第12話 日置大和(へきやまと)


<マリア>

いったい、何なのこの画面は。

私以外に見ることができないらしい。

両親の前でも出してみたが、まるで気づく気配がない。

私も口にすることはしなかったけど。

それにあのアメリカ人の配信チャンネル。

私もステータス画面がなければ、決して信じなかっただろうと思う。

私以外にもいたんだ。

彼は自分の肉体に対して強化をしているようだった。

私もゲームの知識くらいはある。


夜、寝ていると突然、頭の中に声が響いた。

夢かと思っていた。

この世界のルールから外れるとか何とか。

ゲームの夢でも見ているのだろうと思っていた。

迷わずにYesを選択。

すると、本当にゲームのような世界になっていた。

ステータス画面なんてものがある。

レベル2。


射撃の練習などでハンティングをする。

すると、頭の中に声が響く。

『レベルが上がりました』と。

まるでゲームじゃない。

だが、実際に自分の身体の変化を感じるようになった。

レベル3になると、『索敵』なるスキルが得られた。

自分の周りの様子がよくわかる。

先程の的を見つめていた時も、標的がよく見えた。

普通、かすかに見える? 感じる? 程度なのだが、それがまるで目の前にあるかのように感じる。

そのまま引き金を引くと、思っていたところにヒット。

外しようがない。

アメリカのあの人もそうなのだろうか?

私のような普通とは違う感覚を持っているのだろうか。

・・・

わからない。

それに私たち以外にもきっといるに違いない。


天啓が言うには、特に使命などはないという。

では、何故私にこんな能力が備わったのか。

私は、この射撃の腕を世界一にまで高めることが、何らかの意味があるのだろうと、直感的に思った。

そうでなくては、こんなゲームのような能力が備わるわけがない。


マリアは何か理由が欲しかったのだろう。

まだ17歳の少女だ。


<京都>


タン!

白黒の的に1本の矢が刺さる。

時間は4時。

早朝とはいえ、日の光はまだ届いていない。

しっかりと残心を取り、また弓を引き絞る。


ヒュン!

いつ放ったのかわからないが、自然と矢が放たれていく。

タン!

先程射った矢をかすめて、真横に矢が刺さっていた。


しばらくして、声がかかる。

「お嬢様、お疲れ様でした」

矢を放っていた人物が弓を片手にゆっくりと歩き出す。

「おはよう、三崎さん」

「お嬢様、いつも思うのですが、よくこのような暗闇の中で的に矢が当たりますね」

三崎と呼ばれる女の人が微笑みながらたずねる。

三崎は先ほど放たれた矢を的と共に回収していた。

いつものことだ。

お嬢様と呼ばれた女の子は的を見る。

「ふぅ・・まだまだね」

「え? な、なにがまだまだなのですか?」

三崎が驚いて訊ねる。

「ううん・・何でもないわ」

お嬢様と呼ばれる女の子が微笑みながら通路を歩いて行く。

三崎もこれ以上は口を開くことはない。


三崎と分かれ、服装を整えて食堂へ向かう。

「おはようございます」

食卓につきながら挨拶をする。

「おはよう大和やまと、また腕が上がったんじゃないか?」

新聞を読みながら父親が言葉を出す。

「いえ、私などはまだまだです。 日置へき家の名を名乗れません」

大和と呼ばれる女の子は食卓に着く。

「はい」

大和の前にそっとお茶が置かれた。

「ありがとう、お母さん」


大和は軽く朝食を済ませ、学校へ行く準備をする。

「大和、今日は早くに学校へ行くのね?」

「えぇ、友達と弓道の約束があるの」

「そ、行ってらっしゃい」

「行ってきまーす」


大和を見送ると、父親が新聞を置き母親に聞く。

「大和をどう観る?」

「あら? あなた、そんなに気になるのならご自身で聞けばいいでしょ」

母親はいたずらっぽく微笑みながら答える。

「い、いや、あれも難しい年頃だ・・父親の言葉など届くまい」

「まぁ照れちゃって・・そうねぇ・・持っている才能は私などでは及びもしない感じがするわ。 底なし沼・・いいえ、湖っていったらいいのかしら、とても深い感じね」

母親は答えながらお茶を飲む。

「私もそう思うよ。 今朝の遠矢の音・・ものすごく澄んでいた。 それに気づいたら2射目が放たれていた。 すでに私より優れているだろう」

「まぁまぁ、あなた大和に軽く嫉妬されてるんじゃありませんの」

「逆だ。 震えるくらいに嬉しいが、日置家の家名を背負わせるのも酷なようにも思えてな・・こんな慣習、いつまで続くのやら」

「あなた・・」

食卓でゆっくりと2人でお茶を飲む。


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