九十九島
興一の誕生日から一夜過ぎたこの日、都姫がお礼として一同に佐世保を案内する事になった。
光音「そう考えると郊外なのね…ここは」
都姫「本来は、松浦宗家…相神浦(あいこのうら)松浦家が唐津から移ってきたのはこの付近なのだけど、平戸松浦家…つまり貴方の先祖が乗っとっちゃったからね。」
松浦家…いや、海の武士団松浦党はその歴史上かなり複雑な系譜を歩んで来ていた。光音たちは敷島松浦家とされているが、その血脈を辿ると平戸松浦家(平戸藩家)が一部入っている様だ。
その平戸藩家は宗家ではなく、戦国時代と言う宗家などと序列が意味をなさない実力主義の世の中にて相神浦松浦家を下して松浦党の盟主となったのだ。
陸唯「ちょっと待てアイコノウラって相浦だよな?」
掛瑠「うちとの関係は不明瞭、有ったとしてもうちは分家の分家だと思うけど…」
実際問題、相浦姓の人間は2000人程居るらしく本家か否か分からない。それは全国に13万人程も存在する松浦姓にも当てはまる。故に、弓張が昔から保護して来た敷島松浦家が宗家とは限らないと掛瑠は判断した。
光隆「じゃあ掛瑠が調べてみてよ」
掛瑠「ふぇ?」
光隆「お前歴史好きなんだろう?俺らん家の歴史を解明できるさ、お前なら‼️」
掛瑠「…やってみます、としか今は言えません」
都姫自ら運転する車は、どんどん佐世保市内へと進んでゆく。少しして、ヨットと白い船が並んでいるちょっとした港湾施設にたどり着く。港湾施設を挟んで水族館と豪華なホテルが向かい合っていた。
光隆「うわぁ海うらら‼️」
光音「凄い懐かしい‼️」
掛瑠「温泉、また入りたい」
有理「意外と好きなのね」
………
エントランスホールに入ると、朱印船の1/3復元模型が飾られていた。
チョウナ「これは…遣唐使船?」
掛瑠「室町時代から江戸時代頃まで使われていた貿易船たる朱印船、ヨーロッパの大航海時代の辺りかな。」
都姫「子ども園の引率、小学生10人大人1人。カードで」
エントランスから改札を通り、水族館の中へと足を進める。
信之「これが…水族館」
陸唯「始めてか?力抜けよ」
進矢「どうも、東の大御所マリナーアイランドと対をなす西の大御所とも目されている様だね」
陸唯「沖縄の島んちゅ水族館は?」
有理「ジンベイザメ以外大した事無かったよ」
敷島に来るまでマトモに海を見ていなかった信之にとって、ここは初めての水族館だった。
光隆「よぉ、久々だな。スズ造!オヤ助まで」
光音「スズメダイとオヤビッチャにそう言えばそんな名前を付けたっけ」
光隆「おお!オハギまで」
光音「食べないだけて」
光隆と光音は先に行って、懐かしい所を廻っていた。
泰郎「にしても、アレでまだ付き合ってないってマジなんか?」
陸唯「そう言う距離感に見えるだろう?付き合ってないんだなぁあれが。」
信之「光隆って、人の感情には過敏に反応するのに割と恋心とか鈍感だよね」
掛瑠「わかる」
有理「そんな事より、あの黒島の辺りってサンゴの群生地らしいよ!!」
掛瑠「意外と近くにあったんだね」
泰郎「え、これ触れるんか?」
陸唯「流石に手は洗わなきゃだけどな」
カンナ「ウミガメ、割と大きい!」
チョウナ「ナポレオンフィッシュ?」
信之「コブダイらしい、鯛ってことは捌けるのかな」
一同は思い想いに水族館の中を進んでゆく。続いて、大水槽の所へ来た。
大水槽には太陽の光が直接差し込む作りになっているためか、魚の群れと相俟って幻想的な光景を醸し出している。
光音「わあ‼️」
光隆「すげえなやっぱここ」
陸唯「なんて数の魚」
カンナ「ファンタスティック!!」
「九十九島湾」は、入り組んだ海岸とたくさんの島々にかこまれているリアス式海岸の一つ。対馬暖流の支流が流れ込んでいるからか、アジの大群やシュモクサメ、エイにカサゴなどなんとも様々な魚を見ることが出来る。
少し歩いたところで、とあるものを見つけた。
カンナ「真珠の取り出し体験?」
都姫「あーここ、みんなやってみる?」
光隆「俺もやる‼️」
光音「前来た時出来なかったからね」
九十九島は、相浦川や沢山の小島から流れ出す栄養素と対馬暖流に乗って来る栄養素、そしてリアス式海岸と言う穏やかな内海のお陰で真珠の養殖に最適な海域なのだ。
都姫「まず、ヘラを使ってアコヤ貝の殻を開きます。そして中からピンセットで真珠をアコヤ貝の貝柱から取り出すの。ね、簡単でしょ?」
泰郎「何…これムズイ」
カンナ「ママとか職人さんがこうやって摘出したのを穴開けて使ってたのね…」
進矢「やってみせろよ陸唯」
陸唯「何とでもなるはずだ‼️」
信之「ならない言葉を…って言わせるな」
光隆「出来た‼️」
光音「おお!」
都姫「光隆くんってやっぱり要領いいよね」
光隆「えへへ」
掛瑠「折れたァ⁉️」
有理「割れたぁ」
