白根山合戦-2

 光隆達がスキー場方面に向かう中ら後続のキマイラオートの群れ約15体が出現。コラターレの保険とみられる部隊が現れた。


 掛瑠「こうだ!」


 掛瑠は未知に氷を張り崖に落とす様に仕向けていた。

 

 掛瑠「隘路ニィ」

 有理「皮肉?」

 掛瑠「技に関しては今考えた。にしても…貴方達キマイラオートも元々人間なんでしょう、悲しい果てです。ひとえに自分らの考えを押し付けがましく強要したからですよ。」

 有理「奴らの事、何か知ってるの?」

 掛瑠「一応…倍返しはしたかったからレポートに書いた。」


 キマイラオートは掛瑠の言う通り、どうやら元々は人間だったようだ。隘路ニィと言われる氷のトラップがかち割られ、掛瑠達へと襲いかかる。


 掛瑠「一人ひとり正義を持つ事は否定したくないし出来ない。でも、それを押し付けて来る奴の末路がこれだ。」


 キマイラオート「二酸化炭素出スナ死ネ!」

 掛瑠「悪い、温室効果ガスはCO2だけじゃない。お前が吐いている、水蒸気もだ!」

 キマイラオート「肉ナド喰ウノハ野蛮人!クタバレ!」

 掛瑠「生前の思想・心情を“壊れたラジオ”の如く発しているだけで、もう彼らになぜそれを思うようになったかと言う記憶などない。」


 そう考えると周囲に感じていた低周波が耳から頭へと入ってきて、奴らが発している言葉が有理にも理解できる。


 キマイラオート「地球ハ平面ダ!全テ支配サレ洗脳サレテル!真実ニ目覚メロ!」

 有理「こればっかりは補聴器外せば良かった!くたばれ!」

 キマイラオート「モウ誰モ産マレテ来テ苦シム事無イ様ニ、オ前ヲ殺ス!」

 有理「そのロジックだと先に死ぬのはお前だ!それに、人を不幸であると決めつけるな!」

 キマイラオート「オ前ラノ人生ニ価値ナド無イ!」

 掛瑠・有理「他人の人生を、価値観を、値踏みするな!!」


 氷の剣と毒の拳による連携攻撃が炸裂。陸唯隊にチハの足回りが故障しても尚、戦域を維持する事ができている。


 掛瑠「光音さんにもここに立ち止まっててほしかった。景治さんが、どんなものから光音さんを守っていたのか知って欲しかった…」

 有理「光隆はいいの?」

 掛瑠「兄さんはまだ脆い、心配なんだ。この悪意の群れに身を晒させるのは…」

 有理「掛ちゃん谷から!」


 最初に谷に落とした奴らが、未だに生きていた様だ。


 掛瑠「分かった、喰らえヘッジホッグ!」


 掛瑠が放った1つのツララが敵に刺さり倒れる。するとツララの周りから新たなツララが生えて、更にまた周囲に拡散し一気に崖に潜んでいた敵を一瞬のうちに殲滅した。


 掛瑠「…そろそろ限界かも」

 有理「掛ちゃん…」


 だがまだ最後の10体が残っていた。奴らが谷の向こうからドシドシと向かってくる様子は、「生きたい」と思ってからはじめての「恐怖」であった。


 掛瑠「有理…足が、やはり限界みたいだ。この与太郎を置いて逃げて」

 有理「本当に優しいのね、でもこれを退けたら私たちの勝ち。だから、そこにいて」

 掛瑠「…!?」


 有理は深呼吸して、迫る敵を睨みつける。そして気迫を放ちながら左腕を触手に変化させた。


 有理「この力を無礼るなよ、弘明寺カルテットを無礼るなよ‼️」

 

