白根山合戦-1
光隆「カレー!」
陸唯「なあ、やっぱり光隆の家だと金曜日はカレーなのか?」
チョウナ「気になる」
光隆「いや、割と気まぐれだぜ?」
光音「でも光隆の母さんのカレー、すごく美味しいんだよ」
スキー場で食べるカレーと言うものは、思いの外美味しかった。高地にあるという事と、たくさんの人に出さねばならない事からじゃがいもやにんじんは比較的硬かったが使っている肉は上州牛と言うブランドものだった。
掛瑠「…美味しい」
陸唯「今日は割と食べるんだな」
掛瑠「出されたものは最後まで食べたいのです、しかし…」
二人は掛瑠の皿を見る。もう腹八分目までは来ているが半分以上残っていた。
光隆「食べよっか?」
掛瑠「しかし…」
有理「途中まで食べて、途中からは口に含んで凍らせちゃえばいいと思うよ?」
掛瑠「…仕方ない、緑茶とってき…」
掛瑠が立ち上がろうとした瞬間、謎の爆音が草津に轟く。
陸唯「何の音だよ!?」
掛瑠「ヘリの音、恐らく10機。ご飯食べてて気づかなかった」
チョウナ「ちょっと待てよ!ヘリ10機って」
刹那、機銃の掃射が始まり周囲の建物で立て続けに爆発が起きる。
有理「嘘でしょ!」
チョウナ「あれは…Mi8とAH1?何で」
興一「伏せろ!」
攻撃は機銃掃射だけではなかった。白根山頂を正面にして右、即ち谷沢川の対岸より野砲が叩き込まれてきたのだ。
カンナ「きゃぁぁぁ!」
興一「このままじゃ人が死ぬ…使うぞ!」
進矢「みなさん落ち着いてください!」
成茂「落ち着いて行動をしてくれ!」
騒然とする現場、そこに成茂と進矢が出現した。
興一「君が協力者だったとは…」
進矢「恐れ入ります、弓張興一さん。」
光隆「こうしちゃいられない、あのヘリ撃ち落とす!」
成茂「おっといけねぇ、ヘリだけが脅威じゃねぇんだ。万座と横のスキー場から軽自動車くらいはありそうな甲冑着た何かが迫ってる。しかも沢山」
興一「状況は分かった、君は一刻も早く指揮に戻って。」
成茂「おうよ」
そこにLRADと思われる音響兵器を用いて犯行声明が発せられた。
寿圭「アテクシに歯向かう者は全員、気色悪いウジ虫以下の価値しかないゴミクズ共ザンス。この雪山に蔓延るキモい奴らを掃除するだけだから、アタクシを恨むなんて事はするなよ。」
“正しさの輪”首魁、寿圭独羽。国連人権理事会、海護財団と隠れ蓑にして綺麗事を言いふらしつつ、裏で私腹を肥やし続けた愚か者の名前だ。
掛瑠「タダ飯喰らいがァ…」
有理「穀潰しBBA、テメェがこれまで貪って来た税金と財団の資金の総額を履いてみあがれ!」
犯行声明は即座に敷島の海護財団本部へと届き、CDC(統合司令室)が騒然とする。
双樹「私を隠れ蓑に…?いやでもそこまでの知能がある訳が」
茜「アンタが知らないのなら他に黒幕がいるはず。そんな事より寿圭准将を更迭、全権限を剥奪する。」
澪「探題司令として意見具申、草津へ艦隊の更なる派遣を!」
茜「諜報部の体制が不完全な時点で発生した事案なので仕方ない、どうする景治?」
景治「追加派遣は不要、不足の事態に備える体制を維持。筑紫副司令は麾下の遠征打撃群の人事を再確認、彼杵副司令は麾下第2機動艦隊の待機を。イズナも僕らの第1機動艦隊を待機させてほしい。」
やり過ぎではないか、里帆は訝しんだ。小規模な武力衝突に対して何処から来たか知らぬ怪物どもへの切り札たる「機動艦隊」に待機命令を出すとは。
最高幹部クラスが座るCDC2階席の直下、1階席には里帆や要などのオペレーターが座っていた。彼らは西海澪東亜探題司令兼防衛本部長の直臣とされる。
要「やりにくい、異性ばっかり上司になってて…」
同僚A「しゃーない、歴任して来た人たち殆ど死んでしまって適材適所で振り直した結果がこれだとよ。」
同僚B「それにしては外部…国際連盟からのゴリ押しがあったそうですよ?」
