雪中の灯-3
光隆「ここが…草津?」
光音「なんか温かい」
草津の町はどこかしら温かい雰囲気に包まれていた。湯けむりが上がり、和風な建物が湯畑の周りに広がっていた。
光音「湯畑…写真では見た事あるけど実際に見ると圧巻」
光隆「だなぁ…このお湯、空気を浴びてるんだ。」
光音「光隆、もしかして…水に意識があると思うの?」
光隆「無いのか?俺たちは水から産まれたんだぞ?」
有理「ギャグで言ってるの?」
掛瑠「…兄さんらしい、一理あります」
有理「あるの?」
有理にとって、複雑な気分に陥った事は語るに及ばない。いつも四人で居たのだが、自分は三人のことを理解出来ていないと思い知らされつつあった。
一方グラバーズはと言うと…
チョウナ「まさか射撃場があるなんて」
カンナ「これコルクですわよ?これを的に当てたら景品ゲット出来ますわ」
チョウナ「ブチ抜く事以外何が楽しいの?」
カンナ「こう言うの、景品を自分の手で勝ち取る事に意味がありますのよ?」
店員のおばちゃん「フランス人形みたいねぇ、1発やってくかい?」
カンナ・チョウナ「私たちイギリス人ですわ!(です!)」
店員のおばちゃん「あら…やらないの?」
カンナ「そりゃやりますわ…受けて立ちますわ!」
射的が出来るお店にて熱が入っていた。最早湯畑により冷やされている熱い源泉の熱がそのまま彼女たちに転移したのかと思うくらいだった。
カンナ「チョウナ、これどうやるの?」
チョウナ「このポンコツ!アンポンタン!」
カンナ「そこまで言う必要はないでしょ?」
チョウナ「コルク銃は前装式、銃口に詰めてからこのレバー(撃鉄?)を引いて狙いを定めて引き金を引く。」
カンナ「つまり?」
チョウナ「シーケンスが多いだけで狙いを定めて放つのは魔法と同じ、そのまま狙い撃って!」
カンナ「分かりましたわ、とりゃあ!」
初弾は狙いを5cm外した、的と的の中間点に着弾したと見られる。
チョウナ「ブレてる、杖を握ってる時を思い出して?」
カンナ「わかりましたわ」
チョウナ「誤差修正、プラス0.2。撃鉄起こせ!」
カンナ「ミリオタ根性に火がついてませんこと?」
チョウナ「構わん、撃て」
カンナ「こんなんじゃ集中できませんわ!」
撃鉄を起こし、狙いを定め今度こそ撃ち抜かんと欲する。
カンナ「お食べなさい!」
今度は的へと一直線へと進む。空調は主に温泉の熱を利用した床暖房、若干の上昇気流さえもバネを用いて射出されたコルクには追い風になる。
狙いは中央より少し外れ、二重丸のリング間へと命中する。
カンナ「やりましたわ!」
チョウナ「よぉし、おばちゃん私もやります。」
店員のおばちゃん「あいよ」
チョウナは慣れた手つきでコルクを込めると、狙いを定めて上段の的へと撃ち込む。
チョウナ「ジョンブル魂、見せてやる!」
………
結果はカンナが10発中6発の命中、チョウナが10発中7発の命中でチョウナが勝ったようだ。景品はと言うと…
カンナ「何これ?」
チョウナ「バネ?」
カンナ「これは…双眼鏡、ですの?」
チョウナ「手榴弾に見せかけた水鉄砲…だと⁉️」
結局カンナは小さい犬のぬいぐるみを、チョウナは気になった手榴弾に見せかけた水鉄砲を選んだ様だ。
一方その頃、光隆達はと言うと…
光隆「これが湯もみ?」
光音「湯畑を通してもまだ熱いからこうやって冷ましているのね。」
掛瑠「流石に蒸し暑いですね」
有理「次私たちの番だよ」
??「お四方、少し良いですか?」
彼らに声を掛けたのは、小さいデジカメを持った少年だった。
光隆「何だ?」
??「はじめまして、実は自分…こう言うものなんですが」
