不倶戴天の道なれや-2

 数年前、夕暮れのあの日。弘明寺公園にて光隆はクラスメイトと遊んでいた。


 「よし、次光隆が鬼な!」

 「おっしゃあやるぜ!」

 「やべえ光隆が鬼だ!」

 「みんな狩り尽くされるぞ!」


 ショッピングセンターに付随するアスレチック、夕日に照らされて白亜のそれは今やオレンジになっていた。ここは、横浜市磯子のショッピングプラザ。側に東京湾が見え、子供達が時折バスで遊びに行く場所であった。


 「がははは!光隆半端ないって」

 「そうか?」

 「ドロケイじゃお前に勝てる奴居ないって」

 「今回5分は持ったんだから俺らも健闘した方じゃねえか?」

 「よおし次は負けないぞ」


 『お前ら離れろ、そこに居たら…!』


 ドォォォン


 根岸のコンビナートで大爆発が起きる。その衝撃波は光隆たちの居るショッピングモールに一瞬で届く。ニュータウンの家屋の硝子が飛び散り、悲鳴が町内に轟く。


 「なんだ…?」

 「工場が燃えてる…何で?」

 「おい、今度は地震だ。何が起こって!」

 「海保の基地の方…」

 

 更に突如日時計公園の付近の地面から巨大な蜘蛛が出現した。そしてその蜘蛛は炎を放ち、大岡川より東の根岸エリアが炎に包まれた。


 直後の事だった。空中から飛んできた無人機がコントロールを失いショッピングセンターに衝突し倒壊させてしまった。


 「おい!□□!しっかりしろ…あぁ、血が…息もない。お前は!□□は?□□も…」

 「生きたい…光隆、苦しいよ…」

 「□□!!」


 自分だけ、生き残ってしまった。自分も少しでも違っていれば彼らと一緒に死んでいたかもしれない。


 泣き叫び、友達だったものを引きずりながら三敬園へと歩く。炎に包まれる自分の町を、水に愛された少年はただ見つめるしか無かったのだ。


………


  光隆「ん…どうしたんだ?」


 艦橋でトトスケと居眠りしていた光隆が、光音の足音に目を覚ます。そして、戦術長席から艦長席の光音の方を振り向く。


 光音「ううん、寝ながら泣いてたから…」

 光隆「都姫さんとの話は?」

 光音「わたし、やっぱり姉さんと話さなきゃ。きっと何かあるんだよ、やっぱり。それなのに…私は、わたしは景治姉さんの事を誤チェストして…」

 光隆「…」


 光音は顔を覆って、泣きじゃくる。光隆も、その様子から自分のパーカーを脱ぎ光音に被せる。そして、LA15の起動キーを押して叫ぶ。


 光隆『お前が信じる、景治を信じろ』


 戦艦のエンジンの起動音よりも大きな声で叫び、それは外の人にも伝わる様な勢いだった。


 光音「え…!?」

 光隆「行くぞ、敷島に。薩摩硫黄島にレトキが来てんなら、そいつをぶっ飛ばしてからだ。

 興一さんの事だって、きっと何かが理由あるに違いない。負荷は俺が背負う、艦長なら号令を出せ!」


 光音は自分のためを思って自分の身を顧みず、海護財団の総司令官として頑張っていた姉の真意を薄々気づいていてはいた。でも光隆が居るとはいえ、その寂しさからいつしか感謝は恨みに変わっていたのかもしれない。

