第5話 レベル上げ


俺はこの1週間の間に考えていた。

自己鍛錬でも微妙にレベルは上がるが、俺よりも生命力がありそうな対象を倒せばいいのではないかと。

簡単に言葉を並べてみるが、そう簡単ではない。

まず人は対象にできないし、するつもりもない。

出た結論が、野生動物だ。


猿やイノシシ、鹿などだ。

俺の住んでいる地域には、害獣被害が多数上がっている。

狩猟するには免許が必要だが、山へ散歩程度に入るのは、特に許可が必要ということはない。

人が普段行かないような山を俺はいろいろ探していた。

動物の被害を良く聞き、散歩コースにもなっていないようなエリア。

ホームセンターでなたも購入している。

弓かクロスボウが欲しいところだが、許可制になっていたと思う。

足がつくようなことはやめよう。

これからのことを考えるとなるべく目立ちたくない。

スリングショットは特に大きな規制はないようなので、ネットで購入。


俺は楽観的に考えていた。


<山を散策中>


時間は8時40分。

俺は山の中を歩いている。

それほど深い山ではない。

しかし、この山のふもとでは、猿やイノシシの被害が頻繁に報告されている。

農家の人も、畑の周りにはそれなりに防御をしているようだが、それでもやられるという。


選んだのは近場の山だ。

冬はたまに山頂まで散歩したりもする。

200mくらいの山で、人もほとんど遭遇しない。

冬に登るのは、マムシがでないからだ。

自分のステータスを上げたい実験なので、完全装備で山の中を歩いている。


一向に動物と遭遇する気配がない。

まぁ、遭遇しても怖いし、あまり深く中へ入って行くのも遭難するかもしれない。

この辺りをウロウロするのがいいだろう。

ただ、遠くで猿の鳴き声だろう、キィ、キィという声が聞こえる。

その声を聞きながら、コケの生えた大きな岩の影から出ようとした。

!!

心臓がドキンとする。

少しだが痛みも感じたかもしれない。

イノシシだ。

目の端で捉える。

しかもでかい。

俺は一瞬身体が硬直したような感じがした。

声を出さず、息も殺してゆっくりと岩陰に引き返す。

岩を背に動かずにいた。


ま、まさか・・本当に出くわすとは。

スリングショットで石を当てれば何とかなるんじゃないか?

鉈で思いっ切り殴れば、何とかなるんじゃないか?

軽く考えていた。

・・・

無理だ。

この威圧感・・半端でない。

子供のイノシシなら何とかなったかもしれない。

だが、完全に親だろう。

2mくらいはあるんじゃないか?

ブヒブヒと鼻を鳴らしながら、地面を探っている。

風は特に吹いていない。

もし、こちらが風上だったなら、即アウトだっただろう。

・・・

俺が甘かった。

だが、今は動くことができない。

俺はただジッとして、イノシシが行き過ぎるのを待っていた。


なんて長い時間なんだ。

まだ1分も経過していない。

どうする?

移動するか?

いや、勘づかれたら逃げれない。

どこかイノシシが登れないようなところはないだろうか。

・・

やはり木に登るのが一番だな。

漫画なんかであるような、木に突進などはしないだろう。

俺は岩陰をゆっくりと移動し、近くの木に登る。

ロープを木に回し、両手で掴む。

自分の体重を後ろにかけて、ロープを張り合わせて、木こりが木を登るようにして登って行く。

子供の時に、こうやってよく遊んでいたので簡単に登ることができた。

枝のところに腰を下ろす。


プルルル・・・。

携帯が鳴った。

!!

俺はドキッとした。

電話のようだ。

急いで電話に出る。

『あ、もしもし・・坂本さんの電話ですか?』

『い、いえ、違いますが・・』

『あ、すみません、間違えました・・プツ』

・・・

こ、殺すぞ!


携帯を収納すると下を見る。

イノシシがブヒブヒと言いながら、ウロウロしている。

完全に俺に気づいているのだろう。

とにかく、このままやり過ごすしかない。

この高さならば、飛んでくることもないだろう。

安心はできないが、もしこの木が攻撃されれば、隣の木の枝に移ればいい。

何本かは同じような太さの木がある。

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