第114話……高速船と帝国の忠臣たち

 現皇帝派と前皇帝派の暗闘激しい中、ハンニバルはアルデンヌ星系の哨戒についていた。


 帝国の主力部隊は他方面で共和国軍とにらみ合っているために、この星系の哨戒は輪番制で行われていた。


 我が偵察艦隊の編成はハンニバルとドラグニルの二隻のみである。

 いわゆる燃料の節約だった。



「敵艦発見! 方位F-51」

「宇宙空母ドラグニル、艦載機発艦!」


 宇宙空母の格納庫からエレベーターにてマルチロール機が姿を現す。

 電磁カタパルトにて次々に発艦する。



「各隊、二機編隊を崩すな!」

「「「了解!」」」


 敵の偵察艦は、ほどなくドラグニル艦載機によって機関を破壊されて停船。

 拿捕した後、ハンニバルの簡易ドックに収納する。


 ……貴重な航行可能宇宙船だ。

 一隻も無駄にはしたくない。

 小さい船だが、修理すれば小型商船にはなるだろう。



 このアルデンヌ星域は重要星系なので、各国の哨戒部隊が多数暗躍していた。

 例えるなら、美味しい食べ物に群がるハエを追い払っていたのである。



「敵艦発見! 方位P-163」

「し、しかし、大きさが偵察艦ではありません!」


「艦体規模は!?」

「重巡洋艦の模様!!」


 ……偵察に重巡洋艦は大きい。

 本格的な侵攻部隊の斥候だろうか?

 此方は二隻しかいないのだが……。



「宇宙空母ドラグニルへ連絡! 艦載機を発艦させろ!」

「了解!」


 今回はドラグニルの搭乗員の習熟訓練も兼ねている。

 発艦、発艦、また発艦であった。



「艦載機部隊から連絡! 敵速度が速く捕捉不能!」


 ……艦載機で追えないほど速い巡洋艦!?

 さらに、



「提督! 敵巡洋艦、急速接近中ですわ!」


「副砲の電磁レールガンで応戦せよ!」

「了解ポコ!」


 しかし、敵艦は目を疑うような速さだった。

 敵の接近を阻むはずの電磁レールガンの射線が追いつかず虚空を彷徨う。



「敵ミサイル多数発射!」

「いかん! 撃ち落とせ!」


「了解!」


 敵超高速巡洋艦は此方へめがけて対消滅弾頭ミサイルを投射。

 ハンニバルは回避に成功したが、鈍重な空母のドラグニルはその1発を甲板に受けた。



「ドラグニル大破! 格納庫炎上!」


 ぇ~!? 修理代が……。



「許さないポコ! 主砲斉射!!」


 タヌキ砲術長が主砲に射撃指示をだすが、まんまと敵に逃げられてしまった。

 その後、高速戦艦オムライスに援軍に来てもらうが、私の当番の内には例の巡洋艦は現れなかった。



「ムカつくポコ!」

「修理が大変クマ!!」


 私はその後、空母の被害でクマ整備長にシコタマ怒られてしまった。


 ……その後、報告書を出したのだが、件の高速巡洋艦での被害がその後も続いたらしい。

 主戦線から離れているので、対策が後回しになっているらしかった。




☆★☆★☆


 先日の超高速巡洋艦は、帝国の情報局により正体が判明。

 古代アヴァロンの超兵器シュトローム・ベッサムという発掘古代船だということが判明した。

 船籍はルドミラ教国らしい。


 ルドミラは共和国から独立して日が浅いため、個々の艦艇は弱いと考えられていたが、そうではない可能性もでてきた。

 件の巡洋艦は、今度出会ったら、出来るだけ仕留めておきたいところだ……。




☆★☆★☆


 帝国宰相となったクレーメンス公爵元帥は、ヴェロヴェマのような非人族に対して寛容では無かったが、とりたてて暴政を敷く人間ではなかった。


 しかし、頂点に立つということは、強烈な孤独と猜疑心を生む。


 彼は親族であるリーゼンフェルト上級大将を中心とする体制を強化し、独裁体制を強めた。


 前皇帝パウリーネを信奉する惑星地上軍の重鎮バールケ大将と、同じく宇宙艦隊の重鎮ヘルツオーゲン大将は政治的圧力で無理やり予備役へと移された。


 逆に、第六艦隊司令官のトロスト中将、第八艦隊司令官フライシャー中将、第九惑星地上軍団長クレーマン中将の三名はリーゼンフェルト派であったため厚遇される。


 中立派は第一惑星地上軍団長キストラー中将、第五同軍団長ゾルガー中将、第七同軍団長デッセル中将。


 残りの実戦指揮官である第二艦隊司令官ベーデガー中将、第四艦隊司令官キルンベルガー中将、第三惑星地上軍団長メッケンドルガー中将は、前皇帝パウリーネ派閥と言われていたため去就が注目されていた。



――そんな時節。

 準惑星ツーリアにて、最近仲間になってくれたパルツアー少将から通信が入った。



「ヴェロヴェマ提督! 第三地上軍のメッケンドルガー様が、内々にお話があるとのことです!」


「……そうか、応接室に通してくれ!」


 メッケンドルガー中将は、パルツアー少将の昔の恩師らしい。


 顔位しか知らないが、こんな辺境まできてくれたのだ。

 ……重要な話だろうことは、容易に想像がついた。



 応接室にて待つメッケンドルガー中将は、武骨な風貌な肉付きの良い小男だった。

 白いひげが生えた頬には大きな傷がある風貌は、陸戦の勇者を彷彿とさせた。



「ヴェロヴェマ中将! パウリーネ様がご無事という噂は本当かね?」


「え?」


 唐突に聞かれて、焦る。


 ……誰だ?

 ばらしたのは?


 ただ彼はとても皇帝を心配していた。

 【邪眼】の判定は『真実』と出ていた……。


 ……彼も帝国が誇る忠臣だった。

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