第13話……不時着令嬢マルガレーテ!?

――コツコツコツ


 煙を吹いて宇宙港に不時着した宇宙船からハイヒールの音が響く。

 よく見ると、タラップから色白の女性が降りて来た。



 その女性は真っ白いドレスに、ピンクの羽帽子という派手な出で立ちだった。



 彼女の名はマルガレーテ。

 我がカリバーン帝国に敵対するグングニル共和国の地方星系領主のご令嬢だった。

 我が国で言えば、侯爵か辺境伯相当の有力者の御息女である。

 元有力者と言ったほうが良いだろうか。


 彼女の父親は、政敵に嵌められて失脚したらしい。

 かの国は民主制と聞いているが、やはりいろいろとあるのだろう。


 彼女は政敵から逃げおおせ、この帝国の辺境である衛星アトラスに不時着したとのことだった。

 政治的亡命者は手厚く受け入れるのが、我がカリバーン帝国の方針だった。

 よって、失礼が無いように整列して出迎えた。



「出迎えご苦労です」


「はっ」


 敬礼し、急ごしらえの応接間に案内した。

 クリームヒルトさんはお茶を出したあと、私の横にタヌキ軍曹殿と共に控える。



「……では、帝国本国に連絡致しますので、こちらでお待ちいただけますか?」


「それは、……。と、とても困ります……」


 少し怒った後に、なんだか恥ずかしそうに俯かれてしまった。



「え?」


「帝国の力なんて借りたくありませんわ! 私の力でお父様の敵を討ちたいんです。どうか協力してください」


 涙目で頼まれる。が、私は一介の士官なのだが……。なんともしようがない。



「そういわれましても……」


「……」

「……」

「…………このっ」


「ぇ?」


「……この私の操を貴方に差し上げても良くてよ!?」


……ぇ!?


 突然のビックリ発言にクリームヒルトさんの視線が痛い。差し上げられたとしても、なにもする力は全くないのだが……。無意味に敵が増えそうでとても困る。


 ……けど、少しうれしい、一回言われてみたかった。


 ……。



「この乙女の覚悟が受け入れられないのですか!? 蛮王ブルー様!」


 ……そ、それはお隣の惑星の王様ですよ!?


「ぇ?」


 シマッタと顔を赤らめるマルガレーテ嬢。人違いだ。いやギガースとブタの間違いか……。そもそも蛮王様がブタとか知っているのかな。



 ……その後、丁重にお見送りした。




☆★☆★☆


 その後、三日ほど皆で町造りをしていると。

 再び例の船が来た。見覚えがある。マルガレーテ嬢の宇宙船だ。



「どうなさいましたか?」


 慌てて宇宙港に出迎えると、彼女はにっこりとほほ笑んだ。



「蛮王様の言いつけで、貴方様の麾下で働かせて頂きますにゃ!」


 彼女は羽帽子をとって、タラップの上から優雅に返礼してくれた。

 ……その美しい髪の中から狐のような耳が二つに、後ろには白い大きな尻尾が現れた。

 てか、あんたも人間じゃないのかよ……。




☆★☆★☆


 こうして、我が艦列にマルガレーテ嬢の船【オムライス】が加わった。


 美味しそうな名前の彼女の船は、ミサイル軽巡洋艦。

 中距離ミサイル攻撃に特化した、火力特化の低速艦だ。よって防御力は弱い。




 ……その後、蛮王様から通信があり、



「よかったな、二隻になったから立派な艦隊だな!」


「お陰様で」


 そう照れ笑いをすると、



「いや、操をささげた殿方のもとへ行くにゃ! と言ってきかなかったぞ! あはは!」


「は……?」


 今まで生きてきた中で、最も照れた瞬間だった……!?

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