彼らにその少年は名刺を渡した。
有理「小佐々…進矢?」
光隆「電車の中でグラバー達が見てた人だ!」
光音「どう言う事?」
掛瑠「彼、この町を広報する公認インフルエンサーの様ですね。」
小佐々進矢「よくぞご存知で、それでですね…湯もみをしてる画を撮ってその感想も教えて欲しいのです。」
光隆「いいぞ!」
光音・掛瑠「え?」
有理「もう少し冷静に…」
光隆「いや…こいつ何か目が困ってる。」
光音「どう言う事?」
進矢「実は…」
彼は今日ここで朝から粘っていたが、この時までに誰も彼に協力する人は居なかった様だ。
有理「仕方ないねぇ…名前とか出すの?」
進矢「出したくなければ構いませんが…」
有理「…分かった。」
進矢「ではこの誓約書を…」
アレコレしている内に、彼らの番となった。
光隆「そぉれ」
まさか、船のオールをこんな所で漕ぐことになるなんて思っていなかった。
しかも、普通の漕ぎ方ではなくお湯をかき混ぜる為に。オールをそれこそスクリューの様に動かし、しかも深層まで掻き回さねばならない。繊細でかつ大胆に行かねばならなかった。
………
時間は少し遡り、グラバーズが射的に興じている頃興一は旅館川内へと来ていた。
ここは彼の父と古い付き合いのある人が旅館の主人をしており、今や草津一の旅館となっていた。
興一「301を予約しました弓張と申します。」
受付「ぼく、お父さんやお母さんは何処かな?」
興一「まさか…小学生か中学生と思ってらっしゃる?」
受付「違いましたか?」
興一「…これ、運転免許証です。そしてこれが宿泊券です、なので僕が予約した…」
受付「申し訳ございません。8名様で予約の弓張様ですね、こちら…」
興一が手続きを済ませた辺りで、遊び歩いていた光隆達が合流する。
興一「どうだった?」
光音「すごい綺麗だった」
光隆「早く温泉入りたい」
カンナ「射的難しかったですわ」
チョウナ「せやろか?」
そこに彼らと同じくらいの、それでいて旅館の制服たる綺麗な着物を着た少年が現れる。
興一「君は?」
川内信之「旅館“川内” 丁稚仲居頭、川内信之(せんだい のぶゆき)です。皆さんをお部屋までご案内します。」
興一「…分かった、お願いします。」
………
彼らが案内された301号室はこの旅館の中でもかなり高い部屋だった様で、窓からは湯畑が見える場所に位置した。内部には2つの部屋があり、本来なら家族3世代で来る想定だった様だ。
信之「お茶です」
光隆「ありがとう。にしても俺と同じくらいなのに働いててすげぇな、えっと…」
信之「川内信之です、」
光隆「信之かぁ…よろしくな!」
光隆が信之と握手する。この際信之は一瞬立ち眩みを起こすもすぐに立ち直った。
光隆「おい、どうしたんだ?」
信之「だ、大丈夫です。たまにあります、心配ありません」
光隆「そうか…本当に大丈夫なんだな?」
信之「心配させて、すみません。」
興一「それよりも丁稚仲居って…?」
信之「僕しか居ないんですけどね、丁稚とされている人…。でも一人だから頭を名乗れと、主人が…」
一通り部屋に関しても説明を受けた。部屋に入ってから右側に靴箱、左側にお手洗い(洋式)がありその先には左右の部屋へと続く扉がある。突き当たりには床の間と掛け軸があり、小さいスペースながらも和を感じさせた。
信之「そ、それではごゆるりと…」
興一「ちょっと待って、他の業務は何かあるのかい?」
信之「今日はビュッフェがあるので、その手伝いに行かねばならないのです。」
興一「そうかこの季節、新人社員研修にこう言う所使う場合があるのか。それで、」
