学壊一時有余
「あ、
「久しぶり、
「冷たい妹だこと、実の兄貴には挨拶なしか?」
「義理のね」
「反抗期が来たらしい」
「当ててみようか、兄貴。爆薬切らしたんでしょ。この前のホテルのやつ」
「大当たり」
「なんであれだけ渡して一発で使っちゃうのさ」
「言っとくが七の提案だったからな」
「なぁんだ、それなら早く言ってよ!」
「優しい妹で兄貴は涙が出そうだよ」
玲希の「工房」は廃業した飲食店の厨房を改造したもので、見るからに危険な物質を貯蔵していそうな青や黄の樹脂の容器や、そこからつたのように無秩序に伸びたチューブで埋め尽くされている。
「おくさまに求められるのは教養と料理の腕前でしょ?だから両方を活かして爆弾作ってるってわけ」
「この街じゃ爆弾のほうが人気だしな」
「言えてる」
部外者にはめちゃくちゃに見える工房も彼女は完璧に把握できているらしく、機材をかき分けながら玲希は進んでいく。突き当たりの戸棚を開けてビニールに包まれた爆薬を取り出し、彼女は振り返る。
「はい、前と同じ200gね」
「どうした?今日は晩メシたからないのか」
「ああ……それなんだけど」
「なんだよ、急にかしこまって」
玲希の灰色の眼はどこか遠くを見つめている。喉まで出かかった言葉を口にするか悩んでいるのか、彼女は固唾を飲んだ。しばらくして決心がついたようで、横に固く結ばれていた唇が開く。
「最近……なんかちょっと変でさ」
「何が?」
「視界の端に人がいたり……いきなり人の声がしたりするんだけど、本当にはいないんだよね」
「おいおい、変なワームもらったんじゃないだろうな……でなきゃアタマの病院だが」
「ちょっと、真面目に聞いてよ!」
「悪い悪い。七、どう思うよ」
「まあ、アタマの問題じゃないなら……誰かに侵入されてゴーストが見えてるんだろう」
「ゴースト?」
「ああ。人間の脳に侵入すると、たまに侵入者の投影が相手の感覚器に現れることがある」
「ずいぶんハイテクなストーカーだこと」
「そうなんだけど……なんていうか、キモい感じでもなくて普通のおじさんなの」
「普通のおっさんが一番怖かったりするんだよ。うちのボスとかな」
「今はまだ実害もなさそうだが、うちの勢力を削ぐためのスパイって線もある。それ以前に女の子に侵入するのは問題だしな」
八は玲希の肩を二度叩き、自信ありげな表情をこちらに向ける。その目はまるで「お前に任せた」と言っているかのようで、思わず肩をすくめた。
「それじゃ、かわいい妹のためにひと肌脱ぐかね」
「兄貴、この手の仕事は
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