病打心上起
「やっぱり装甲板の噛み合わせがバカになっとる」
「お前さんはトラックかなんかと戦ったらしい」
「ああ、まあ……重機みたいな奴だったな」
八は笑ってこちらに目配せをする。間違いない、と首肯して返す。
八はやや大柄な体格の男だが、クラブで彼が戦った男はそれを凌駕する体躯を持っていた。小細工なしで戦えばおそらく勝率は三対七といったところだが、八はそれを十割に押し上げる「手品」を持っていた。能ある鷹は爪を隠す、ではないが、彼は実力を隠すタイプではない。にも関わらず彼の
「修理する側の立場にもなってみろ」
呉は後頭部から伸びたケーブルを整備用の機材に接続する。辮髪のように長いそれは老人の電気信号を伝達する役割を果たしていて、繋がれた途端に機材は無数の生命体のように蠢きはじめた。
「こいつ、イトミミズみたいで嫌いなんだよ」
「黙って座っとれ」
「はいはい」
八の修理が終わるまでの間、屋上に出てぼんやりと海を眺めていた。
下に戻ったとき、呉老人はなにやら赤い布を広げて線香をあげていた。何事かと尋ねようとしたが、その前に口火を切ったのは八だった。
「爺さんが俺の運気が低すぎるって言うんでな、なんか……とにかくやってもらってんのさ」
呉の言うには、この儀式は対象者を神の養子とすることで運気や力を分けてもらうためのものらしい。今回の場合、八は怪我(損傷と言ったほうが適切か)があまりに多いので医神である保生大帝と養子関係を結び、息災を祈願するそうだ。
養子の宣言を終えた呉爺は最後に神から養子の承諾を得るため、
「投げ直しとかアリなのかよ」
「劉備とて一度で諸葛亮を得たわけではない」
「まあ、爺さんがいいってんなら結構だが」
最終的に八は養子の赤い布と、線香の灰が詰まったお守り袋を持たされて呉老人の工場を立ち去った。布を丸めて後部座席に投げ込んだ八は、早速というべきかお守りをルームミラーに結んでいた。
「お前、そんなに信心深いタイプだったか」
「
ばたん、とドアを閉めると視界の端でお守りが揺れる。ルームミラーの角度を微調整しながら八が口を開く。
「七、来てくれてありがとよ」
「お前だって毎回ついて来るだろう。当たり前のことだよ」
「そうかね」
「そうさ」
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