 触手が拳を形成しメリケンサックの要領で毒針を纏うと、一気にキマイラオートへ毒拳が雨霰の様に直撃する。


 『海月嵐・羽武‼️』


 毒突きの波状攻撃にはチハの主砲や光隆の拳が通用しなかった西洋風の甲冑を、熱する以外の物理の力で破壊する事ができる。それにより内部の、一般的な生物としての実体をミンチにする事も容易い。

 しかも圧倒的なリーチから繰り出される為、キマイラオート一体破壊するのに2発から3発しか掛からなかった。


 掛瑠と有理の目の前の敵は、血と鉄と氷山と毒のシブキの下に崩れ去った。


………


 スキー場の斜面は既に戦場となっていた。

 側面からの迫撃砲により、光隆と掛瑠による防壁は崩され白根山頂方面からキマイラオートが20体押し寄せてきた。

 なお迫撃砲による攻撃は興一が全て防ぎ、上空の対戦車ヘリも戦況偵察位しか出来なくなっていたが依然状況は最悪に近かった。


 成茂「畜生拠点の後方からか!機関銃で牽制しろ!」


 しかしその効果は焼け石に水、興一もヘリだけではなく何かを警戒している様子で連絡することも出来ない。


 成茂「この野郎!全部俺がメッタメッタにしてやる!!とりゃぁぁぁぁ!」


 非能力者ではトップクラスに鍛え上げられた成茂は、指揮をとっていた麓から敵の最前線までゲレンデを駆け上り軽自動車位の質量があるキマイラオートの頸をパンチ一撃でへし折って戦闘不能にする。

 続けて頸をへし折った個体を足場に追い抜いていった個体へとジャンプしカカト落としにてノックアウトさせた。


 だが残り18体、天候が悪くヘリコプターの武装が使えない中部下のロケット砲で数体撃破できたがそれでもこのままではレストハウス(スキー場の受付やショップ、食堂のある建物)を破壊されてしまう。

