海蛇-1
ゴールデンウィークがすぐ側まで近付いたこの頃、海護財団科学技術本部ではとある試作車両がロールアウトしていた。
雲野真澄「完成したな」
滝川在斗「あぁ、新たな輸送システムがな。」
真澄「俺たちで旅に革命、本当に起こせたんだな」
科学技術本部先端技術11課が作り上げたのは、先日光隆たちが乗った水上列車の発展型試作機である。
真澄「で、名前はどうする?」
在斗「うむ…エダリヌスはどうだろう?」
真澄「あ、6課の試作機に取られてる」
在斗「」
在斗はその眼鏡を拭い、顔に戻すと作業室から後にする。
真澄「どこ行くんだ!」
在斗「あのネーミングが嫌なんだろう、なら他の職員に相談するまでだ。」
関宿理板「まだセッティング残ってんのに…」
川路蓮檸「忙しないっすよね、彼ら」
…………
……
レトキを撃破した後、泰郎と合流した光隆達は海護財団総本部CDCへと向かっていた。
掛瑠「最近、いつもここ訪れてる気がする。まぁ泰郎さんの為だけど」
有理「今度は見つかると良いのだけども.」
陸唯「もう弱音か?」
有理「あら…前歯全部折られたいかしら?」
泰郎「光隆、みんな、おおきにな。」
光隆「大丈夫だ、興一さんもそう言ってくれてるし。」
光音「にしても、CICまで深すぎない?」
光隆「海面下150mの所だからなぁ」
彼らが眺めているのは海護財団本部が誇る司令部、その第二CDCであった。ここからなら多数の防犯カメラにアクセス出来、泰郎の母を探し出す事が出来るはず…なのだが
興一「要、今どこら辺だ?」
要「ようやく長崎県で…」
要が言い掛けた時、けたたましくブザーが鳴る。
光隆「またレトキシラーデか?」
要「えっと…99.9999%で容姿が合致する人間の反応あり!」
泰郎「ホンマか?要のあんちゃん」
要「ほらここ!」
その要が指差した先、それは…
ワーワー
メーデーメーデー
興一「そう言えば、今日はメーデーだったな…」
泰郎「またかいなそんなケッタイなデモに参加しよって…」
掛瑠「(何でよりによって長崎で…)」
カンナ「密です」
チョウナ「(何かそっちじゃないメーデー聞こえたんだけど)」
やはりと言うかなんと言うか、泰郎の母はデモに参加していた。
興一「ちょっと待とうか、ケッタイって…メーデーは労働者側がまだ弱い立場だった時に、その立場向上を目的として作られたんだ。存在自体をケッタイとか言うんじゃない」
掛瑠「でも今何かマルチ商法団体に存在自体乗っ取られてません?」
在斗「これは代謝が必要だな…」
興一「在斗⁉️何でまたここに?」
実は、興一と在斗、そして真澄は同期だった。
真澄「何でここで油売ってたんだ?」
景治「僕が指示した。所で君たちは?」
在斗「景治司令、例の試作機が完成した為その名前を募集してた所です。」
景治「どんな名前にするつもりだったんだい?」
在斗「エダリヌス、だったんですけど…」
景治「その計画、頓挫したよ…」
在斗真澄「」
景治「設計に重大な欠陥があった、君達も気をつけると良い。」
進矢「エダリヌスと言ったら、ミャンマーの川の名前が付いた恒星があります。」
信之「本当?」
進矢「確か、アーヴァディ川と言った様な…」
在斗「ありがとう、ではその名前で提出させて貰います。」
真澄「君たちも試運転に来るかい?」
光隆「良いんですか⁉️」
興一「全く…君たち形式上僕の部下なんだが?まぁ良い、じゃあ条件を出す。」
陸唯「条件って?」
興一「くじ引き。赤いのを引けたら乗るって事で、確率は1/3。当たりを引けるかな?」
在斗「はぁ、このショタコンは…」
真澄「まぁ興一だし…」
景治「取り敢えず君たちは明日の試運転を前に最終チェックを頼む、技術試験潜水艇アーヴァディは財団の輸送力に核心をもたらすからね。」
在斗真澄「了解!」
…………
……
一方その頃、少し表層にある第一CDCでは…
里帆「本部資材搬入用トロッコにトラブル!」
茜「ちょっと様子見てくるわ」
景治「取り敢えず頼んだ」