 しかし景治は、ずっと自分とその親友たちを思って戦い続けていた。景治はそんな光音だからこそ預けたのだろう。


 光音「分かった、会って確かめなきゃ」

 光隆「出力オールグリーン…行くぞ!」

 光音「LA15ミライ、発進」


 後方に緑の炎をふかし、藤色の巨体が前進する。後方には空色の航空駆逐艦カリブディスと夕暮れ色の魔導実験艦オーバーカムが随伴する。


 掛瑠「自分たちは福岡の暴動を抑えます!」

 有理「こっちは任せて」

 陸唯「だから行ってこい、光隆、光音!」

 カンナ「光音なら出来ますわ」

 チョウナ「総員、自分の得意な事をやれ!命は落とすなよ!」


 仲間の激励もあいまり、LA15は増速。九十九島海域を過ぎた辺りで更なる加速を起こし音速を超えた。


 光隆「機嫌いいな、お前」

 光音「誰と話してるの?」

 光隆「こいつ、聞こえないか?」

 光音「まさかLA15と?」

 光隆「お前も喋れると思ったけど、何でなんだろう?」


………


 この日の福岡市跡地は大変な事になっていた。まずこの土地は数年前に焼け野原になっており、そこに難民が比較的安全とされた日本に流れ込んできたのだ。故に、難民たちの故郷が安全になったからお迎えに上がった次第だ。


 船への搭乗は数日前から始まっており、大半の難民は乗り込んでいたが日本を離れたくない人たちもおり、彼らが暴動を起こしている…かと思いけや、それはある魔物が煽動していた事だった。


 双樹「一体どうなっている?」

 オペ1「福岡市長垂浜付近にて暴動、乗船しようとしていた人たちの列に乱入し暴れ死傷者多数!」

 オペ2「更に海域に武装漁船が出現、フェリーに襲撃を!」


 昔は日本も他の国と比較して治安が良かったが、西暦2046年当時かなり悪化していた。しかも壊滅した町の瓦礫の上に住んでいた訳だから、普通に清潔な海護財団製の船内で生活できる方が幾分かマシだった。


 双樹「1番近い艦を迎撃に向かわせなさい」

 オペ1「ボネット海将補が無人機の上に立ち乗りして出撃!」


 この艦隊は杵築型二段軽空母8隻を帰郷船として運用、更に4隻はその護衛を行なっていた。更に周囲にはカルミア級フェリータイプが複数博多湾に停泊しており、そこに攻撃を加えられている相当厳しい状況だ。


