生徒たちは祝いたい

興一「僕の名前は弓張興一、君は今日これを聞く事は無いだろう。何故なら…」


 弓張興一、彼は2046年現在24歳独身。つまる所来たる2022年5/5日に産まれたのだ。


───────────────────


 グラバー邸にて都姫からの緊急極秘司令を貰った光隆たちは、とうとう明日に迫る興一の誕生日を今聞かされたところで慌てふためいていた。


光隆「やべぇよ、このままじゃ何も出来なくなる」

掛瑠「一生の不覚…」

光音「まだダメと決まったわけじゃないわ!」

有理「都姫さん、私たちにこれを直接言い渡しに来たと言う事は、何かしてくれるって事でしょう?」


都姫「…そうね、それぞれに5000円を渡す。これで貴方達の思う最高の誕生日パーティーを演出してみて!」


 そう言うと都姫は光隆たちに5000円を渡すと、VTOL機から縄梯子が降ろされ乗り込んで何処かへ行ってしまう。


掛瑠「所で、交通費どうするの?」

有理「財団パスカでいいでしょ」


陸唯「取り敢えず分担決めようぜ。」

光隆「そう言えば、興一さんの好物って何だ?」


── 空間に沈黙走る ──


 そこですかさず光音が都姫に連絡を掛ける。


光音「…都姫さん!許嫁なら知ってるんでしょう?」

都姫「何を?」

光音「興一さんの好物!」


………


 その頃、興一は佐世保江迎支部で書類仕事に取り掛かろうとしていた。


興一「あれ、パスコード合ってるはずなのに…」

樒果「入れないの?取り敢えず私のを使ったら?」

興一「分かった」


………


光音「やっばり海鮮が好きなのかな?」

有理「それなら呼子のイカは欠かせないね」


信之「でも漠然と海鮮じゃ何作れば良いのか分からない」

進矢「どうまとめ上げるか、やはりそれが問題になる訳か」


 一同が再度悩みにふける中、カンナが口を開く。


カンナ「そういえばJapanese UDON をまだ食べてないわ!」

掛瑠「そうか、五島うどん!」

チョウナ「なぁにそれぇ?」

有理「五島で食べられてきた細いうどん。と言っても、直径はラーメンの太麺くらいはある」

光隆「確かあれってアゴ出汁と柚子が欠かせなかったと思うけど、どうするんだ?」

信之「普通にポン酢に柚子が入ってるので代用する。としてもアゴって?」

掛瑠「トビウオの事だよ」


 こうして、グラバー邸での会議は進んでゆく。時間は5/4日の13時頃だった。


光隆「とりま分担決めようぜ」

陸唯「光隆と光音はトビウオの確保、信之と進矢はイカや海産物を頼む。掛瑠と有理はうどんの麺、俺と泰郎とグラバーズで場所の確保やスーパーでの食材調達をやる。」


信之「あれ、ちょっと待って。」

陸唯「どったの?」

信之「ちょっと考えてみて、うどんってパーティー食に結構向いてなくない?」

掛瑠「しまった…確かにパーティよりも普段の食事とか、駅とかでチャチャっとビジネスマンが食べてる印象がある」

進矢「意外な盲点だった…」

陸唯「仕切り直しか?」


 再び議論が暗礁に乗ってしまった。だがここでこの男が妙案を閃く。


光隆「流すっきゃねぇ」

光音「え?」

光隆「おうどん流すっきゃねぇ‼️」


光音「そっか、五島うどんは素麺に近い。ならそうめん流しの要領で流して、つけ麺として食べる。そう言う事でしょう、光隆?」

光隆「あぁ!」


陸唯「決まったな、俺とグラバーズは竹を取りにホームセンターへ行くか。」

信之「他にも、何か美味しそうなものを発見したら買って良いんだよね?」


光隆「よーし、パーティを盛り上げるぞ!!」

一同「オー!!」


………

……


 一同はグラバー邸から長崎駅に移動、長崎新幹線に乗る様だ。


進矢「呼子なら佐賀まで新幹線かもめ、そこから唐津線で西唐津。西唐津からバスで25分か…」

信之「トータル3時間だね」


光隆「俺たちは大村にある空港から五島まで行くんだっけ?」

光音「さっき都姫さんに連絡取ったけど、佐世保の旧本社まで戻って来てくれたら船が出せるって!」

陸唯「じゃあ佐世保組は早岐まで一緒か…」

カンナ「来たわよ!」

泰郎「こいつがかもめか…」シミジミ


 ホームに新幹線がはいってくる。かもめと名付けられたその列車はN700系をベースとした車両が使われていた。


(最もこれを書いた2022年5月初頭ではまだ営業運転をしていなかった事と、2046年ではかなり旧式化していた事を留意されたし。)


