第20話 外の世界とは


俺は辺りを見渡して、大きな岩の上に腰を下ろした。

「ふぅ・・少し休憩するよ」

独り言ともナビに語っているともわからないが、言葉を出して考えてみる。

ナビは成長という。

まぁ、人種族の進化と思えばそう思える。

だがなぁ・・あの神様も言っていた。

創られた世界だと。

人が生まれてから死ぬまで、すべてプログラムの中で起こっている現象。

ランダム付与されているとはいえ、それすらも想定内の出来事だ。

想定外の出来事は、この世界の外側へ出ることだが、その外側の世界も創られた世界ならばどうなる?

まるで合わせ鏡の中の世界じゃないか。

俺たちの世界ですら、PCやゲームの中に世界を作る。

その規模がでかくなっただけなのだろうか…わからない。

だが、その世界の中で意思を持つ存在が生まれ、疑うことなく生きている。


そういえばニュースなどで見たことがある。

神を信じてテロを起こす人たちがいる。

天国に生まれることを約束されているとか何とか。

天国ってあるのか?

この世界とアクセスする別次元の世界と考えれることもできる。

・・・

そして、創ることはできるのかもしれない。

逆に地獄という世界も、だ。

そういう思考を得られたということは、そんな世界を体験して戻って来た人がいたのかもしれない。

・・・

・・

俺は答えのないことを考えていた。

「ふぅ・・わからないことだらけだな・・だが・・」

俺のやるべきことはわかっている。

どんな世界であれ、今の自分というものがいる。

その存在をきちっと生かせてやりたい。

自分の感じとれる肉体と協力して、このる世界で生きる。

先がどうなるのかわからない。

それに俺にはこんなレベルなんてボーナスをもらった。

それならこの能力を最大限に活用するのがいい。

誰の為でもない。

自分のために。


『ハヤト様、ご休憩は終わりましたか?』

ナビが優しく聞いてきた。

「え? あ、あぁ・・ちょっと考えごとをしていたんだ」

『では、この階層を突き進んでいきましょう』

・・・

「ナビさん、あなたってバトルジャンキーの素養があるのですか?」

俺は聞いてみる。

『まさかそのような・・私はハヤト様のナビゲーションシステムです。 主(あるじ)のために存在します』

「お、おぉ・・なんて嬉しいことを言ってくれるんだ。 抱きしめてやりたいぞ」

『ありがとうございます』

俺はナビとの会話で現実に引き戻された。

今はダンジョンを進もう。


<中田>


ハヤトとの偶然の遭遇から、通常勤務に戻っていた。

朝のいつもの出迎えを受け、会社に到着。

「おはようございます」と、皆と挨拶を交わしながら自分のデスクへと向かっていく。

途中、コーヒーを淹れてデスクにつく。

PCを立ち上げてメール確認。

コーヒーを飲みながらチェックを入れていた。


中田はコーヒーカップを置くと席を立つ。

「斎藤さん、少し2課に行って来るわね」

「はい」

中田は颯爽と歩いて2課に来た。

中田が入室すると、一瞬全員の視線を集める。

何せ一応この支社の副支店長なのだから。

だが、中田が着任した時に言った。

私に対する必要以上の挨拶は不要だと。

一般社員と同じように接してくれればいいというものだ。

初めは皆戸惑ったが、最近慣れてきたところだ。


中田は事務所の中をゆっくりと見渡す。

そして一人の人物を見つけた。

その人物のところへ近寄って行く。

「鈴木さん、おはよう」

「え・・え? えぇ・・あ、お、おはようございます」

鈴木は一瞬誰かわからなかったようだ。

いつもの普通の挨拶程度にしか思っていなかったらしい。

適当に挨拶を返したつもりが、どこかで見たことがある。

そして瞬時に判明。

副支店長じゃないか!

驚きつつも取りあえず挨拶は返すことができた。


「な、中田・・さん、いったいどうされたのですか?」

鈴木はまだ落ち着いていないようだ。

中田は、自分を呼ぶ時も肩書はやめさせていた。

すべて「さん」付けで呼ばせるようにした。

「うん、鈴木さんの提出してくれた報告書だけど・・」

「は、はい」

鈴木は椅子から立ち上がった。

中田は微笑みながら、そのまま座るようにと指示。


「鈴木さんの案件はいい感じよ。 子供目線で考えられているのは素晴しいわ。 でも、その子供の財布を持っているのは知っているわよね?」

中田が優しく確認していた。

「はい、両親ですね」

「半分正解」

「は、半分ですか?」

「そう・・一人の子供がいる時、シックスパケッツ、つまり両親とその親、おじい様やおばあ様。 これらの存在は大きいわよ」

中田の言葉に鈴木の背筋が伸びたような気がした。

中田は鈴木を見てうなずく。

「気づいたようね。 そう、それらの需要を満たしてこそ満点なのよ。 子供が欲しがっているだけではお金は動かないってこと。 もう少し深く考えてくれる?」

「・・はい、わかりました」

鈴木は中田に深くお辞儀をすると、早速作業に取り掛かる。

中田は要件を終えると、颯爽と帰って行った。


中田が帰ると事務所の中では少しさざ波が立つ。

「まさか副支店長がいきなり来るなんてな・・」

「フットワーク軽いよな」

「美人だよなぁ・・」

「素敵・・」

・・・

・・

などなど、どれも好意的な意見が飛び交っていた。


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