 「火事だー!」

 「変なデブが街を破壊してる!」

 「おかーさん!どこなの!」


 町に悲鳴が溢れ、人々は逃げ惑う。その最中最も安全なのが船の上だと言う流言(一応嘘ではない)が流れ、沿岸のカルミヤフェリーに人々が殺到する。


 「乗せろ!」

 「助けてくれ!」

 「奴らが迫ってるんだ!」


 成茂「畜生何で帰郷拒否してた奴らが率先して流れ込んで来るんだ!」

 部下A「そう言うもんです仕方無いっすよ!」

 部下B「すぐにフェリーが来ます!下がってください!」


 これまで数日、帰郷船団への乗り込み手続きは行っていた。しかしその最終日にこんな事になるとは…


 双樹「避難とは、生活を捨てるのを強いると言う事。皮肉だ…こんな事がきっかけに家に帰らねばならぬとは」

 オペ1「キマイラオート出現!」

 双樹「ヘリコプター部隊を投入、絶対に防げ。」


 複数のAH-1ヘリが飛び立ち敵を迎撃する、されど今回の敵は一味違った。キマイラオートにNS-23(旧ソ連の23ミリ)機関砲を積んでいたのだ。


 オペA「敵の対空機関砲にてヘリ隊第一波が殲滅されました!」

 双樹「第二波ヘリ隊に緊急帰還を命じる。やはり艦隊が必要か…ボネットは何処だ」

 オペ1「ヘリ隊に先行、キマイラオートを撫で斬りにしてます!」


 ボネット「手応えが無い、所詮は自尊心が膨れ上がっただけの愚者か。如何なものかと思えば剣の錆にする程でもない、愚かな少年共に委ねるとしよう」


 騎士が見上げる夜空、二隻の戦闘艦が飛来する。片割れは頭上にリングを冠し、片割れは後方に電磁波の尾を曳いていた。オーバーカムとカリブディスが現れたのだ。


 信之「沖合に武装漁船70隻!」

 陸唯「そんなにか…」

 チョウナ「かわいい…一隻貰ってもバレないかな?」

 泰郎「やめとけ60m近くあるらしいで」

 掛瑠「どうする陸唯?」

 陸唯「カリブディス、信之にヘリ全部委ねろ。この船がシールドを出す、だからお前がアタッカーをやれ!」


 掛瑠「了解、無人ヘリ全機発艦!」

 有理「主砲撃ち方はじめ」

 信之「操縦受け取りました、攻撃スタート」


 海護財団艦の荷電粒子砲は実弾も撃つことができ、ここでセットされたのは食塩の飽和水溶液入った大きな瓶ボトルであった。


 キマイラオート「ギリリリ」


 キマイラオートは上空から飛来する物体に機関砲を照射、ボトルが割れて中から大量の食塩水がばら撒かれた。


 キマイラオート「グァァァァ」


 考える能力は消滅していたが痛覚は残り、群れが苦しみ始めた。


 チョウナ「いくら呪われた存在とは言え、この程度で苦しむの?」

 掛瑠「人生は苦しみの連続、苦しみから逃れようと手短にある薬瓶を手に取った。それが猛毒と知らずに、盲目に…」

 有理「そこから貴方は帰って来たの、本当にすごいよ。さて、どう助ける?」

 陸唯「信之、無力化したからヘリで殺れ」

 有理「え?」

 信之「やっと故郷に帰れるはずの人たちを殺させてたまるもんですか、このぉ!」


 無人ヘリによる機関砲の掃射が、轟音を立てながら弱る敵に徹底的にトドメを刺してゆく。


 信之「ハァ…ハァ、やったぞぉ…!」

 有理「ちょっと待って殺る必要は無かったわよね?」

 掛瑠「よし、あとは沿岸の…」


 掛瑠が艦砲射撃を命じようとしたその時、カリブディスの甲板に何かが刺さり、そして爆発を起こした。


 有理「うわっ…なんなの?」

 カンナ「志賀島の沖合にいっぱいの船、識別しました…ってこれクライトゥス級ですの?」


 チョウナ「弾幕掃射…クライトゥス級は以前カーボベルデにあるブラバ島がレトキに占拠された時、通常動力でありながら標高900メートルの火山島を艦隊の弾幕掃射で真っ平らにした兵器。その真価をここで示すか…」


 カーボベルデのブラバ島は、日本の伊豆大島より少し小さい島だと言うが火山島ごと通常兵器でレトキを殲滅した実例として有名。

 クライトゥスはその矢面に立った恐ろしい艦であり、その本領発揮は寿圭の様な単体運用ではなく艦隊運用にある。

 そんなものが人工密集地たる福岡に向けられている状況は、絶望でしかなかった。


 陸唯「カンナァ!」

 カンナ「分かってますの!ハドリアン・ウォール!」


 大量の弾幕が、かつて三国志の空を覆う火矢の如く飛来する。しかも全て33.4センチ迫撃砲の砲弾、火矢ですら屋島から平家軍を追い払うには容易なのに迫撃砲の雨あられ。どれほどの被害になるかは考えたくも無かった。


 有理「うわぁぁぁ!」

 掛瑠「やらなければ、こうやってやられるんだ。有理ぃ!」


 その弾幕は、封鎖するに邪魔なカリブディスとオーバーカムに向けられた。カンナの今現在の魔力でコントロール出来る最大幅を、オーバーカムの力で増幅し展開するも、周囲に落着する砲弾の水柱が、防壁に砲弾が当たり生じた爆炎と轟音が、光隆と興一と言う精神的支柱が不在の彼らには恐怖でしかなかった。