 成茂はそのまま更に1体を倒したがもうゲレンデの麓にまでキマイラオートが差し掛かる。


 成茂「畜生…畜生ぉぉぉぉ!!」


 だが、奴らはレストハウスに向かう前に悪臭を放つ物を認識して警戒陣へと移行した。


 進矢「喰らえ、シュールストレミング爆弾!」


 その悪臭を放つ存在は信之・小佐々車の後方に取り付けていた「からくリアカー6号機」により飛ばしたものだった。


 信之「みんなより先に来てしまったけどいいの?」

 進矢「パチンコやスリングと言われてる奴で、これを使えば熊だってイチコロだった。実は配信でもこれ使う回は人気出たんだよね…」

 キマイラオート「ガルルルル」

 進矢「ここから逃げない、かかって来い!」


 キマイラオートの群れの半分が信之と進矢の方角へと進軍してくる。


 進矢「ワイヤー!」

 そのうち一体をワイヤーで掴み、一気に横に引き、斜面の傾斜で横にいる奴ごと叩き落とす。しかし後2体が猪突してくる。


 「そのガッツ、いいな!」

 「守るってなら最後まで!」


 後方から強烈な水鉄砲と熱波攻撃が出現、襲う寸前の2体を瞬時にぶっ飛ばしながらレストハウスを攻める2体に衝突させた。


 光隆「やるな進矢、信之!」

 陸唯「心配させんなよ!」

 進矢・信之「ごめん」

 光音「怒ってこっちに向かって来た。」

 カンナ「ここで決めますわよ!」

 光隆「アルニラム隊、キマイラオートをぶっ飛ばす。撃て!」

 チョウナ「パンツァー・フォー!!」


 中戦車チハ4両の統制射撃に加え、光隆と光音の水の能力、陸唯の熱波、そして進矢のワイヤーで木を切断してからのその丸太をそのままぶつける攻撃。

 その全てがダンゴ状態になっていたキマイラオートに直撃、攻勢に出た全てのキマイラオートを撃破する事に成功した。


 光隆「やったな!」

 陸唯「でも、まだ魔力源の破壊が残ってる。残弾あったらこっちくれ!」

 光隆「分かった、気をつけてな」

 陸唯「おうよ」


 キマイラオートの攻勢隊を全て撃破、後は敵の拠点を奪おうとしたその時、谷沢川の先にあるゴルフ場から轟音が響く。


 掛瑠「スキー場の方から轟音?」

 有理「でも砲撃の音じゃ無い気がする」


 チョウナ「あれは…即応巡視船“クライトゥス級”?」

 陸唯「ゴルフ場の付近からか?」


 興一「仮にも奴はついさっきまで海護財団の准将、クライトゥスの同系・準同型で構成された即応打撃群を保有していたが違法薬物取引や人身売買に使っていたどころか、船を売却した証拠が…ってやはりそう言う事か。」

 成茂「興一!谷方向バリア強めろ!」

 興一「分かった!」


 刹那強烈なパルス光線砲が放たれ、興一がカバーし切れていなかった山の一部が削れてしまった。


 光隆「山を!?」

 光音「陽電子砲でもないのに?」

 光隆「あんなの次撃たれたらヤベェ!」

 光音「分かった、圧縮空間筒発動」

 

 光音は筒のボタンを押してレーザーポインターを照射すると、ボタンを再度押すと目の前に大型のプレジャーボートが出現した。


 光音「エーゲマリン号、ライラックの品種の名前。母さんのプレジャーボートなの。」


 その中に入ると、ソファやテーブルなど最低限の家具を残して後はもぬけの殻だった。少し物音がしたと思い、下へと二人は降りた。


 樒果「あら、奇遇ね?」

 光音「圧縮空間筒の中に、何で?」

 樒果「こんな事もあろうかと、ヴァルターエンジンの点検をしてたの。」

 光隆「今からあそこに浮かんでる寿圭の船をぶっ飛ばしに行くんだ!」

 樒果「ちょっとちょっと前後に動く位は出来るけど、肝心な下方面へのスラスターなんて積んでないわよ?」

 光音「それに関しては、少し考えがあります。」


………


 寿圭「あの弓張興一の能力、無茶苦茶ザマス。だが、多用途発射管から弾き出される時限信管の波状攻撃ならどうザマショ?」


 多用途発射管が開かれ、その中には33.4センチ迫撃砲が装備されていた。後部に装填されたそれは上空へと砲口を開けている。


 だが敵は下から来たのだ。


 光音「ヴァルターエンジン始動、反応が始まるまでに船を浮かせるわ。この為に余力を残しておいたの。」

 光隆「そうだったのか、俺もまだ後一戦はやれるぜ?」


 船底から4本のウォータージェットが噴射され、船がゆっくりと持ち上がる。これは光音の能力により形成されたものであり、重さ約300tの船を浮かせられるだけの出力を常時放っている。