景治が第一CICに戻ると同時に茜がCICから飛び出す。
景治「全く、忙しないな…」
そして、件のトロッコ搬入システムは…
澪「何故だ?何故…?」
茜「アンタだったのこのトラブル。一体何がしたかったのよ?」
澪「何かを弄られたようで、運行システムに支障が出ている。しかし、プログラミングは専門外で…」
茜「アンタよく本部長出来てるわよね」
澪「いや全く」
茜は澪の横に立ちタッチパネルを叩き始める。
茜「これをこうして…よし、これで動くよ!」
澪「一体どうやったんですか?」
茜「ログが残ってた、それ通りに復元したら解決よ。」
澪「ごめん…ちょっとさっぱり」
茜「アンタもか、背負い込もうとする体質の持ち主は。本当この財団には多いわよね…」
どうにか問題が収束して休憩の間に野次馬に来ていた人たちも安堵していた。だが、そこに黒い足音が迫る───
双樹「貴方達、まさかここに居たとは。」
茜「ちょっと、今非番でしょう?」
双樹「貴方達に総司令から呼び出し掛かっててねぇ、私は非番だけどどっちにしろ部屋で休むだけだからついでに頼まれたんよ。」
そう言って2人は艦艇のドックへと足を踏み入れる。彼らが入って行った船はLA20、エクセター級「フェート・フィアダ」だった。
柚木「彼杵茜副司令、及び西海澪防衛本部長が揃いました。」
景治「分かった。」
そこに居たのは総司令松浦景治と秘書のイズナ、柚木賢三第4機動艦隊司令に弓張作路事務局長、雲仙要オペレーターと波佐見里帆オペレーター長だった。
景治「今回集まってもらったのは、この先の海護財団の運営に関する事だ。寿圭独羽の悪事が暴かれて、海護財団内部の対海賊急進派の排除に成功した。」
イズナ「最も対海賊急進派が海賊と繋がっていたと言う、「悪事を働く者はその悪事に反対すると言い張る」をやらかしてたんデスけどね。」
景治「重粒子砲艦隊構想も進んでいる中、奴の派閥に妨害されていた人事と艦隊の再編を行おうと思って。これは僕の案で、こっちが興一さん…いや弓張興一准将の案だ。」
其々の席の前に置かれた資料を指差し、見てもらう様に言う。しかし問題はどちらもほぼ同じ構想をしているのに興一本人の処遇に関して差異が生じていた。
賢三「興一自身は今の立場に居たいらしいですが、景治総司令は追加して総司令直属の特殊任務部隊との“二足のわらじ”を望んでらっしゃると。」
会議と言えども、ひとまず資料の開陳とちょっとしたシンキングタイムを与えるだけの事であり各々意見を言う時間が30分程続いた。しかし景治は回答期限を5日後に定めて、会議を終わらせ仕事に戻る様に伝えた。
イズナ「中途半端にしか出来ませんでしたけど良かったんデスカ?」
景治「まぁ、大丈夫。みんなの頭の中を覗けただけ充分。適材適所の人事を行うには、このくらいでいい。まぁ、会議の前に双樹さんにもお礼は言ったんだけどね」
イズナ「重粒子砲艦隊構想の件デスカ」
景治「さてと、この先どうするのか…」
………
夜も深まり本部の至る所から人気が無くなった頃、要は里帆と共に書類仕事に追われていた。
里帆「要くん、ありがとう。私のために深夜1時まで残ってくれて」
要「問題ないです。それと、もう遅いので今日はCDCで寝ちゃいましょう。」
里帆「そう言えば当直勢の間で噂になってたけど、夜遅くに…」
要「う…後ろ」
里帆「え…?」
『ギャァァァァァァァ⁉️』
幾ら司令所とは言え夜は暗い、彼らに迫る人影を亡霊と誤認するのは仕方なかった。
そして彼らは目を回してしまっていた。
景治「驚かせてしまった…ココアを届けようと思って来ただけなのに、悪い事をしてしまったな。」
その悪寒の正体は、彼らを労いに来た景治総司令その人だった。
…………
……
昨晩のくじ引きの結果
当たり:光隆・光音・チョウナ・信之・泰郎
ハズレ:それ以外
となった。
陸唯「何だよそれ以外って」
掛瑠「某格付けチェックの「映す価値無い」ですね多分」
有理「それが本当ならこれ尺の都合でカットされてるわよ?」
カンナ「それよりも、長崎ならあそこに行きたいよね!」