チョウナ「ダメだこりゃあ」
※一部阿鼻叫喚だがどうにかみんな真珠をゲットすることに成功した
…………
……
光隆「楽しかったな、水族館!!」
光音「そうね!」
陸唯「でもイルカショーで水被っちったな」
信之「でも光隆が全員を乾かしてくれて良かったよ」
都姫「ねぇ、もう終わるつもりじゃ無いわよね?」
一同「え?」
都姫「遊覧船のチケット、買ったわ!!」
一同「ええええ⁉︎」
………
進矢「風光明媚な九十九島を船で巡る、世界でも指折りの贅沢だろうね」
掛瑠「いやマジで凄く、すごいから」
進矢「ブログに書こうかな」
陸唯「お前ブログもやってるのか?」
進矢「一応。出張版としてこっちでもやろうかな」
光隆「おーい、そろそろ出るぞ‼️」
九十九島を巡る遊覧船は2隻存在し、一隻は「ゆきなみ」もう一つは「海皇」と言う。前者は白色の船体に黄金色のラインが入っている。後者はオレンジ色の船体に木目調と、全体的に大航海時代の船の面影がある。どちらも魅力的な船だが、光隆達が引き当てたのは…
チョウナ「そんなに…僕たちの力が…見たいのか?」
掛瑠「確かに「ゆきなみ」型だけど」
陸唯「(何でこいつらネットで見つけたミリオタネタ通じてんだ?)」
そう、真珠のような船「ゆきなみ」に当たったようだ。
光隆「横島だ!あ、こっちには桂島もある」
光音「やっぱりどちらかと言うと横島はお座りした犬に見える」
光隆「分かる」
有理「ねぇ、掛瑠。斧落とし(よきおとし)に斧を落としたお殿様って誰?」
掛瑠「ここら辺松浦党のテリトリーだったし…いやでも、殿様と言っても松浦党が内乱を起こしてた時の何処かのボスじゃないかな?」
有理「なるほど」
信之「あれ、地層が見えてる」
進矢「リアス式海岸、どうやって作られるんだっけ?」
信之「昔ここ全部山の尾根だったのでしのう、でも海面が上がったから山の高い部分が海の上で孤立して島になった、そんな感じだったと思う。」
チョウナ「敵の潜水艦を発見‼️」
陸唯「だめだ!」
掛瑠「ダメだ!」
光隆「潜水艦…?あ、あれか。オジカ瀬だな、確かに潜水艦に見える」
光音「こんな事もあろうかと、双眼鏡を持ってきてて正解だったね」
チョウナ「あれは…杵築前期型多用途母艦!?しかも6隻。3隻は艦載機をガン積み、他3隻はよく分からない。でも何で?」
都姫「多分アレね…」
チョウナ「あれって?」
………
そして、今回のクルーズの最大の山場である松浦島(まつらじま)の細長い湾「三年が浦」の中へと入って行く。
光隆「なぁ、前に父さんが見せてくれた映画でUFOの前で戦艦がドリフトしたのを思い出した」
光音「私も」
チョウナ「死は避けられない」
光隆「俺だって死ぬし、お前だって死ぬ」
光音「みんないつか死ぬ(どうせみんないなくなる)」
三人「だが今日じゃない‼️」
三人がそう言った瞬間、湾の奥まで来ていたゆきなみの船体が一気に傾く。そして船ではあり得ない旋回を見せて力強く警笛を鳴らした。
光隆「痛いのをぶっ喰らわせてやれ‼️」
光音・チョウナ「撃て‼️」
都姫「君たち何やってるの?」
光音「え、え?」
チョウナ「いや別に?」
光音「単なるイメトレですよ、軍艦動かしてるんですから」
─ イメトレにしてはガチ ─
都姫「良いチームになったものね、興一くん」
…………
……
その頃、海護財団本部では…
景治「なるほど、厄介な事になった。相手が災害規模の妖怪であれば、松浦半島は今度こそ壊滅する。下手したら九州北部全て抑えられる」
澪「自衛隊では事が起きないまでは動けない、海護財団が動くしかない。」
茜「しかし、機動艦隊を出せば今度こそ自衛隊や米軍に実力がバレる。幾ら高官2名に自衛隊出身者を据えたとしても、まだバレてはいない。」
賢三「つったくどうすりゃ良い?」
景治「佐世保江迎支部守備隊に追加し科学技術本部本部所属1個中隊…」
イズナ「ここは、光隆達に試練を課さねばならない時かもデス」
景治「そうか…分かった、手配しよう」
………
光隆「都姫さん、アイス奢ってくれてありがとう!」
光音「やっぱりここの抹茶アイスが至高よね!」
都姫「良いのよ、この位」
光隆「次はどこ行くんだ?」
都姫「そろそろ夕方…そうだ、弓張本邸に案内するわ!」
光音「という事は、弓張岳から夜景が見れるんですか?」
都姫「そうね!」
その時、不思議な事が起きた。
陸唯「あれ、この車」
泰郎「飛んでね?」
いつの間にか、VTOLで吊るされてしまっていた。(2日ぶり2度目)
都姫「一体何故?」
メイド長「海護財団より緊急連絡、江迎支部が包囲されているとの事。こちらにも追手が来る危険性がございます。」
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