信之「はい、本来なら旅行シーズンや連休にやるのですが…もし良ければビュッフェにしますか?」
興一「研修のお客様はいつまで?」
信之「今日までですね」
光隆「ビュッフェ、いいの?」
興一「そうだね。頼もうかな、ビュッフェ7人前コースを。」
信之「承知しました、それでは時間になりましたら下の食事処までいらしてください。」
………
指定された時間は1時間半後の20時半、その間に温泉に入る事になった。
暖簾を潜り、服を脱いで扉を開ける。すると目の前には大きな富士山が広がり、その前には広い檜風呂が横たわっていた。
光隆「わぁい広いお風呂だ!」
興一「しっかり身体流してから入ってよ?」
光隆「温水シャワー!」
興一「便利だなぁ…」
光隆は自分の能力で掛瑠の身体も流すと、大浴場へと足を踏み入れる。
掛瑠「あちっ!」
光隆「大丈夫か?」
掛瑠「大丈夫」
光隆「じゃあ肩まで浸かろうな!」
興一「(僕にも弟が居たらこうだったのかな…?)」
草津温泉は白根山の山腹にありその泉質は硫黄泉、源泉はとても熱く湯畑に通さねば掛け流しなど出来ないほどだ。
しかし日の本一の温泉街になったのはその風情とこの特徴的な泉質のお陰であるだろう。
光音「ふう、温泉が心に沁みる〜」
有理「分かるわ〜蕩けそう…」
カンナ「これが、日本のお風呂…」
チョウナ「イタリアのテルマエとはまた違った良さがある」
樒果「ふぇぇ…生き返る」
光音・有理・グラバーズ「え?」
樒果「え?」
女性陣一同「えええ⁉️」
海護財団・科学技術本部長、弓張樒果。いつの間にか彼女もこの草津に来ていたのだ。
有理「仕事はどうなってるんですか仕事は?」
樒果「はぁ草津温泉気持ち良すぎだろ」
有理「答えてよ」
樒果「副司令が茜さんの他に双樹さんが居るように、科学技術副本部長も興一くんだけでなくもう一人居るのよ。その人に丸投げして休暇消費に来た」
カンナ「三頭政治ですの?」
チョウナ「アクトゥムの海戦…?」
樒果「滅ぼすなや」
そして、光隆達は露天風呂に入る事にした。標高1200mの山地では、満天の星空が見えていた。都会では中々見られない、光隆達にとっては稀有な星空だった。
光隆「すげぇ」
掛瑠「…!」
興一「残雪と夜空か…風流だ」
輝く星は僕らを見守り、旅の疲れを癒してくれている。凍える風と熱い温泉が肌に心地いい、暫くゆっくりとした時間が過ぎていった。
光音「お母さんが、海の上から見る夜空は綺麗って言ってたけど山から見る夜空も…凄くいい」
樒果「あなたのお母様、いい人だった。」
光音「今、どこに居るんだろう?」
樒果「さぁ…私の名付け親でもあるのだけど、何処ぞで研究に明け暮れてるんでしょうねぇ。」
教え子と恩師の娘、彼女達の関係はそう言えた。光音の母で有理の叔母、彼女は今果たして…
………
樒果「来ちゃった」
興一「ぶん殴るぞ」
しっかりと温泉で温まったと思ったら、突然兄妹喧嘩が勃発した。興一としては敷島を彼女に任せていたのだが、唐突について来たとなると流石に頭を抱える。
光隆「興一さん、牛乳欲しい!」
光音「コーヒー牛乳ならぬ紅茶牛乳…?」
有理「それミルクティーや」
掛瑠「…」←のぼせてぼおっとしてる
有理「頼まないの?」
掛瑠「…」
有理「抹茶ラテ?」
掛瑠「!」コクリ
有理「(全く可愛いなこいつ、光隆も占有してんじゃないよ)」
興一「分かったよ、全員分買うから。」
樒果「じゃあ私ヒューロンラッツで!」
興一「君は少しは自重しなさい」
カンナ「お風呂入った後に牛乳とは日本人、やりますわねぇ。」
