第15話 決して悔しいんじゃないからな!
「中田、俺、身体を洗ってくるから、適当にそこら辺で座っていてくれ」
「うん、勝手に座らせてもらうわね」
中田の声を聞くと、俺はシャワーを浴びに行く。
・・・
しばらくしてシャワーから出てくると、中田がテーブルで勝手に飲んでいた。
「お先にいただいてます」
缶ビールを片手に俺に言う。
俺は笑いながら、冷蔵庫から水を取り出して飲む。
「あれ? 村上さん、お酒飲まないの?」
「あぁ、めったに飲まなくなったんだ」
「へぇ・・変わるもんだ」
俺は中田の前に座る。
「中田、今日は泊って行っていいぞ。 部屋ならどこでも空いてる」
「ほんとに~? じゃぁ、遠慮なく泊まらせてもらおうかな。 一緒に寝る?」
中田が少し艶っぽい声で言う。
「・・やめておくよ。 俺・・小心者なんだ」
「フフ・・小心者ねぇ・・村上さんなら別にいいわよ」
中田がまだ絡んでくるようだ。
「中田、別にやりたくないわけじゃない。 ただ今の俺では、自分に・・いや、何でもない」
「えぇ? 何? 何を言おうとしたの?」
「くだらないことだ・・それより、同期の連中で小林以外に目星しい奴はいないのか?」
俺は水を飲みながら聞く。
「うまくごまかしたわね。 そうねぇ・・同期組では何人かは辞めて行ったわね。 これは本当に合わなかったみたい。 あ、菊池さんは残っているわよ」
「菊池がまだいるのか? あいつの実家ってりんご農園だろ?」
俺が聞くと、中田が驚く。
「ほんとに? 知らなかったわ」
・・・
・・
それから少し昔話で盛り上がったが、そのうち眠くなってきたので話を切り上げる。
中田に布団を敷いてやり、俺の横の部屋で寝てもらった。
俺も軽く片づけて、洗濯物を干し、寝床についた。
布団に入って眠るまで考える。
みんな順調に人生を歩んでいたんだ。
当然だな。
俺の身勝手な決断で、その栄光を俺は失った。
だが、違う位置から見れば、それは栄光でも何でもない。
ただ、身体を削り、命を削ってその会社での位置を固めるだけのバカな行為だ。
俺はそういう言葉が頭に浮かぶも、当時の給料を超えた生活は、今まで経験がない。
ずっとこんな、取りあえず食べられるだけの生活だ。
それでいいと思っていたが、実際中田などを見ると、少しみすぼらしさも感じる。
本来の俺はこんなものじゃないと。
だが、現実はこんなものだ。
中田は一流企業のエリート。
俺は単なるアルバイター。
社会的な扱いは段違いだろう。
と、ここで普通なら終わってしまうところだが、今の俺は違う。
ステータスオープン。
ハヤト
レベル:6
HP :90/90
SP :87/87
力 :92
耐久 :78
敏捷 :95
技能 :94
運 :62
スキル:ナビ4
見切り2
今のところ、格別に何か得られたのかというと、正直実感はない。
ただ、身体能力は俺の想像を超えるものがある。
今の現代社会は、お金というエネルギーが主体のシステムだ。
その中で、このレベルなるものがどう作用するのかわからない。
あのアメリカ人のように表に出て注目を集めるとお金も集まるだろう。
比例して負の感情も集めるかもしれない。
そういった意味では特殊な職業? となるのかもしれない。
まぁ、金に関して言えば、負け組の俺などが言うことはできないが。
さて、俺はステータス画面を見ながら、ナビに頭の中で語りかけてみた。
「なぁ、ナビ、イノシシよりも効率よくレベルが上がる方法ってないかな?」
『そうですね・・ダンジョンなんかどうですか?』
はい?
せっかく眠りにつけそうだったのに、一気に目が覚めた。
「ナビ・・どういうこと? ダンジョン?」
『はい、ダンジョンです』
「ナビさん・・ここって地球ですよ。 そんな迷宮、あるわけないでしょ。 それに魔物なんているはずもないし」
『いえ、ハヤト様、ダンジョンはあります』
・・・
・・
ナビが教えてくれるには、遺跡などの跡地や神社が設置されている場所にあるという。
ほとんどは単なるオブジェだが、中にはその機能を保持しているものも存在するそうだ。
そして、この日本は特に多いという。
昔から妖怪、魑魅魍魎の話が多いのは、低級な魔物の
俺はそんな話を聞くと、明日からがちょっと楽しみになってきた。
◇
朝起きてみると、中田が普通に起きてきた。
時間は6時前。
「おふぁよう・・村上さん、シャワー借りるわね」
「あ、あぁ」
中田は遠慮なくシャワーを浴びに行く。
俺はその間に朝食を作る。
作るといっても大したものはできない。
ベーコンとたまごを焼き、トーストを添えるくらいだ。
後はコーヒーをつけておいた。
「中田、あまりいいものはできないけど、良かったら食べてみて。 残ったら俺のお昼にするから」
俺はそう言いながら席につく。
中田もシャワーでさっぱりしたのだろう。
しっかりとした目でテーブルを見る。
「ううん・・朝からきちんと食べるなんて、凄いわよ。 いただきます」
俺は口にパンを運びながら言う。
「中田、朝送って行くから、何時頃に会社に到着すればいい?」
「ありがとう・・そうね・・じゃあ7時に私のマンションまで送ってもらおうかしら」
「了解」
俺たちは特に何もなく朝食を終え、中田の希望通りに7時頃に中田のマンションへと到着。
車から降りると、中田が笑顔を向ける。
「村上さん、ありがとう。 そして、これからもよろしくね」
「うん、俺も楽しかったよ。 またね」
俺はそう言ってマンションを離れようとした。
すると、中田のところに黒塗りの高級そうな車が横づけで止まる。
車から人が1人降りて来て、車の後ろドアを開けていた。
中田は軽く手を上げると、そのままその黒塗りの車に乗ってしまった。
・・・
マジか・・あいつ・・偉いさんじゃねぇかよ!
◇
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