 更にこの船はヴァルターエンジンと言う、高濃度過酸化水素を軽油や水和ヒドラジンと混合させ燃焼し発生した高温高圧ガスが推進力となる。

 それにより走るこの“エーゲマリン”は海中も移動できる可能性がある。

 だが今は山の上、空から温泉郷を脅かす敵を退治しに行くのだ。


 光音「ヴァルターエンジン発動。エーゲマリン、発進。」


 エーゲマリンはスキー場上空を駆け抜け、谷沢川の上空で旋回。クライトゥスを2時の方角かつ仰角30度で捉えた。


 光音「久々だね、エーゲマリン。今回はちょっと荒くなるけど、いいかな?」

 光隆「ちょっと荒くなるって、お前まさか!」


 前方には対戦車ヘリMi8がこちらへ機関砲を打ってきていた。


 「バリア外の敵なら!」

 光音「効きません、LA15と同じ素材だから?」


 光音はアクセルをベタ踏みしていた。ヘリコプターと距離をどんどん詰め、衝突コースに入ったその時、船首を空へと上げてウィーリーした状態でヘリコプターと衝突した。


 フレームが瞬時に凹み、プロペラが瞬時にへし折れエンジンブロックから爆発が発生。爆炎を伴いながら下へと落ちて行く。


 光隆「すげぇ…」

 光音「どんどん行くよ、光隆」


 「ミサイルだ!ミサイルをガラスに当てろ!」


 残っている他のヘリが半包囲する形に布陣、大量の対戦車ミサイルを当てるだけでなくクライトゥスの迫撃砲もパルス砲も全く効果が無かった。


 光隆「敵さんミサイル切れたのか?」

 光音「そうみたい。そうなればあのヘリは、でくの坊よ。クライトゥスだって体当たりで沈めれるはずだけどどうする?」

 光隆「寿圭は俺がやっつける、だから表万座の方のヘリをお願い」

 光音「分かった、下の方から接舷するわ」


 高圧ガスのジェットが強まる。急に加速したエーゲマリンを警戒し後ずさりするヘリを、山に近い順から猪突し破壊する。

 その勢いのままクライトゥスの後方かつ下方に付き、そのまま右舷のパルス砲がある出っ張りの底面にラムアタックを叩き込む。


 光音「光隆、乗り込んで」

 光隆「おう!」


 寿圭「何でナナメになるザマス?」


 光音「ヴァルターブースト、全開」


 エーゲマリンがクライトゥスの側面を下から押し出す形となり、クライトゥスが上空で転覆する。


 樒果「魔導反応センサー反応…ってなるほど、そう言う事か。」

 光隆「行ってきます!」


 デッキへと繋がるハッチをこじ開け光隆はデッキを全速力で走る。そして転覆しつつあるクライトゥスのパルス砲に飛び乗りそのまま艦橋レーダーの支柱へとジャンプした。


 光音「ヴァルターで支えれるのもこの位…ウォータージェットで態勢を整える。」


 刹那、ヴァルターエンジンがさらに後方にガスジェットを吹き空中を一回転し再びクライトゥスよりも低い高度で安定飛行へと戻る。


 光隆「やっぱりすげぇな、光音は。んでもって…」


 レーダーなどを支える柱の下を見る、すると艦橋内部へ繋がるハッチを確認した。


 光隆「よぉしこれで」

 寿圭「これで何になるザマス?」

 光隆「であがったな寿圭独羽!」


 艦橋にカチコミを掛けようとしていたその時、柱を挟んで反対側のハッチから草津事変の主犯“寿圭独羽”が出現した。


 光隆「お前聞いてるぞ、お爺ちゃんお婆ちゃん達を8畳位の部屋に閉じ込めてドレイみたいにしてるんだろ?」

 寿圭「何を言い掛かりするザマス?」

 光隆「掛瑠が言ってた、お前に散々お世話になった様だな。俺は掛瑠の兄貴、相浦光隆だ。お前をぶっ飛ばす!」


 瞬時に寿圭の顔面に右ストレートをぶちかます。しかし寿圭の顔面には届かず光隆は掴まれてしまった。


 寿圭「クソ共の攻撃なぞウジ虫以下ザマス」

 光隆「この野郎!」


 光隆の背中に複数発の銃弾が撃ち込まれた。


 寿圭「怒りで震えて涙が止まらないザマス、最近のクソ共はこうやって言い掛かりを付けてハラスメントするんザマスね。にしても可愛らしい顔してる癖に…“再教育”か“洗脳”してドイツの[自主規制]に売ればどの位の金になるざましょ」


 光隆の腕を部下が踏んづける、そしてメッタメッタに蹴飛ばしている。


 光隆「こん畜生…掛瑠は言ってたぞ、誰かにそうやって自分の考えを強要する奴は碌な目に遭わねえって!」


 光隆は横にいる寿圭配下を水に変化させ、銃弾をも水に変えて自分の皮膚を再構成する。

 