信之「佐世保の長崎アルヴィス村?」
チョウナ「そんな潜水要塞みたいな名前だったっけあの運河と稜堡見れるの」
掛瑠「(あの石垣やっぱり稜堡の再現だったのか」
有理「途中から声漏れてるって」
光隆「いやぁ久々だなぁ、長崎行くの」
光音「そう言えばあの時九十九島を見て、光隆は海に惹き付けられたんだっけ?」
光隆「あぁそうさ!本当に凄かったんだ!」
興一「(もう冒険旅行気分だこれ…)遊ぶのは彼の母さんが見つかった後だ、気張っていこう。」
当たりを引けた組はその証明たるチケットを持って、引けなかった組はゆうぐもで一路長崎へと向かう事となった。
………
この日の午前中、成茂と秀喜は非番だった様で久々にのんびりと昼食のカツ丼を食べて番茶を飲んでいた。
秀喜「そろそろ妹に彼氏とか出来ねぇかなって」
成茂「え、あいつ彼氏居ないのか?」
秀喜「どうやらな。それでさ、俺だっていつまでやれるかわかんねぇんだ。もしなんかあったら頼むこたぁ出来ねえだろうか?」
成茂「つっても俺の方が先逝くだろ職務的に考えるとよ。それにんな事考えたって仕方ねぇんだ、湯呑み片付けて屋上行くぞ」
立ち上がり湯呑みを片付けようとしたその時、秀喜の体に異常が発生した。
秀喜「お前ら、俺から離れろ!」
成茂「どう言うこった?」
秀喜「お前、やめろ…俺には、妹が…」
足元から崩れ落ち、秀喜が倒れてしまう。成茂が容体を確認する為確認しようと一歩踏み出した瞬間、彼は一気に起き上がる。
秀喜「ウルセェ言ウ通リニシロ!」
成茂「秀樹、何がどうなってあがる。兎に角このエリアから退避させろ!」
里帆「嘘…吉野秀喜三等海佐が暴走、何かに憑依されている模様です!」
茜「そんな、景治のプロテクトは…」
景治「…」
茜「吉野三佐が使えるライセンスは?」
秀喜(?)が獣のように走っていきドックへと突撃する。警備ロボットが止めに入るも人間(?)の火事場の馬鹿力には敵わず、殴り飛ばして行った。
秀喜(?)「コレデ…コレデ最後ダ!」
秀喜はノーザンプトン級を乗っ取りエンジンをかける。そして点検中の海底方面ハッチから飛び出して行った。
………
その車両は、何処か深海を思い起こさせる漆黒にマリンスノーの様な白い線が入っていた。
光隆「これが…「アバ茶」⁉️」
陸唯「それを言うならアバディーンだ」
チョウナ「水中をスーパーキャビテーションを用いて200knot以上の高速で航行する、まさに殺戮のための潜水艦ではなく人の夢を運ぶ試作水中列車か‼️」
── 迸る熱いパドス ──
真澄「君面白いね、この車両の良さが分かるなんて。」
チョウナ「そりゃ海護財団だけでなく色々な国の陸上兵器や航空機、軍艦などを手広く探究してますから‼️」
真澄「それは敵にまわしたら手強そうだ。それよりも、登場予定の弟子くんたちは揃ったのかい?」
光隆「はい‼️」
光音「宜しくお願いします」
泰郎「頼みまっせ!」
信之「お願いします」
乗員は、彼らだけではなかった。
映美「あら、光音たちじゃない。」
光音「映美ねぇ」
光隆「何で?」
映美「試運転の為に呼ばれたのよ。ね、カトル」
カトル「景治総司令より護衛の任を命じられました。」
泰郎「護衛?」
………
要「アバディーン、発進シーケンスへ。工廠よりルート421より注水経路1980へ」
真澄「了解。アバディーン、発進‼️」
シリンダーに動力が伝わり、ゆっくりと車体が動き出す。
光隆「おお‼️」
信之「動いた‼️」
泰郎「すげぇ‼️」
真澄「喜んで貰えて良かった。在斗、今のところは順調だ」
在斗「真澄、問題は海での挙動だ。僕たちは国防軍艦隊や米艦隊のせいでライラック艦を無闇矢鱈に高速移動させれない。トラブル発生しても僕らは動けない、慌てず急いで正確に。」
真澄「分かってるよ」
在斗「分かっちゃいないさ」
列車は搬入路をゆっくりと進んで行き、水上進行ポイントへと到達。横には錨を下ろすゆうぐもが見えた。