里帆「今回の一件、その外部からの干渉の主犯によるものと弓張さんが…」
要・同僚's「ええ!?」
………
草津温泉街の町外れ、別荘地にある交番にて、その交番の駐在が踏み潰され殺されていた。軽自動車に匹敵する質量で、時速30kmで侵攻する謎の群れが確認されていた。
秀樹「“キマイラオート”予定位置、“多様”途砲も稼働中。」
コラターレ「このまま進撃してください、それで寿圭氏は?」
秀樹「作戦前に先行してゴルフ場に布陣されています。」
コラターレ「儂もそっちに行くとしよう」
草津のスキー場は騒然としていた。慌てて外に出ようとする者、うずくまって動けなくなってしまった者、発狂して危害を加えようとする者など。
掛瑠「25年前の災厄も、こんな感じだったんですかね?」
興一「父さんから口伝てで聞かされたけど、多分そうだろうな。だから僕は病院ではなく家で生まれたのだが…」
カンナ「チョウナ、ミリオタならどうにかする術を持ってますわよね?」
チョウナ「ちょっと待って、今私が持ってる魔鉱石は3つか…これあれを作れるかもしれない、外に出るよ」
野砲の被害に晒されるリスクのある外に、勝機がある筈だと飛び出していった。
掛瑠「防壁を作ります、兄さん!」
光隆「おうよ、屏風滝!」
光隆が水の防壁を展開、そして掛瑠が冷凍させる事で互いの力の損耗を抑えながら防壁を形成した。
カンナ「何をしますの?」
チョウナ「従ってくれるか分からない、でもあの人たちが守ろうとした存在のピンチなんだ。やってみる価値がありますぞ!」
チョウナは祈る、そして謎のオーラが地面から放たれ魔鉱石が金属の塊に変化。そしてカーキ色の車体が形成されてゆく…
チョウナ「来い、チハ‼️」
オーラが風船のように膨らんだと思った瞬間、弾けてしまう。その爆心地には6台の1世紀前に活躍した戦車が堂々と立っていた。
興一「97式中戦車チハ、実物を見たのは初めてだ。チョウナ、これは一体?」
チョウナ「はぁ…はぁ、魔法で作った。ある種の使い魔だけど、みんなを今度こそ守る為に形になってくれた。みんな、それぞれに乗って!」
チョウナに促されるまま戦車の中に入る。内部はスチームパンクな様式になっており、流石1世紀前の戦争で活躍した戦車と思わせるだけあった。
光隆「すげぇ、これ面白い!」
カンナ「でも、どうやって動かしますの?」
チョウナ「ルーン魔術で動いてる、だから後はハンドルとそこのスロットルでどうにかやって!」
一足早く容量を掴んだ光音はスキー場で乗り回していた。
光音「こうして、こうか。パワーステアリングではないけどこう言うやり方も好きかも…」
光隆「よぉしヘリぶっ飛ばしに行くぞ!」
チョウナ「待って、チハは対空砲じゃない。キングチーハーでも危険なのに…」
陸唯「光隆に続け、俺たちには特殊能力がある!」
突如物陰から現れた戦車にヘリコプターの群れは驚いていた。だがMi8やAH1対戦車ヘリは元来、戦車を始末するための存在。時代遅れのヘリと時代遅れにも程がある戦車の戦闘が開始された。
「機関砲、アゴーンィ(撃ち方初め)!」
しかし彼らの機関砲はチハには無効武力、そう判断したヘリ隊は対戦車ロケット弾を撃ち放った。
掛瑠「まずい!」
光隆「横浪!」
光隆が能力でロケット弾を全て迎撃するも温泉街の先から攻撃してくるヘリには届かなかった。
興一「僕が防空を担当する、だから君たちは表万座方面の敵に当たってくれ!」
光隆「了解!」
陸唯「そう言えばこの部隊の名前どうするんだ?」
掛瑠「そういえば…光隆隊とか陸唯隊とかじゃ味気ない…」
光音「“アルニラム”とかどうかな、肉眼で見える最強の星の名前なの。」
光隆『よぉしアルニラム隊行くぞ!!』
光隆達が表万座方面に向かう中、興一は戦域の中心点と考えられるバスターミナルに急行した。
