第14話 あれ? 同期の中田か?


<ハヤト>


俺は普通に出勤してきている。

ドラッグストアで流しレジの作業だ。

どんどんとお客が流れてくる。

「いらっしゃいませ、レジ袋は必要ですか?」

毎回、同じ台詞で出迎える。

客層も同じような人がリピートしてくれているらしく、俺の顔も覚えている人も多い。

「兄ちゃん、今日も暑いな」

「えぇ、ほんとに・・いつもありがとうございます」

こんな軽い会話を重ねながらレジを流す。

これが結構忙しい。

3時間位は連続で流すこともある。


さて、そんな中、お? と思わせるような女の人がレジの前に立った。

レジ向こうとはビニールシートで幕を張ってあるので、はっきりとは顔が見えない。

「いらっしゃいませ、レジ袋はご必要ですか?」

女の人が人差し指を立てて言う。

「じゃ、1枚ください」

「かしこまりました」

俺はそう返事をして買い物かごをセットして商品を流し出す。


う~ん・・なんだ、この女の人。

何か俺の方をジッと見てないか?

作業でマズかったことがあったのか?

俺は少し不安になりながらも、商品のスキャンをすべて終わらせて合計金額をお客に言う。

すると、女の人が一言つぶやく。

「もしかして・・村上さん?」

「え?」

俺は急いで顔を上げ、お客さんの顔を見つめる。

!!

すぐにわかった。

中田だ。


女の人はうれしそうな顔をしてペコッと会釈をする。

「中田・・か」

「やっぱりそうだ。 何してんのよ、こんなところで・・」

次のお客が待っているので長話はできない。

「何って・・レジ打ちのバイトだよ。 それよりも、なんでここに・・って、あ、俺の携帯番号は昔のままだから、後で連絡くれよ」

俺はそれだけ告げると、次のお客の応対をする。

中田が笑顔で手を振りながら荷物を詰めていた。


仕事も終わり、俺はいつも通りスタッフと挨拶を交わし店を後にする。

駐車場に止めてある自分の車のところへ行き、乗り込もうとすると軽快な足取りで近づいてくる人がいた。

中田だった。

「お疲れ」

中田はそう言うと、俺の車に勝手に乗り込む。

スタッフたちが不思議そうな顔で俺を見ていたが、俺の昔の会社の同僚ですと釈明をして車を発進。


俺は運転しながら家に向かう。

「中田・・久しぶり・・というより、大丈夫なのか?」

「全然問題ないわよ。 それにしても、まさか村上さんとこんなところで遭遇するなんてねぇ」

「ま、それはいいんだが、俺は家に帰ってシャワーを浴びたいんだ。 話はその後でいいかな?」

「えぇ・・いきなりだわね。 私・・お泊りセットなんて持ってないけど・・」

「・・あのなぁ、別にお前とるなんて言ってないぞ。 それに俺ももう若くない」

俺は前を見ながら話している。

「ほんとにぃ~? ま、私はどっちでもいいのだけれど・・」

中田が少し甘えたような声でつぶやく。


「それよりも中田、どうしてこんな地方にいるんだ?」

俺の一番の疑問だ。

「実はね・・左遷されたのよ・・プププ・・アハハハ・・違うわね。 私、この地区の支部長補佐なのよ」

中田が笑いながら答える。

「ま、マジか・・それって栄転じゃねぇかよ」

俺は驚いた。

「ありがと」

「まさか30代半ばで・・ねぇ」

俺はつぶやく。


「あ、そうそう、同期の中じゃあ、小林さんが一番の出世頭かな? 彼、もう本社部長よ」

「ゲ・・」

俺の胸の中にグサッと重い何かが突き刺さる。

「他に、高木さんや松本さん・・みんなそれぞれ頑張ってるわよぉ」

「そ、そうか・・順調ならそれでいいんじゃね?」

俺はそう答えつつも、素直に喜べない何かを感じていた。

中田が助手席で俺の方を見つめている。

「村上さん、同期の中じゃ一番優秀だったのにねぇ・・」

「ほっとけ! ただ、学ぶのが好きなだけだったんだ。 現実に行うとダメなタイプだな」

「あはは・・」

中田は無邪気に笑っていた。


他愛ない話をしているうちに、俺の家に到着。

車から降りて玄関のドアを開ける。

「どうぞ」

「おじゃましまーす」

中田が声を出しながら入って行く。

「誰もいないよ」

俺はそう言って通路の電気をつけて、中田を案内する。

玄関の鍵は閉めた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る