チョウナ「日本のこう言うところ好き」
信之「皆さまお揃いですね、席にご案内します」
暖簾を潜ると、果たして何畳あるか分からないほどの畳が敷かれた場所にコタツが何個も設置された宴会場が視界に飛び込んできた。
光隆「広いなぁ」
光音「敷島の大座敷と同じ位、いやそれ以上?」
カンナ「こ、こんなのヨークミンスターに比べましたら…」
チョウナ「強がらない強がらない。」
信之「ではビュッフェコースの説明を致します。皆さん知っての通り食べ放題ですが、一同トングで掴んだものは戻さない事とよそったものは全部食べて下さい。それでは、お楽しみ下さい。」
早速光隆とカンナが取りに行った。するとそこには沢山のおにぎりや天ぷら、お好み焼きに水餃子にタコス、フレンチフライやパスタが並べられてある。最早子供が好きな食べ物のバーゲンセールの様相を呈していた。
興一「これは豪勢だなぁみんな。」
樒果「興一くんは寧ろ質素なのよ」
興一「そうか?」
樒果「タコス1つとお味噌汁だけって、これだから許嫁の都姫ちゃんに背を抜かれたのよ。それにアラスカで包囲された時覚えてる?」
興一「う…」
樒果「もぉ、あの時ほど貴方ひもじかった覚えなかったでしょう?私と“あの人”が助けに行かなければ餓死してたんだよ?」
興一「…君に叱られるとは僕も世話ない。確かにどんなタイミングであろうとお腹空いてちゃ戦えない、君の判断は賢明だよ。」
有理「じゃあいただこうか」
一同「いただきます!」
夕方からとは言え遊び回った彼らのお腹は減った事間違えない、それぞれの好物を食べまくった様だ。
そして、食事も終わり自分たちの部屋へと戻る。流石に小学生とは言え倫理的な問題を鑑みて、男女で部屋を分けることにしたようだ。
興一「では、右が女子左が男子でいこう。」
樒果「そうそう、セキリュティの問題を考えてこれ持って来たんだった。」
光音「それは?」
樒果「試製空間歪曲式シールド発生装置、これ使うと外敵や衝撃などをを一切シャットアウトするの。こことここのふた部屋に発動!」
その時、光隆と掛瑠が部屋を出てドリンクを買いに行こうとしていた時だった。しかし…
光隆「もご!」
掛瑠「むごっ!」
案の定と言うか何と言うか、バリア自体にぶつかってひっくり返ってしまった。
光音「あちゃあ、大丈夫?」
有理「何やってんのよ…」
樒果「ね、凄いでしょう?実はこれ…銃弾どころろかある程度砲弾もはじけるの。」
興一「だからって無警告に使うのは酷くないか、下手したら彼らの身体真っ二つだったんだぞ?」
樒果「今から買いに行こうとしたのが合理性を欠けていた。それだけよ」
興一「全く危なっかしい。それを言うなら今君がここに居ることこそ、合理性を欠けているね。」
樒果「有給休暇を非合理と見るか?ふざけないでよ。」
チョウナ「まあまぁ…何かあれば我々が彼女をどうにかしますので」
興一「どうすると言うんだ?」
チョウナが杖を振った瞬間、樒果の動きがピッタリ止まり布団にひっくり返る。
興一「何をした?」
チョウナ「速攻で睡魔に襲われて気を失う魔法をかけた、翌朝には目覚めるでしょう。でもとても疲れてる。」
興一「全く、生徒達と居るときに家族で集まる時と同じノリで来られても…余計に疲れる。」
この日は22:30ごろに消灯した様で、一人を除けばみなぐっすりと眠っていた。
……………
……
光隆「やっぱ寒いなぁ」
光音「ヘルメット被らないと頭に雪が積もっちゃうよ?」
光隆「マジ?」
翌朝、朝食として買っておいた惣菜パンを食べた光隆達はスキー場へときていた。尚樒果は温泉街の観光へと赴いていた。