 寿圭「テメェ!」

 光隆「渦潮纏い、左ヒレ!」

 寿圭の拳を弾き光隆は右ストレートをぶちかます。

 寿圭「何故…効いた?」

 陸唯「こちらアルニラム陸唯小隊、魔力源の封鎖に成功!」

 光隆「あいつら、やったんだ!」

 光音「表万座の摩天楼が…」


 魔力源の破壊が、その魔力を受け取っていた寿圭や魔力により構築されたSDグース表万座のホテル群が消えてゆく。


 寿圭「だがアテクシがテメェを殺して弓張一派もぶち殺せば…旋回、ありったけの砲弾を撃ち込め」


 刹那、寿圭の横の壁に赤ボールペンが刺さる。


 興一「誰を殺すと言ったか?」


 更に側面から新砲塔チハの47ミリ砲が撃ち込まれ、多用途発射管が次々と誘爆してゆく。


 掛瑠「兄さんに変なこと、してねぇよな?」

 寿圭「クソ共ガァァァ!」

 光隆「決めるぞ!横波バイソン!!」


 光隆の蹴りが寿圭の腹を的確に捕らえ、ノックバックで一気に吹き飛んでいった。


 光隆「勝った…ってわぁぁ!」


 コントロールを失ったクライトゥスが左右に揺れ、光隆は空中へと放り出される。


 光隆「やべぇ!」


 絶体絶命の光隆、折角悪党をぶっ飛ばしたのにこれだ。力も使い果たして飛べなくなった鳥は、自分の命を諦観するのだろうか…。


 光音「光隆ぁ!」

 光隆「え?」


 落下する光隆を彼女、松浦光音がエーゲマリン号でキャッチしたのだ。


 光隆「光音、ありがとう!」

 光音「全く、無茶しないでよ…」


 答えは否だった。彼には心強い親友が居た。飛ぶ鳥を堕とそうとした石を、はたき落とす事が出来るほどの。

 そして悠々と、邪魔者が居なくなった草津の空を舞い戦場になった隘路へと降り立つ。


 興一「片付いた様だな」

 成茂「状況終了、用具納め。興一、いや弓張興一元海護財団第7艦隊司令長官殿。非番なのにご協力、感謝致します。」

 興一「いやいいよ、子供たちを湯治させに来ただけだから。それに成茂は友達だからね」

 成茂「町役場と協力して町民の安全確認いそげ!」


 信之「ようやく、終わったんだね」

 進矢「これでまた、嬬恋村にも夜空が戻る。」

 信之「何で嬬恋村の方にも気を遣ってるの?」

 進矢「母がね…あっちの出身なんだ」


 掛瑠「兄さんが、あの穢らわしい寿圭を倒してくれた…!」

 有理「もう、怖がる必要は無いんだよ」


 標高1000メートル越えの高地での激闘は終わり、再び賑わいのある温かい町へと戻ってゆく。白根山を気流の轟音が響き、空には黒点が現れていた。


 掛瑠「いやちょっと待て、何かおかしい。」

 有理「あれは…隕石?」


 平穏が戻ったはずの草津の上空400kmに巨大な隕石が出現、しかしその隕石は変則的な軌道を取りながら草津へと落下して行く。


 興一「あの隕石…レトキなのか?いや、だとしたらおかしい。財団はあの規模の敵を見逃す筈は…いや、まさかそんな…!」

 樒果「どうも大変なものを掴まされていた様ね、打ち上げたばかりの第六衛星軌道中隊が壊滅した。直径10キロ級の化け物、ボスタイプの大業物か…」

 興一「もう機動艦隊は間に合わない。樒果、撃墜出来なかったら子供たちだけでも守り抜け!」

 樒果「ちょ、ちょっと!」


 走り出す興一、周囲に重力源を発生させスイングバイ(天体などの重力を利用して加速する、探査機はやぶさやボイジャーが使った)の要領で白根山の斜面を全力疾走する。


 興一「ここまでの上物、アラスカの時以来だな。ボス単騎で乗り込んで来るとは、底無しの…いやいい、一撃で決めるぞ」


