最終話 怯える少年。


「香坂さん家のレストランが特殊なんです」

「うちのレストランが特殊?」

「正確にはレストランのある丘の上が特殊なんです」


転校して来たばかりの少年が、なんで丘の上にレストランがあるって知ってるんだろう?


嘘を着いている様には見えないし、那実人くんの目が綺麗過ぎて、何か特殊な少年なのかも知れないと思えた。


「江戸時代、と言っても幕末ですが、その丘の上に饅頭屋があったんです。

その日、雨の日であったにも関わらず、創業祭の食べ放題セールにつられて、多くの食い意地のはった街の人が訪れたそうです。店内は大盛り上がりだったんですが、雨が止む気配がしない。雨はどんどん降り続け、ついに大洪水へと発展しました。丘の下の街の人々は逃げる間もなく、丘の上にある饅頭屋にいる人だけが助かったんです。食い意地のはった人だけが。


死んでいった人たちは、丘の上の饅頭屋に行っておけば良かった・・・もっと食い意地が張っていれば良かった。と言う想いがこの地には残ってしまったんです。

だから雨の日には、その想いに乗せられた、乗せられやすい人、そう言ったのを感じやすい人が、香坂さんのレストランへと向かってしまうんです」


そう言えば・・・大昔の洪水の話はどこかで聞いたことがある。


そして、通常レストランは雨の日は客足が減るらしいけど、うちのレストランは逆に人が増える・・・そう言う事か。


丘の上の饅頭屋に行けばよかった・・・もっと食い意地が張ってれば良かった・・・

わたしは、ちょっとゾクッとした。


まさかの話の展開にわたしは驚いたのだが、ちょっと怖くなって話を代えた。


「那実人くんは一人暮らし?」

「うん」

「ご飯とかちゃんと食べてる?」

「うん」

「わたし料理人志望だから、料理上手いんだよ。作ってあげようか?」


つい1人暮らしの男子中学生を前にして、自分の料理の巧さを、自慢したい欲求が出てしまった。考えてみれば男子の部屋に行くって事だ!


那実人くんは、少し怯えて

「吾輩は・・・都会の人の女の人は・・・・ちょっと」

と。


離島で、からかい半分で何か入れ知恵をされたのだろう。

都会の女の人は・・・どうのこうのと。


この街は都会ってほど都会ではないし、どちらかと一般的には田舎なのだが。

まあ、怯える那実人くんは、可愛かったので、今日は許してあげよう。


とりあえずわたしは、この転校生との仲良し一番乗りを果たした。



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