車両の間にパイプの様なものが渡され、車両は曲がれなくなった。いや、寧ろ水中列車としては曲がられては困るのだ。
在斗「これより水上公式を行う。先に水上での浮上航行を行い、その後バラスト注水からの水中運行試験へと移行します。」
要「潜水救難艦の展開完了、オールクリア」
真澄「アバディーン、水上へ‼️」
スラスターを後方に吹き、列車は水上へと進んで行く。そして、大きな水しぶきを上げながら水上を走る。
泰郎「マジかいな…」
真澄「まだまだ序の口。映美さん、カトルさん」
映美「全部ダブルチェックしたわ、水漏れなし」
カトル「このまま潜行形態へと移行しても、問題はなさそうです。」
真澄「了解、予定通り水中ルート1980より潜行し外部へ出る。」
要「進路オールグリーン」
在斗「行ってこい」
景治「武運を祈る」
真澄「バラスト注水、急速潜行‼️」
左右及び上からせり出た安定翼が水流を整え、水中へと舵を取る。
信之「わわ!沈んじゃう」
真澄「問題ない、このまま行ける」
映美「ここでも水漏れなし、うちの科学技術本部は優秀ね!」
真澄「加速するぞ‼️」
下部や側面のスラスターから擬似機関から吐き出される鈍く青い色の粒子が展開された。
光隆「あの光は?」
真澄「あぁ、ライラック艦で使われてる擬似機関からでる粒子だね。…って君海の中で見えるのか?」
光隆の能力について、一つ明らかになった所でアバディーンは加速を開始。
真澄「気泡幕放出、最高速力試験へと移る。」
ここからアバディーンの本領発揮が始まった。船首のノズルから気泡を発生させ、自らを空気の膜で覆う。そして、スラスターをさらに加速させる事により水中での最高速度200knot以上を実現させるに至るのだ。
光隆「周りに、泡が⁉️」
映美「アバディーンには周囲の海水から水素と酸素を分解する装置を内蔵していて、そこで発生させた酸素は船内に供給される一方、あの様に加速システムの一部として機能するの。」
光音「良かった、別に船内の空気を無駄遣いしてる訳じゃないのね」
映美「流石にそんな鬼畜な所業、やらないよ」
信之「何見てるんですか?」
チョウナ「今どこら辺にいるか見てるの」
信之「水中だからGPSは使えないと思うけど?」
チョウナ「PCのジャイロセンサーに移動距離、速度、高低差を自動で測ってこれまでの移動したルートを測定してくれるアプリを入れたのよ。」
信之「そんなのが…!」
チョウナ「今ちょうど伊豆半島南端の石廊崎沖50kmの水域かしらね」
…………
出港から約1時間は経っただろうか。外を見ても(光隆以外にとっては)トンネルの中にいる様で退屈していた様だ。
信之「なんか暇だね」
泰郎「ババ抜き何回目だっけ。ほな、光隆の番や」
光隆「よっと」
真澄「あれ…おかしいな。」
チョウナ「どうしたんですか?」
真澄「自動操縦装置が誤作動を起こしたのか、別の方向に行こうとしてるんだ。」
映美「チョウナ!この方角で行くと何処に辿り着く?」
チョウナ「えっと…き、鬼界カルデラ…❓」
真澄「」
映美「」
信之「それはマズイ、鬼界カルデラは噴火すれば日本を壊滅させれるレベルのカルデラだ。」
泰郎「何やと⁉️」
真澄「しかも、擬似機関は原発以上の莫大なエネルギーを吐き出せる。」
チョウナ「つまり、この潜水艇自体が核弾頭という事…?」
信之「そんなのぶつけたら、鬼界カルデラが吹っ飛ぶ。そしたら日本壊滅は免れない、そして気候変動などが全世界に及ぶかも」
光音「でも誰が何の目的で?」
映美「海護財団は、元からかなり顰蹙を買ってる組織。しかも若輩者な景治率いる体制に不満を持ってる人間も多い。不穏分子は探せば沢山いる。でも…」
光隆「どうしたら止めれるんだ?」
真澄「今確認したら、アルゴリズムが鬼界カルデラへ誘導する様に設定されていた。どうにか減速させるか、メーンコンピュータから捜査権限を切る。それしかない」
映美「みんな、やってくれるね?」
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