 敷島第五フロートを越える直径の球体は、白根山の頂上目掛けて落下しニキビを潰したかの如く火山をクレーターに変えようとしていた。


 「「「キィィィィィ」」」


 凄まじい金切り声が北関東一帯と新潟県全体を揺るがした。上空100kmを切った敵は、直下から飛んでくるちっぽけだが、明らかに危険な空間異常を認識した。


 『岩塊大陸、穿てぬ物なし』


 避けられない、自身よりも強烈な質量物を前に自由落下する物体は無力だ。


 光隆「…!」

 光音「光隆伏せて!」


 刹那、彼らの上空で黒い閃光が十字を切った。空間が、見えている景色が歪む。弓張興一が放った鏑矢は、人類を滅亡に追い込みかねない隕石の存在を瞬時に貫き存在そのものを抹消した。その余波が周囲に爆発として現れ、宇宙へと続く破壊的な御柱として一瞬だけ顕現した。


………


 町や白根山は無事、今度こそ本当に草津の温泉郷に平穏が戻ってきた。特殊能力は天変地異に匹敵する圧倒的な力に対して対抗し制圧できる力である事を、この町の様子が示していた。


 光音「これが、弓張の力?」

 樒果「貴方達松浦も、本気出せばこんなの比じゃないわ」

 光隆「すっげぇ、隕石を吹き飛ばした‼️」

 掛瑠「ブラックホールを一瞬だけ出現させた?常識的にあり得ない」

 光音「指向性のある強烈な重力源を前方に向けて撃ち出した?」

 樒果「うーん、どうだろうね?」

 掛瑠「あれ…これ火口に落ちるのでは?」

 有理「やばいどうしよう!」


 直後横の雪の吹き溜まりに何かが直撃した。


 陸唯「何だ?」

 興一「あっちゃあ、衝撃を後ろに向けちゃダメとやり過ぎた…みんな、大丈夫?」

 光隆「興一さん!」

 光音「良かった、無事で」

 樒果「教師として、准将としての威厳は保てたようね。」

 興一「ハハハ…これで速攻機動艦隊の司令に戻る羽目になったらどうしよう、今の役目の方が好きなのに」

 樒果「B2爆撃機1000機分の戦略価値と言われてる人が謙遜しないの」

 興一「ノブレス・オブリージュか…荷が重いよ」


…………

……


 再び特急列車の中、今度は陸唯も一緒だった。


 陸唯「なぁお前ら、俺ら全員興一さんに勝てる程強くなれって言われてるんだよな…?」

 掛瑠「そうですね…」

 有理「そうなのよね」

 光音「この世界を構成する重要な要素である重力を自在に操れる存在に、どうやったら勝てるの?」

 光隆「俺は勝つぞ、絶対に!」


 掛瑠「いや、ですから…どうやったら勝てるかとかそう言う話で…」

 光隆「まだ俺たちは弱いんだ。レトキに攻撃が効かなかったのに、アレよりもデカいのを興一さんは一撃で粉微塵にした。今は勝てないと思う、でも絶対に超えてやるんだ。」


 漠然とした方針しか見えてこないことを、不安と捉えるか冒険と捉えるかで人生の捉え方が大きく変わるのかもしれない。


 興一「みんな、何の話ししてたんだい?」

 陸唯「あ、いいや何でもないです」

 興一「そうか。それで今晩のご飯の事だけど、牛タン弁当でいいかな?みんなが食べた中君だけ食べれなかったからさ…」

 陸唯「牛タン弁当?」

 カンナ「陸唯は知らないんですの?」

 光隆「美味いぞーあれ!」


 特急列車は山間を抜け、広い関東平野へと走って行く。利根川や東京湾の先にある、海を目指して。

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