興一「うーんと、この中にスキー経験者って居たっけ?」
興一の呼びかけに対して、一同は黙ってしまう。
興一「…僕しかいないのか。」
ここは仕方ないのでナレーション欄を借りてスキーの基本について語ろう。
まず立ち上がる事が出来なければスキーなんて出来ないだろう。
スキー板にスキー靴をカチッとはめてから外に出る訳だが、もし転倒してしまった場合板をどうにかして位置を維持する。それからステッキを用いてバランスを取りつつ立つのだが、明らかに腹筋と体幹を活用せねばならなくなる。
もしも、スキー板と靴を固定するグリップ部分に雪が入ってしまってグリップが機能不全になるときがある。そんな時はステッキをもちいて固まってしまった雪にぶっ刺してバラバラにして捨てる。
基本的な注意事項を話した所で、早速滑ってみよう。
光隆「行くぞ!」
光音「光隆に自転車もなしに追い付けてる!」
掛瑠「兄さんの弱体化要因?」
有理「あの速度の秘訣はやはり脚力、腕力は人並みなのね…」
興一「リフトのチケット買ってきたよ。今日1日乗り放題だからね!」
この時期、既にシーズンが過ぎつつあった。しかも平日だったせいかそこまで並ばずにリフトに乗ることができた。
光隆「高いなぁ」
光音「ゆうぐもから海面までと同じくらいじゃない?」
有理「別のベクトルに感じてるんだと思う。ほら、飛行機だと余裕だけど展望台だと「高いなぁ」ってなるアレ」
掛瑠「なるほど…」
どんどんと斜面をのぼり、初心者コースの起点へと到達する。飛行機が着陸するとき、機首を上げるのと同じでつま先を上げてカカトから着陸する。
光隆「1番乗りだぜ!」
光音「後ろ詰まっちゃう、少し先で待ってよ?」
カンナ「ちょっとうわ、どうすれば良いんですの?」
チョウナ「つま先を斜め上にして、後普通に降りる。」
掛瑠「来ちゃったよ…またすっ転んだりしないよね…」
有理「私達は特殊能力者。掛ちゃんが転んでも、怪我をしても、例え拉致されても、必ず助けてみせるよ。」
有理はこの際なので、掛瑠を口説いていたが掛瑠は俯いて聞く耳を持たなかった。
興一「よおし全員揃った。これから500mのコースを下ることになるけど、今回は大っぴらに特殊能力を使ってアシストする事は出来ない。なぁに問題ない、言われた事を守っていればあっという間に夜になる位にはスキーは楽しい。」
光隆「よぉし滑るぞ!」
光音「雪上では光隆に負けない」
有理「掛瑠、よぉし行くよ!」
掛瑠「えちょ…了解」
興一「元気だなぁ…(彼らに何かあったらいけないから後方で待機かなぁ)」
カンナ「わ…わぁ」
チョウナ「大丈夫、そのままそのまま」
カンナ「何でコーチぶれるんですの?」
チョウナ「さっきので覚えた」
カンナ「天才がいる…」
光隆「やっほーい!」
光音「わぁぁぁぁぁ!」
有理「GOGO!」
掛瑠「わぁぁ」
光隆「ヤッホーーイ‼️」
光音「光隆!早すぎ、注意して!」
光隆「分かってるって!」
そう言うと、グラバーズや掛瑠に有理をごぼう抜きして爆進して行った。
カンナ「早いですわ」
チョウナ「あの[自主規制]野郎、ジョンブル魂を見せてやる!」
カンナ「ねえチョウナ、ジョンブル魂の無駄遣いやめませんこと?」
寒空が雪雲に覆われる中、ゲレンデの上では彼らが流星の様な滑りを見せていた。
………
彼らが4回もゲレンデを駆け抜けた後の事だった。
掛瑠「うわ、あぁぁ…」
光隆・有理「掛瑠!」
掛瑠が転倒してしまったのはこの時だった。光隆と有理が同時に反応し駆け寄る。
