第115話……エールパ星系の反乱計画

(……三週間後)


 ドラグニル星系にて皇帝パウリーネ様に謁見したメッケンドルガー中将が、再び準惑星ツーリアの私のところへ来ていた。



「ヴェロヴェマ中将! この度は本当に世話になった。お礼の申しようもない」

「いえいえ」


 彼は私が皇帝を庇護したことに対して、大変に感謝してくれた。

 本当は彼のような人が匿った方が良いのだろうけど、所属する立地として私が選ばれたのだろう……。



「ヴェロヴェマ殿! 是非私に力があるうちに皇帝陛下を再び擁立したい! 力を貸してくれぬか?」


「構いませんよ、何を致しましょう!」


 うっかり安請け合いをしてしまったかもしれない。



「まずは盟友である蛮王ブルー様とともに、エールパ星系で挙兵してもらいたい!」

「さすれば、クレーメンスの犬どもはそちらに殺到するはず。そこで私が帝都バルバロッサで挙兵し、帝都を制圧して見せまする!」


 ……私と蛮王様は囮か。

 危険でもあるが、私の【邪眼】には彼に裏切りの色は見えない。



「わかりました。やってみましょう!」


 そう伝えると、彼は喜び勇んで帰っていった……。


 その後、彼から作戦の要項が送られてきた。

 まずは、蛮王様を説得せねばならなかった。




☆★☆★☆


「ぇ~!? やるの?」


 砕けた感じでしゃべる蛮王様。

 反乱の片棒を担がされて迷惑と思いきや、にやにやしている。


 ……パウリーネ様が復帰した場合、条件として蛮王様には帝国の公爵の地位が約束されていた。

 晩王様は意外と現金なところがある。



「当然、お前の艦隊が守ってくれるのだろう?」

「もちろんですとも!」


 蛮王様のエールパ星系に帝国軍を引き付け、その間にメッケンドルガー中将が挙兵する作戦が行われることになった。

 メッケンドルガー中将の説得のもと、帝国第二艦隊ベーデガー中将と同第四艦隊キルンベルガー中将もこちら側についてくれるそうだ。


……上手にできるといいな。




☆★☆★☆


――エールパ星系反乱す!


 おとなしいブタ民族が反乱を起こすとは帝国中枢は思ってもおらず、この急報は彼らに驚きをもたらした。



「……くそう! ブタどもめ、粉砕してくれん!」


 リーゼンフェルト上級大将は憤ったが、夕食を同席していたクレーメンス公爵元帥は冷静だった。



「ブタどもの土地を召し上げる好機が来たと思うべきだよ、婿殿!」


 公爵元帥は笑う。

 度重なる飢饉への財政出動により、帝都の国庫は空に近かった。


 ここにきて、食糧事情が裕福なエールパ星系の反乱は、中央の政治家にとっては好事と言えた。

 正統性のある略奪が可能となったのだ……。



 しかし、帝国統合軍副総司令官の名のもとにリーゼンフェルトは兵力の動員を発令したが、第二艦隊と第四艦隊は整備不良で出撃できないとの知らせを受ける。


 惑星地上軍の軍団長も、すぐに出撃できると回答してきたのは第九軍のクレーマン中将だけだった。


 共和国との戦線にトロスト中将の第六艦隊が出撃していたため、フライシャー中将の第八艦隊とクレーマン中将の第九惑星地上軍を率いてエールパ星系に向かうこととなった。


 宇宙艦隊はともかくとして、エールパ星系は人口が多かったのだ。

 反乱鎮圧後の占領政策を考えると、惑星地上軍の出撃は必須だった。


 ……こうして、帝都は空になったのであった。




☆★☆★☆


――エールパ星系外縁、準惑星パール。


 この星が星系外部からの長距離跳躍妨げる位置に公転していた。

 リーゼンフェルト上級大将はこの星を攻略し、もってエールパ星系攻略の足掛かりとすることにした。



「降下せよ!」


 クレーマン中将が麾下の第九軍にこの星の占拠を命じる。


 命令一下、強襲型の小型揚陸艦が次々と降下する。

 クレーマン中将は支援砲撃を準備していたが、特に反撃らしいものはなかった……。



「ふむう、敵はこの要地の重要性がわかっとらんな!」


 クレーマン中将はこの時、この準惑星制圧を確信した。

 ……しかし、その30分後に、その確信は焦燥へと変わってしまう。



「敵は地下にて潜伏の模様!」


 地上部隊からの連絡が伝わるが、もう陸上部隊を多数上陸させたので、いまさら支援射撃はできない。味方にも当たるからだ。



「地中部へ攻撃せよ!」


 結局、このような地味な命令をするしかなかった。


 しかし、この地下防御部隊には、屈強なドラグニル陸戦隊が手ぐすねをひいて待ち構えていたのだった。

 ……案の定、大軍が時間をかけても、安易には攻略のめどは立たなかった。




☆★☆★☆


「未だ、第九惑星地上軍は交戦中の模様!」


 宇宙空間でただ待っているだけの第六艦隊司令官のトロスト中将。

 彼はプライドが高い生粋のエリートだった。

 よって下賤な異民族であるブタ民族など滅んでしまえばいいと思っていた。



「地上戦なぞせずに、核融合弾で丸焼きしてやりたいわ!」


 彼はそうイラついたが、戦後の占領政策を考えると出来うる選択肢では無かった。

 何事も軍事より政治が優位なのである。


 これから更に一か月間、帝国軍反乱討伐の諸部隊は、ただ地中での陸上戦を待つだけの時間が過ぎていくのであった。




――帝都バルバロッサで反乱勃発。

 

 この急報にリーゼンフェルトたち反乱討伐部隊は驚愕した。



 急遽、撤退を模索したところ、彼らの面前に巨大艦艇がワープアウトしてきた。


 ……装甲戦艦ハンニバルの姿だった。

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