 泰郎はここぞとばかりにデジカメで新幹線を収めた。


光隆「泰郎って電車が好きなのか?」

泰郎「そうさ。鉄道博物館とかにも行ってみたいんだがな…」

光音「そろそろ出るってよ!」

光隆・泰郎「はーい!」


 やはり新幹線は早かった。時速250km以上の高速で各地を結ぶのは、文字通り夢の超特急と言えた。


光隆「やっぱり速いや!」

光音「海の中の超特急も良かったけど、やっぱり新幹線は景色が見れて良いね!」

チョウナ「あ、大村の長崎空港と自衛隊基地だ!ヘリとか居るかな?」


 こうして新幹線を味わった一同だが、トビウオ調達組と竹及びその他パーティ準備組は早岐で降車し特急みどり号を待った。

………

……


 光隆と光音が弓張重工佐世保旧本社に到着したのは15時を回っていた頃だった。ちょっとした林を抜けた反対側には、相浦火力発電所がある辺り佐世保市から少し郊外にあるエリアだった。

 その前にはちょっとした川の河口があり、佐々浦と呼ばれているのだとか。

 そんな佐々浦に紫色の船が浮かんでいて、それをVTOLで今まさに吊るそうとしていた所だった。


都姫「待っていたわ!」

光隆「お願いします!」

光音「ちょっと待って後ろのになんで突っ込まないの?後ろのは要さんが操っていた陽電子砲打てるボートですよね?」


都姫「そう。mod2037改「チーターラビット」海護財団と我が弓張重工が開発した最強のボートよ!!」

光音「それをVTOLで運ぶんですか!?」

都姫「明日までにアゴが欲しいんでしょう?善は急げだよ!!」


………


 佐世保駅まで一緒に行動していた陸唯たちは、佐世保駅からほど近い「7番街」と呼ばれるショッピングモールを訪れていた。


陸唯「さぁてここなら色々揃うだろう」

泰郎「でも竹とかどう運ぶんや?」

チョウナ「これは財団の最高機密なんだけど、この筒さえあれば竹なんてすぐに仕舞えるの」

泰郎「それワイに言いふらしてええんか?」

チョウナ「大丈夫でしょ(すっとぼけ)」


 こうして一同は7番街を歩いている訳だが、ここでカンナが思わぬ行動を起こす。


カンナ「あールナ・バトン、こんな辺境にもあるんだ!こっちにはポーラまで!!」

チョウナ「辺境って…」

陸唯「やべぇ、すっかり忘れてた。カンナとチョウナがイギリス貴族、ヨーク公の一族だった事」

泰郎「何かマズイのか?」


陸唯「あいつに任せてたらどんな食材買ってくるか分からねえ、俺がコントロールするから泰郎はチョウナと二人で竹買ってくれ」

泰郎「お、おう」


陸唯「カンナ、ここは明後日来ようぜ。それに5000円じゃこれら買えねぇから」

カンナ「大丈夫よ、ブラックカードあるし。それに何か食材任せられないって言ってたけど、それもこれがあれば大丈夫よ」

陸唯「それが問題なんだよ、ほら行くぞ!!」

カンナ「(´・ω・`)」


 そして陸唯とカンナの(主に陸唯にとって)地獄の食材調達が始まった。


カンナ「これとか良いんじゃない?」

陸唯「オイそれ最高級のイワナじゃねーか却下だ信之が気ぃ失う」

カンナ「これは?」

陸唯「最高級日高昆布かよ今度は、北海道物産展に来てる訳じゃねえから。却下だ合わせ出汁は最初っから考えてた訳ちゃうやろ」

カンナ「北海道じゃなかったら良いんでしょう?はい、神戸牛にアグー豚」