掛瑠「…大丈夫です、自分で立てます。だから二人はリフトに行ってて下さい。」
光隆「そんな訳に行くかよ、ほら立てるか?」
有理「待って光隆、多分このまま靴をはめてもまたすっ転ぶ。」
掛瑠「氷が付いてる、こんなもの…」
掛瑠は靴にくっ付いた雪を氷で同化して、バラバラに砕いてしまう。
掛瑠「あとは自分でできます、なので…」
この時、少し有理には複雑な感情があった。光隆に何故遅れを取ったのか-彼女の脳裏には、そんな言葉がよぎった。
有理「肩貸すよ」
掛瑠「…ありがとう」
有理は生まれたばかりのこやぎの様に中腰で足をプルプルさせてる掛瑠の為に肩を貸した。
そしてどうにか復活してステッキを持つと、有理に促されて再びリフトへと向かう。
そして5回目に訪れたこのゲレンデのてっぺん、少し寒い風が吹いていた。
有理「光隆!」
光隆「どうした?」
有理「勝負よ、どちらが先に下に着くか。勝った方が掛瑠を貰う、いいね?」
有理は掛瑠を賭けた大一番へと臨む。これまでの光隆と掛瑠の距離感が兄弟とはいえ、幾らなんでも近過ぎたのが有理にはどうやら気に食わない様子だった。
光隆「何かしらねぇが受けて立つ!」
光隆もその勝負を快諾すると、同じラインへと立つ。
掛瑠「何故…俺なんかを賭けようとした?」
光音「嘘でしょ…」
カンナ「こう言う事に関しては、兄弟共通なんですわね。陸唯の言った通りですわ」
掛瑠「???」
チョウナ「兄弟愛に挟まるノンケ?」
興一「(何か面白い事になってきたな)」
雪が舞い散る草津国際スキー場、ゲレンデも絶好の良ソールとなりました。
興一「流れ変わったな」
光隆「お前とは、いつか決着(ケリ)付けねえとなと思ってたぜ」
有理「それはどうも、義兄さん。」
互いにメンチ切ったその時、一斉に滑走を開始した。
先に躍り出たのはやはり光隆だった。やはりスピードを出す事に関しては彼ほど生身で経験してきた人間は、これまで居なかっただろう。
だが有理もその後方でただ指を加えてるだけではなく、瞬時に追い抜こうとするも光隆のまるで釣りをするかの様な変幻自在の滑りに難儀していた。
有理「ショートジャブの連打じゃ沈まないよねぇ、ならば!」
光隆「何でそっちに?」
有理は機転を利かせて最短距離でゴールを目指せる直線ルートではなくあえて曲線を選んだ。そして…
有理「能力が使えなくても!」
スキー上級者はよく雪を舞わせてターンをする。有理は光隆のコースとバッティングする時に合わせてターンを行う事により、光隆に雪をふっかけて牽制する事に成功する。そしてその一瞬のゆらぎが、この戦において重要な瞬間であった事は想像に固くない。
ターンをした後即座に揺り戻しを行い光隆の前へと躍り出る。その時には既に、ゴールは目の前だった。
速度の光隆、技の有理。その追い詰め方は最早狼と呼んでも差し支え無かった。
光隆「すげぇな、有理。」
有理「こんなのどうと言う事もない」
光隆は能力によるバトル以外での試合で、はじめてワクワクしたそうだ。そして有理は光隆に対して少し掛瑠とイチャ過ぎだと指摘、されど二人とも全くの認識の外にあった様だった。
そんなこんなで9時ごろから13時ごろまで幾度も滑っていた。
光隆「流石に腹減ってきたな…」
光音「どうやら食堂には暖かいカレーやラーメンがあるみたい」
有理「クレープもある!掛ちゃんは何食べるの?」
掛瑠「…何でこっちに話振ってるの?」
スキー板を専用の置き場(キープ用)に戻し、ご飯を食べに行った。
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