

「もちろんです」

「フフ・・サラは明るいなぁ・・あの声が聞こえてから世界は一変した。 ダンジョンも普通に解放されている。 それに俺たちのところに残ったのはたった10名の先駆者たちと・・後は普通にレベルに目覚めた者達だが・・」

ジョーは苦笑いしながらサラの方を向く。

「マイヒーロー、そんな顔しないでください。 私だって残っていますし、みんなジョーのことを尊敬リスペクトしているのです」

「尊敬か・・ありがとう」

ジョーはサラの言葉を背に受け、前に進む。


「サラ・・君のスキルだが、まさかナビゲーションシステムにそんな機能が備わっているとは思ってもみなかったよ。 君がずっと大事に育てた結果だね」

「いえいえ、私はただジョーの、マイヒーローの役に立ちたかっただけです」

サラのまっすぐな目を見て、ジョーは視線をずらす。

「サラ・・当初は、君の能力を利用するつもりだった。 俺もあまり気が進まなかったが、行政官たちと俺の判断だ。 本当にすまないと思っている・・俺には謝ることも許されないだろう・・」

「マイヒーロー、それは何度も言ったはずです。 問題ありません。 私は好きなようにしただけですから。 それよりもジョーの左腕・・」

サラは言葉を出しながら、本来ならあるはずのジョーの腕を見つめる。


「フッ、仕方ないさ。 信頼していた行政官に裏切られ・・いや、違うな。 これは俺の誇りだ。 何せ、この地球上で核爆弾と戦った初めての人間だろう」

ジョーは肩をすくめて笑う。

サラは何も言わない。

・・・

・・

レベルが解放され、世界は揺れた。

今まで国やルールというものに力で抑圧されていた人々が動き出す。

良い方向にも悪い方向にも。

そして善悪の区別すらわからなくなっていく。

誰かが核ミサイル発射のボタンを押したようだ。

・・・

連鎖的にいくつかの核保有国がに向け、その力を解放。

アメリカも例外ではなかった。


ジョーたちのコロニーにも飛来する。

レベルの低いものたちは核シェルターに避難。

ジョーの身体をサラのスキルで覆う。

サラはナビゲーションシステムの他にスキルを取得していた。

耐性スキルだ。

そして進化し、すべてではないが、無効になる効果もあるようだ。

対スキルの無効化は難しいが、現代社会の科学技術レベルのものならほとんど無効化できた。

その無効効果をジョーに付与。

ジョーはそれを纏い、核ミサイルを排除しようと試みた。


死ぬつもりはないが、

「ヒーローは逃げるわけにはいかないのだよ」

と、ジョーはうそぶき微笑みながらシェルターの外で迎え撃つ。

核ミサイルが到達すれば、シェルターなどに入っていてもどれほど効果があるのかわからない。

それに、ご丁寧にジョーのいる場所めがけてピンポイントでミサイルが到達していた。

ジョーの頭には行政官の1人、キースの顔がチラッと浮かんだが、今は核ミサイルをどうにかしないといけない。

ミサイルに搭載されている核弾頭が核分裂を起こす前に、ジョーはそのエネルギーを粉砕しようと考えた。

実際に、ジョーの全力のパワーで地面を殴りつければ、まるでクレーターだ。


結果、ジョーの左腕を犠牲にすることにより、核ミサイルの脅威は防がれた。

今のレベルならば、左腕を失うこともなかっただろう。

そう思うが、既に過ぎたことだ。

幸い、サラの無効化の恩恵で被爆せずに済んでいる。

左腕の代償かわからないが、新たなスキルが備わっていた。

上出来だ。


大きな扉の前でジョーとサラは立ち止まる。

「さて、行くか」

「はい、マイヒーロー」

その返答にジョーはニヤッとする。

大きな扉が音もなくゆっくりと開き、ダンジョンのボス部屋は2人を吸い込んでいった。


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