成茂「興一、お前ウザっだるいヘリ全部撃ち落とせ!」
興一「それは出来ない、僕は先生だ。生徒の意思を尊重して、防空に専念する。弾の一つも通すと思うなよ!!」
ヘリ隊に対して威圧した直後、戦車隊の弾幕が興一めがけて放たれる。しかし興一が展開した重力防壁が全てシャットアウトした。
道の駅を過ぎた後、アルニラム隊は例の“キマイラボット”を視認した。
陸唯「でかい…」
光隆「そうか?」
光音「どうする光隆?」
光隆「当然、ここでぶっ飛ばす!」
掛瑠「会敵ポイントは恐らく横が谷になってる隘路、理にかなってます。」
信之「でも山に回られたら…」
陸唯「光隆と信之の車は上回れ、それから俺と掛瑠の車は正面に。この陣形で行けるだろ」
掛瑠「能力の相性加味しても行けるかなと」
カンナ「私たちが敵の真っ正面ですの…」
チョウナ「上等よ!」
山腹に待ち伏せする光隆・信之隊、そして林に隠れて陸唯・掛瑠隊。街へと攻めてくる怪物は、谷を登って来ることも余裕であろうにそれをしなかった。隘路に50体の“キマイラオート”が流れ込む。
光隆「撃っていいか?」
掛瑠「こっちが数を減らす、それで敵の足並みが乱れたら兄さん達の出番です。」
信之「距離250」
進矢「どこまで引きつければいい?」
チョウナ「相手が後戻りできなくなるまで、要は距離50!あと斜面側は敵隊列乱れるまで待機!」
キマイラオートも前衛チハ隊を視認、排除しようと突撃を敢行する。
有理「距離60を超えた!」
チョウナ「ファイエル‼️」
主砲が火を噴いた。艦砲よりもはるかに小さいがそれでも砲撃である事は変わらず、キマイラオートの機関砲では弾かれる西洋風甲冑を破断させた。
掛瑠「初弾命中!」
陸唯「そのビールっ腹には良く効くだろう?」
有理「続けて撃て」
カンナ「脇腹ですわ」
チョウナ「効力射、てー!」
最初に命中したポイントは敵の脇腹付近、カンナとチョウナには命中した瞬間に魔力が血飛沫の様に放射されていたのが見えていた。更に続けて同じポイントに射撃するが腕の装甲が脇腹を守る形となった。
チョウナ「弾かれた?」
掛瑠「ギリシアのファランクスの様な戦列か?」
陸唯「ヒート・ロッド!」
陸唯の能力技が炸裂、二匹横並びになっている間に直撃させると甲冑を融解させて破断。溶けた金属が皮膚に高温のスプレーとしてぶつかり、敵の皮膚が溶かされた直後強力な熱波が直撃し一気にキマイラオートの半身を四体連続で破壊することに成功した。
チョウナ「97式五糎七戦車砲より強いの?」
陸唯「俺にとってもちょっと意外だった」
カンナ「まだ敵は沢山ですわ!」
陸唯「よぉし燃えてきた!」
敵を睨みつけたその時、陸唯の目にはキマイラオートの魔力が山腹に弧を描くオーラから出ていることを確認した。
陸唯「これって…もしや魔力源?」
カンナ「陸唯、危ないですわ!」
だが戦場においては一瞬の隙が命取りになる。キマイラオート一体が突出、チハから乗り出して攻撃をしていた所を狙われた。
陸唯「しまった!」
進矢「これでも喰らえ!」
刹那、進矢のワイヤーが敵の腕に巻き付き引っ張られる、それを引きちぎろうと両手で綱引きをする体制に移る。だがそれがあからさまな罠で前衛のチハが貫徹し吹き飛ぶ。
陸唯「ありがとよ、インフルエンサー!」
進矢「べ、別に君のためじゃ…」
陸唯「こっちの敵は粗方片付いた、これからスキー場に現れた敵の撃破に向かう!いいな?」
光隆「俺らも移動する!」
光音「側面攻撃、要らなかったね」
チョウナ「でも側面の備えが居たから私たちが戦えた」
信之「すごいな、本当に。本気で殺しにくる敵を前に、怖いなんて思わずに居られるの?」
光隆「俺たちだって怖い、でも…俺たちが今頑張ったらみんな守れるんだろ?」
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