 泰郎「こんな所で…死ぬのは嫌や!」

 カンナ「この弾幕を止めるだなんて埒が開きませぬの、プロトゲイザー砲を使いましょう。」

 チョウナ「アレは基本的にライラック艦しか持ってない、カリブディス!」

 有理「もうなによ!?」

 陸唯「こっちで弾幕掃射は防ぐ、重粒子砲であの艦隊を焼き払え!」

 有理「そう言われたって…」

 掛瑠「ターゲティングスタート」


 困惑する有理を他所に重粒子砲のチャージを開始する掛瑠。重粒子砲はプロトゲイザーより弱いものの、一個艦隊を叩き潰す程度は余裕の代物だ。


 有理「なんでそんな喰い気味なのさ!」

 掛瑠「奴らはもう人間じゃない、あの雰囲気は寿圭らと同じ。」

 有理「許せないのは分かるけど、それやったら自分も奴らと同じになる」

 掛瑠「分かってる、もうなってる。これ以上なりたくない、だからここで終わらせるんだ。」

 有理「…周囲の艦に次ぐ、至急対閃光防御!急げ!」


 撃つ事で沢山の命が消える。されどもここで敵を撃たねば帰郷を望む人々が希望を絶たれ死んでしまうに等しい。掛瑠には、覚悟は出来ていた。


 有理「エネルギー充填、120%」

 掛瑠「重粒子砲、撃て」


 カリブディスが大きく咆哮する。荷電粒子砲の上位互換、1067ミリ重粒子砲の一撃は福岡湾の出入り口に展開したクライトゥス級の大群を飲み込み、これを跡形もなく消しとばした。


