第119話……残忍! 惑星破壊砲!!
――標準歴元年2月。
蛮王さまが治めるエールパ星系の外周準惑星パールにおいては、未だ激しい地上戦が続いていた。
……現皇帝パウリーネ派とクレーメンス公爵元帥の率いる旧帝国派との戦いだった。
旧帝国派の指揮官であるクレーマン中将は脱出していたのだが、彼の部下である中堅佐官達は必死に兵を激励して抵抗していた。
第九惑星地上軍は伝統的に純人族部隊であり、政治的に非人族を敵視していた風潮があった。
彼等にとってアンドロイドやバイオロイドの権利を擁護するヴェロヴェマなどは、極めて唾棄すべき存在だった。
「降下開始!」
「艦載機発艦!」
宇宙空母ドラグニルから小型揚陸艦と航空機が発艦する。
第九惑星地上軍の兵力は約6万人。
その多くがベテラン兵であり、帝国の誇る精鋭部隊だった。
質で上回れても、ドラグニル陸戦隊はわずか3000人しかいない。
「撤退!」
「第二防衛戦まで後退しろ!」
宇宙空母ドラグニルに座上するアルベルト中佐も、戦況に苦悶の表情を浮かべていた。
☆★☆★☆
「カタパルト軸線上オールグリーン!」
「重雷撃機ケルベロス発艦せよ!」
「了解!」
私は宇宙空母ドラグニルから発艦する。
ハンニバルは本隊を率いて後から来るので、ドラグニルに載せてもらって、先に戦場に来ていたのだった。
「こちらB中隊、ケルベロス、航空支援を頼む!」
「了解!」
数に勝る敵地上部隊を相手にするため、空からの支援は必須だった。
敵の頭上で、誘導爆弾を次々に投下する。
――ズズスーン!
爆炎が上がり、複合装甲を施した敵戦車が消し飛ぶ。
彼等地上部隊の上面装甲は脆い。
――ダダダダダ!
さらに電磁ガトリンク砲で掃射し、装甲車や牽引砲を殲滅する。
――プスン
「……くっ! 弾切れか!」
「こちらケルベロス、補給に戻る!」
「了解! 第二ハッチを開けておく!」
今までの相手とは比べものにならないくらい強くて、かつ数の多い地上部隊だった。
いくら倒してもきりがない。
「補給よし!」
「ありがとう!」
私は整備兵にお礼をつげて、再び発艦する。
この日だけで私は7回出撃し、戦闘は34回を数えた。
まさしく激戦だった。
☆★☆★☆
「副砲射撃! 目標C-86地点!」
「了解ポコ!」
二日後には、私はハンニバルの艦橋で指揮をとっていた。
敵地上部隊は、塹壕を各所に掘り、隠れつつ頑強に抵抗していた。
――スキル【羅針眼】発動!
眼底の毛細血管が一斉に開き、眼前が真っ赤になる。
負荷が大きく、一日に何度も使えない能力だった。
しかし、この能力を使えば、巧妙に隠蔽された敵陣地の所在までが判った。
「砲術長! D-6627地点に砲撃だ!」
「了解ポコ!」
鏡面製長砲身から、高密度に集積された大口径レーザー砲が吐き出される。
――ズシィィィーン
――ズシィィィーン
その照準は過たず、次々に着弾し、敵の超硬度トーチカを地面ごと爆砕した。
「命中ポコ!」
「敵陣地、沈黙ですわ!」
巨艦ハンニバルの暴風雨のような艦砲射撃により、惑星地上戦は好転していく。
やはり艦載機より、大口径艦砲の方が破壊力は上だった。
「第八連隊、敵砲台占領せり!」
「第六中隊、敵高射砲部隊破壊せり!」
「敵の大部分は地下へ隠れたぞ! どうする小僧!?」
今回、地上戦のご意見役として、シャルンホルストさんに来てもらっていたのだ。
「地上を封鎖したまま、兵糧攻めにしましょう!」
「そうだな、被害が少なくなるから良い選択だ!」
歴戦の老将にも、戦況に笑って頷いてもらった。
☆★☆★☆
(……三日後)
「ハンニバルへ、F-996地点へ砲撃せよ!」
「了解ポコ!」
――ズシャアァァァ
電磁砲弾が重戦車を粉々に砕く。
私は再びケルベロスで出撃し、ハンニバルの観測射撃の文字通り眼になっていた。
地表にわずかに残った敵地上部隊を掃討していたのだ。
――PIPIPI
通信が入る。
「提督! 至急ハンニバルにお戻りください!」
「了解! 帰投する!」
私は重雷撃機ケルベロスの機体を反転させ、母艦であるハンニバルへと機首を向けた。
☆★☆★☆
「どうかしたの?」
艦橋に戻り、青ざめた顔の副官殿に問う。
「これをご覧ください!」
敵からもたらされた情報はこうだった。
『ツエルベルク星系の主星バルバロッサの破壊に成功した。第九惑星地上軍の奮戦に感謝する!』
我々が準惑星パールの敵第九惑地上軍と戦っている間に、旧帝国派は新兵器である【惑星破壊砲】を用いて帝都バルバロッサを一瞬に消し去ったのだ。
惑星の約1/3が削り取られている映像がそこにはあった。
「帝都と連絡がつかないのか!?」
思わず通信士官に怒鳴ってしまう。
「応答ありません!」
やはり帝都バルバロッサは壊滅したらしかった。
……皇帝陛下はどうなった?
総司令部の安否は?
ここで戦っていたのは間違いだったのか?
……様々なことが脳裏をよぎる。
「敵第九地上軍は降伏するとのことです!」
ここの敵は降伏するようだ。
しかし、小さな戦いには勝ったが、大きな戦いには負けてしまったようだった。
……しかし、帝都バルバロッサには2000万からの一般市民がいたのだ。
敵対しているとはいえ、昨日までの自分たちの民衆に行う攻撃手段とは到底思えなかった。
旧帝国派であるクレーメンス公爵元帥や、リーゼンフェルト等の残虐な行為は後日断罪せねばなるまい。
「……次に彼らに会った時は、容赦ない地獄の炎で焼き殺してやる!」
私は珍しくそう咆えたのだった……。
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