第6話 イノシシ


改めてイノシシを見下ろしてみる。

まず、素手ではダメージなど与えられそうもない。

相撲取りなら何とかなるかもしれないが。

金属バットで殴っても、怪しい。

スリングショットも矢を持っていない。

矢であれば、刺さるかもしれないな。

木の上ということもあり、妙な安心感があった。


10分経過。

・・・

それにしても、あのイノシシ・・移動しないな。

いったい何してんだ?

俺に届かないだろうに・・どこかへ行けよ。

俺も枝に腰かけながら見下ろしている。

頭の中では妙な妄想が浮かんで来る。

枝を切って、とがった槍みたいなものを作って、この高さから仕掛ければ倒せるんじゃないかと。

ただ、失敗すれば終わりだ。

5mくらいの高さがある。

下にイノシシがいなければ、俺にすべてのダメージが返ってくるし、枝が刺さるとは限らない。

・・・

ダメだな。

とはいえ、やることがない。

俺は鉈で近くの枝を切り落としてみた。

鉈は買ったばかりなので、よく切れる。


枝を1本1本切り落とし、全部で8個ほどの槍というか、くいのようなものが出来上がった。

バックパックに収納。

イノシシの上に、切り払った枝葉が降りかかっていたが、まるで気にする気配はない。

移動もしない。


「はぁ・・いったい、いつまでここにいるつもりだ?」

木の上にいるからか、俺も妙に余裕がある。

「こら、イノシシ・・サッサとどこかへ行け」

俺は普通に話しかける。

そして枝の上に立ち、ニヤッとする。

「そら、これで頭でも冷やせ」

俺はそうつぶやきながら、放尿をする。

・・・

ふぅ・・すっきりした。

イノシシは全く動じる気配がない。

大したものだ。


俺は辺りを見渡す。

確かに木の上を移動できないこともない。

だが、少し移動すると詰む。

後は地上に降りて移動しないとダメなようだ。

・・・

・・

クソ!

急にイライラが溢れてくる。

このイノシシ・・いったい何してんだ?

普通、野生の動物って逃げるだろ?

それに今の季節、エサが不足しているはずはないだろうし。


俺は少し考えていたが、覚悟を決める。

「よし!」

バックパックからスリングショットを取り出した。

投げつける石はかなりの数は確保している。

全部で10㎏くらいはあるだろう。

1個が握りこぶし半分くらいの大きさだ。

もしこれで全くダメージを与えれないと・・詰む。

だが、このスリングショットでこの高さから放てば、かなりの威力になると思う。

車でも穴が開くんじゃないか?

俺はそんなことを思いながら、スリングショットを引き絞る。

・・

イノシシに照準を合わせる。

確か調べたところでは、イノシシの弱点って頭・・しかも耳の後ろ辺りって書いてたよな。

心臓も弱点たが、プロでも檻に入っているイノシシの心臓を突くのは至難の業だそうだ。

また耳叩きなる方法があるらしいが、そんなことはできるはずもない。


さて、標的がでかいだけあって、外しようがない。

頭に合わせて・・耳なんて無理だな・・目のところか。

俺はイノシシの目のところを狙う。

目に当てれないかもしれないが、どこかに当たればダメージが分かるはずだ。


俺は、スリングショットをもうこれ以上引き絞れないところまで引き・・放した!

ヒュン!

石が勢いよく飛び出す。

ドン!

即座にイノシシに命中。

目には当たらなかったようだが、頭に当たったみたいだ。

同時に、イノシシが叫ぶ。

「ブヒィー!!」

鼻を持ち上げて、明らかに嫌がっている感じだ。

怒っているのか?

木の下でウロウロとする。

だが、移動する感じはない。

俺は次の石をセットして、同じようにイノシシの頭に向けて狙いをつける。

引き絞ると、そのまま放つ。

ドン!

「ブヒィー!」

イノシシがまたも同じような声を上げてウロウロとする。

ダメージはわからないが、かなり嫌がっている感じはする。


俺は遠慮することなく、次の石をセット。

執拗に頭を狙ってスリングショットを放つ。

何度か失敗しつつも、かなりの数を当てることができたと思う。

イノシシの頭のところが赤くなっていた。

俺のところからでもわかる。

明らかにダメージを負っていた。

まだ石はある。

俺は石をセットして引き絞り、放つ。

それを繰り返すだけだ。


ヒュン!

ドン!

ブヒィー!


この繰り返しだが、このイノシシ・・やはりこの場から離れない。

近くに巣でもあるのか?

・・・

今は、そんなことはどうでもいい。

とにかく、もう始まってしまっているんだ。

このイノシシをどうにかしないと。

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