 双樹「いつ見ても美しい…本艦隊の被害状況を確認、敵後続が来る前に望郷の意思ある者を乗せ出港する。」


 掛瑠「焼き…祓えた」

 チョウナ「えげつない」

 有理「本当にプロトゲイザーの下位互換なの?」

 チョウナ「あの時居合わせた興一さんによれば、osの不具合で全くチャージされずに打ち出されたらしい。」

 掛瑠「全くチャージされずにあの威力を出したプロトゲイザーに慄けばいいのか、出処不明の超兵器に拮抗できる重粒子砲がヤバいのか…」


 恐らくどちらもだろう。そう脳内で確信した掛瑠は、薩摩硫黄島に向かった兄の事を心配していた。


……………

……


 30分ほど時間を遡る。光隆と光音が乗るLA15は薩摩硫黄島の沖合い、遷音速にて航行する。


 光音「敵は?」

 光隆「2つの火山のど真ん中、北からだとその前の山が邪魔だ!」

 光音「どうしよう?」

 光隆「波状攻撃は維持、俺たちは周囲の弱いのをパルス砲で撃破。外輪山と身鉢の裾野がバッチングする位置から奴に突撃かますぞ!」


 LA15は周囲に強烈なエネルギーを振りまきながら進む、レトキシラーデにとっては鴨がネギを背負い特攻を仕掛けてくるに等しかった。


 レト「キィィィィ!」

 光音「その軌道、甘い」

 光隆「陽電子砲、喰らえ!」


 されど鴨に擬態した、強大な猛禽だとしたらどうだろう。鴨ネギに群がろうとしたレトキこそ、彼らからしたら鴨なのだ。


 光隆「何かここのレトキシラーデ、思ったより弱いし少ない」

 光音「多分コロニーがまだ形成出来てなかったのだと思う。来るのが明日とかになってたら、こうは行かないはず。」


 光隆「分かった…全砲門、一斉射!!」


 LA15の猛攻、それは阻むもの全て薙ぎ払う。されどその全力を、その船の武装は引き出す事が出来ていなかった。


 光隆「山と山の間、多分あれがボスだ」

 光音「お山の大将…私の苦手な言葉です」

 光隆「リニア砲、劣化ウラン弾装填…」

 光音「待って、加速して突っ込むわ」

 光隆「なんでだ?」

 光音「良い考えがある」


 LA15が薩摩硫黄島の周囲を一周し、その間に遷音速からマッハ4にまで加速、勢いそのまま拠点型レトキ(お山の大将)に突っ込む。

 しかしお互いの硬さによりどちらもへし折れずに、ただ周囲には強烈な衝撃波が舞う。


 光音「光隆!」

 光隆「LA15、どうだ?」


 刹那、光隆の脳内にた奴の情報が流れ込む。ドリルをマグマ溜まりまで伸ばし、マントルから直接エネルギーをパクろうとしていたのだ。


 光隆「よぉし奴がぶっ刺してる2つのドリルを使えなくしてやる!増幅システム、フルパワー‼️」


 光隆は何を思い付いたか能力を起動、奴のドリルの付け根に対して“八つ裂き渦潮”を展開して腰からぶつ切りにし地面と本体を切り離す。

 幸いまだドリルはマグマ溜まりには到達しておらず、それでいてレトキの体組織は凄まじく硬いが本体から切り離されると地面に同化する様だ。


 そんな事はつゆ知らん光隆と光音はLA15のスラスターをフル回転させてお山の大将を海の上へと押し込む。


 光隆「終わりだぁぁ!!」

 光音「チェックメイト!!」


 艦首が腹に突き刺さるお山の大将。必死に抵抗するが陽電子徹甲砲の一撃がコアを貫き、それによって開いた亀裂にLA15は突貫する。

 レトキの身体は引き裂かれ、直後に大爆発を起こす。


 光隆「よっしゃぁ!」

 光音「単独で…撃破しちゃった」

 光隆「勝負はこれからだ、光音!」

 光音「分かってる、行こう」


 若干の損傷は受けたものの、鬼界カルデラの上空をひとっ飛びして海護財団総本部を目指す。


………


 里帆「薩摩硫黄島のレトキシラーデ、反応消失。」

 茜「原因究明、急がせて」

 イズナ「澪が非番の時、アナタがやってるんですネ」

 茜「あら、ご存知なかった?」

 里帆「超音速で伊豆大島の沖を突破する物体を確認。」

 茜「どう言う事?」

 里帆「照合、セイファート級3番艦 LA15“ミライ”です」


 景治「…来たか」


 日本海溝の上空で減速、LA15は敷島メガフロート群を突き飛ばす勢いで接近する。


 里帆「LA15急減速、高エネルギー反応です!」

 茜「何が…どうなって?」

 イズナ「ここは景治と私に任せて」


 LA15は海護財団総本部の南、距離3125にて静止。プロトゲイザー砲の発射態勢へと移る。


 景治「何のつもりだ、光音」

 光音「…」

 光隆「景治、お前気付いてんだろ。お前から話せよ」

 景治「さぁ、君たちに星団破壊兵器を向けられる様な事をした覚えはない。」


 総司令として、ここでは毅然と対応するしか無かった。相手もこちらも星団破壊兵器“プロトゲイザー砲”を保有している為、もしここで互いに撃ってしまったら被害は太陽系では済まない。


 イズナ「今度はLA15にOSの不具合なんてないデス、プロトゲイザーがここに直撃したら地球ごと…いや太陽系ごと消し炭になる、カゲハル!本心を見せなさい!」


 イズナが檄を飛ばす。されど景治は態度を崩さない、それどころか要塞砲が姿を表す。


 景治「君たちが、この海護財団をどうしようと言うのかね」


 光音「姉さんはいつもそう、自分は他人事だとばかり思って。偉そうにそんな席に座って大君気取りで、私たちのことを放っておいて…」

 景治「…」

 光音「それなのに私を知っている気になって、いつも上から目線で…怒るよ、姉さん。」

 景治「!」

 光音「何で私を置いていったの!」


 光音の咆哮と同時にLA15の3連装陽電子カノン砲が放たれる。威力は六連装ビームと同じだが貫徹力では圧倒的で、投射された瞬間要塞付近を防衛するカルミヤ級無人仕様を一撃で貫く。


 光隆「光音は、景治と一緒に居たかったんだ!なのに、お前が一言も言わずどっか行っていつも泣いていた。」


 景治「それが出来なかった、緊迫する対レトキシラーデ情勢や海護財団内部の不届き者共の警戒、全てこなせる能力者はあの時僕しかいなかった。君たちを守るためのことだ、それなのに…。君たちこそ分からず屋だ」