陸唯「言い方が悪かった、ブランドはやめろ」


カンナ「じゃあこれ…」

陸唯「ようやく普通のだよ、柚子ポン酢。あ、鶏肉みっけ。合わせるならやっぱりササミだよなぁ」

カンナ「そう言えばゆうぐもで牛乳切らしてたね。」

陸唯「あれ、雲仙牧場なのに北海道?表記ミスかな…?」


 そして何やかんや買い物を終えた一同は、カンナの提言でカフェで休憩していた。


陸唯「全く大変だったよ…」

カンナ「でも私いて良かったでしょう?こうしてブラックカード使ってスナーバックスでお茶出来てるんだし」


 カンナはそう言いながら紅茶を啜る。


泰郎「え…」

陸唯「言ったやん。泰郎とチョウナはどうだった?」

泰郎「こっちは早々真っ直ぐな竹買って終われたで。でも…」

チョウナ「護衛艦ちょうかいやのしろのプラモがあったから黒札で買っちゃった」

陸唯「まぁチョウナだし…」


 尚この後、都姫が手配したメイドや執事達が真申(弓張重工旧本社の裏手あたり)の弓張別荘に運んでくれたのだとか。


………


 陸唯たちがお茶してる頃、進矢たちは漸く呼子に着いたようだ。


進矢「ここが呼子…」

信之「こんどゆっくり観光したいね」


 そんなこんなで地元の鮮魚店へと立ち寄った。


進矢「御免ください!」

信之「知り合いの誕生日に何かおいしいものを作りたくて…」

店主「あー、それなら僕たち?朝市の方が良かったかもしれんねぇ。」

信之「朝市?」


 説明しよう。佐賀県呼子の朝市は日本三大朝市の一角とされており、特にイカ料理が名物なのだとか。他にもウニや魚コロッケ、イカせんべいにサザエやアワビなどが美味しいと言う。

(他は石川県の輪島朝市と千葉の勝浦朝市とされる)

 尚、著者は一時期佐世保市に住んでいたのだがついぞこの朝市に行けなかった為両親から聞いた事やネットの情報を参照している。


店主「という事で、朝市の方が断然売ってる魚も多いしオススメやけん明日朝来な。」

信之「ありがとうございます」


 ある種目的を失った信之たちだが、目の前には海中展望船が居た。


進矢「せっかくだし、あれ乗って行こうか」

信之「海中展望船?」


信之「わぁ凄い、魚が沢山いるよ!」

進矢「ここら辺の海にはこんな魚が…あ、サンゴまである!」

信之「光隆も潜ればこんな景色を見れるんだろうな…」

進矢「?」

信之「アバディーンに乗った時、光隆がそう話してたんだ」


………


 一方、そんな光隆と光音は全力でトビウオと格闘していた。


光隆「よし行くぞ!!」

光音「ちょっとそれはやり過ぎじゃ?」

光隆「大丈夫だって、そぉれ!」


 光隆はロープを自分の腰に巻いて海へと飛び込んだ。


光隆「(やっぱり沢山いるなぁ、ちょくちょく飛んでるのも見える。)」


都姫「彼は一体何をしようとしてるの?」

光音「多分見てたら分かると思います」



光隆「(そぉれ!!)」



光音「わぁぁ!」

都姫「何で一斉にトビウオが⁉️もしやこれが作戦?」

光音「そんな事より獲らなきゃ!」

都姫「丸ごとは駄目よ程々ね!」

光音「神通力、展開!!」


 光隆はトビウオをビビらせる為に水中で水圧砲を放つ。突然の水流の変化にビックリしたトビウオが一斉に海上へと飛び出した。それを光音と都姫が回収すると言うシンプルだが大胆な作戦だった。