 イズナ「要塞砲、ターゲットは艦底部…そう言う魂胆デスカ」


 敷島の海護財団本部には複数の80センチ陽電子ビーム砲が存在する。光隆達の居る南側へ指向できる門数は6基24門、その全てがLA15を狙う。


光隆「うわぁぁぁ熱い‼️」

光音「やはり、光隆にだけ痛みが…!」

光隆「痛みは俺が背負う。構うな、景治に言いたいこと伝えろ‼️」

光音「分かった」


 イズナ「全弾命中、しかしamazingデス」

 景治「全弾命中も効果なし…要塞砲では効かぬとは、流石母さんが遺した…」

 イズナ「現状最大威力の要塞砲が効かないとは…」


 景治は思った。否、常に想っていた。光音と、光隆の事。そして彼らが生きてゆく世界な事を。自分が矢面に立てば彼らの生きる時間が、世界が1日でも保たせる事が出来るのだと。

 されど、彼らと心の距離が離れてしまっていたと悟った。


 しかし光隆と光音は、全くそんな事は考えて無かった。寧ろ光音はチェスト事件以降、景治の戦う理由を知ろうともがいていた事を光隆も知っている。その結論が…


 光音「姉さんが背負ってるもの、少しでも私も背負う。その覚悟は出来ている。」

 光隆「俺も背負う!だから景治、光音の話を聞け!!」


 景治「…!!」


 景治を否定した光音だが、本心としては姉を愛していた。それ故の裏返しがチェスト事件だった。全くチェスト出来てない、その自己矛盾と向き合い景治の下へ再び舞い戻ったのだ。


 景治「きみ…達」

 イズナ「…カゲハル、貴方は人の心が読める。だけどそれを相手に求めてしまい、ここまでになってしまった。だから、イッパイ話せばいいと思うよ。」

 景治「…戦闘態勢を解除、LA15は海上で待機してほしい。」

 光音「!?」

 景治「長らく、光音には迷惑をかけてしまった。本当に、ごめん…君のもとに、行くよ。一杯、話そう。」


 景治の目に涙が浮かぶ。そして光音も涙を浮かべながら、LA15を着水させた。張り詰めていたCDCに、安堵が広がってゆく。


 里帆「第3機動艦隊より入電!異常増殖したクライトゥス級130隻全艦を撃破、筑紫艦隊は間も無く帰郷船団を引き連れ福岡を出港します」

 茜「分かった、デフコン2から3へ移行。本部防衛システム格納・点検急げ。景治司令、始末はやっておくわ、久々の一家団欒を楽しんできなさい」

 景治「わかった、頼む」


……………

……


 海上に、セイファート級2隻が並ぶ。かたや空に浮いていたものが、かたや海の中から。タラップが甲板から甲板へと橋渡しを行い、二人の少女が片方の船、LA15へと入ってゆく。


 光音「ねえさん!」

 景治「光音!」


 互いに駆け寄り、深く抱擁する。数年間の孤独を埋めるかの様に。


 景治「無理をさせて、苦労をさせた挙句、意地を張ってしまった。」

 光音「いいよ、私だってチェストしたし船を沈めちゃった。」

 景治「いいんだ、無人艦の一つや二つ。君がここまで育ってくれたのだから」


 二人の表情も、雪解けを感じさせた。景治の次回にも、彩りが蘇る。


 景治「光隆、光音をありがとう」

 光隆「友達なんだ、当たり前だよ」

 景治「そうか…今日は僕の船に泊まって行くと良い。LA15に少し改装を加えたいんだ」

 光隆「分かった」


 景治「分かってくれたか…さて、ここじゃ寒い。船の中で晩御飯としようか。何食べたい?」

 光音「ちゃんぽん!」

 光隆「久々にいいなぁ!」

 景治「分かった…イズナ、頼めるかい?」

 イズナ「OK、とびっきりのを作る!」


 この月夜に食べたちゃんぽんは、そんな姉妹の心が温まっていく様だった。縁と言うものはそのスープのように、様々な具材を繋いでゆく。誰だって、その縁の中心なのだ。

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