光音「すごい、ここまで取れるなんて」

都姫「特殊能力ってやっぱり凄いでしょう?」

光音「ご先祖さまも、こうやって海で生きてたのかな?」

都姫「ちょっとそれは分からないわね…」


光隆「よっと」

光音「お疲れ光隆!はい、タオル」

光隆「ありがとう。かなり捕れたな!」

都姫「そろそろ帰りましょうか、メイド長。ビーコン出すから回収をお願い!」


メイド長「承知しました」


………

……


 こうして、初日の調達は終わった。


都姫「みんなお疲れ様、興一くん今日は佐世保江迎支部に泊まるって。」

光隆「そう言えば掛瑠たちはどうしたんだ?」


掛瑠「いや…俺たちも五島行く船待ってる間7番街に行ったんだけど、そしたら見つけちゃったんだよ…五島うどん」

有理「だから大幅に時間短縮したから観光してた」


陸唯「なーるほど、だから俺らと帰って来たんだな。信之たちは?」

信之「明日、朝市に行くよ。」

陸唯「じゃあ調理は?」

光隆「うーん…」


進矢「クジ引き…する?」


………


 翌朝クジで当たった進矢と陸唯、カンナの3人は朝1番で呼子を訪れていた。無論狙いは朝市で売っている美味しいものである。


陸唯「ここが…」

カンナ「ロンドンのマーケットとはまた違うね」

陸唯「で、狙いは?」

進矢「イカせんべい、アワビ、サザエ、アサリ辺りを狙ってる。」


 呼子朝市はやはり昨日の少し寂れた状態とは大違いで、大盛況の様相を呈していた。


陸唯「意外とみんな食べ歩きしてるね」

カンナ「わかる、みんな美味しそうだもの」

進矢「あ、あの店だ!」


店主「よく来たねぇ、今日は良いのが獲れたけん見てきんしゃい」

カンナ「これとか良いんじゃない?」

陸唯「分かった」

カンナ「カード使えますか?」

店主「当然さ、ここ10年で朝市の店はみんな導入したとよ。」


進矢「確か、弓張重工が宅地開発を進めてそれが当たったんでしたっけ?」

店主「じゃけん福岡とか都会の人がここら辺に移住したと。そしたら都会の人みんなカードを使うっちゃけんねぇ…」


陸唯「(分かってはいたけど訛りがエグいな)」


 こんな塩梅で朝市を堪能していた一方、光隆たちはパーティの支度に追われていた。


光音「杵ってこの使い方で良いの?」

メイド長「光音様、とてもお上手です」


 光音が突きし竹を


光隆「そぉれ!!」


 光隆が割り


掛瑠「こんなもんかな?」

有理「興一さんの誕生日ってどの位の人が来るか分からないなぁ…」


 掛瑠と有理が繋げていった


都姫「今回は父さんは仕事だし、お客さんは来ないからみんな思うホームパーティーと同じ容量で良いよ!」


………


泰郎「信之、はじめよや?」

信之「うん」


 一方料理担当の2名は昨日買ってきたシャケやトビウオを捌いていった。執事やメイドのキッチン担当者が見守る中、彼らはとても小学生とは思えない手際で調理を施して行く。


メイド「トビウオの煮干し、ここに置いておきますね」

泰郎「おおきに!」

信之「これで出汁が取れる!柚子ぽん酢もあるし、後は作るだけ」


陸唯「戻ったぜ!」

進矢「うんうん、良い匂いだ。所でアワビやサザエはどうするんだい?」

信之「そのまま七輪で焼いちゃおうか」


カンナ「チョウナ、装飾手伝うわ!」

チョウナ「ありがとう、じゃあこの紙テープをいい感じにお願い」


 こうして一同がテキパキ準備したおかげか、13時頃までにはパーティの準備が完成した。


光隆「よし、完成だ!!」

光音「後は興一さんを待つだけ」

都姫「噂をすれば何とやらね」


 ちょうどこのタイミングで興一と樒果が帰ってきた。


都姫「おかえり、興一くん。アンド…」

光隆「興一さん‼️」

一同「お誕生日おめでとう‼️」


興一「みんな…」

光音「興一さんが大好きなアゴ出汁の五島うどんは」

光隆「俺たちが獲って」

信之・泰郎「ぼくたちが出汁を取りました」

掛瑠・有理「流しそうめん方式で食べれますよ!」

陸唯「興一さんが好きなサザエの壺焼きもあるぜ!」


興一「みんな、本当にありがとう‼️」

都姫「さぁて流すわよ‼️」

興一「あ、付け汁にうどんの汁使ってる。しかも温冷双方作ったんだ」

都姫「そぉれ‼️」


光隆「獲ったどー!!」

陸唯「あーズルい」

都姫「まだまだあるわ!」


光音「んー!このアサリ汁美味しい」

カンナ「…日本に来て1番美味しいかも」


掛瑠「あ、誰も取れてない」

有理「こんな事もあろうかと、1番下にザルを仕込んどいたよ。だから流されたのでもまだ食べれる!」


信之「今度は取ってやる」

チョウナ「超エキサイティーング!!」

進矢「まだまだ」

泰郎「どっちの汁で食べても美味いわぁ」



興一「都姫、光隆、みんな。本当にありがとう‼️」

都姫「興一くんとは最近中々一緒に居れなかった、興一くんの関心を独占してるのは光隆くん達だった。だから、どんなものか試したけど本当に良い発想と行動力だったよ。」


興一「都姫も、光隆も皆んなも大事なんだ。だからこれからもよろしく頼む‼️」


………


景治「楽しそうだな…」

イズナ「千里眼でパーティの様子を見たのです?」

景治「あぁ、興一さんは僕の様に疲労無効の能力が無いのに僕と同じくらい頑張ってる。本当にありがたいよ。来年は一緒に祝えたらいいのだけど」

イズナ「デスね」


 こうして、興一の誕生日パーティは大盛況のうちに幕を下ろした。

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