いとなみ-1
興一が賢三とオンライン会議をしていた頃、光隆は芝生の上で海を眺めていた。
光隆「(夜の海っていいよなぁ…)」
陸唯「何見てるんだ?」
光隆「綺麗だなぁ…」
陸唯は光隆の視線の先に月があることを見出すと、何を誤解したか顔を赤らめた。
陸唯「それって俺のこと…」
光隆「イカ釣り漁船」
陸唯は盛大にずっこけた。確かに目の前には綺麗な月も、都会にしてはちゃんと見える星空もあるが光隆は海の上のイカ釣り漁船に目を奪われていた。
陸唯「お前また海かよ、でも宇宙にも興味あったじゃねぇか、何で星とかの話をしない?」
光隆「何か、空は冷たい気がする。海の方が何かあたたかい」
光隆はそれでも海を見ていた。陸唯はこいつ昔っから変わってねぇよなと昔を思い出していた。
まだ弘明寺に住んでいた頃、よく自転車で横浜の遊園地や氷川丸、反対の方向の金沢八景へと遊びに行っていた。どちらにせよ往復20km以上と子供が自転車で行くには流石に厳しい所を、光隆と陸唯はチャリで走り回っていた。海辺で釣りをしたりして遊び、時には日が暮れてから帰ってきた事があった。
(良い子はこんな作品なんて見てないと思うけど小学生なら学区外になんて自転車で行かないでね、興一との約束だぞ!)
そんな懐かしい日々を思い出していた陸唯だが、気付けば光隆の目は慈愛に満ちた表情から鬼のような表情へと変わっていた。
陸唯「なんだそんな怖い顔して」
光隆「あの船、他の船を機関砲で脅してイカを奪ってる。」
光隆が指さす先には、機銃を付けた武装漁船があり奴らは周囲の漁船を脅して日々の暮らしの糧であるイカを奪っていた。
陸唯「敷島の海、治安悪すぎだろ!!」
光隆「あいつは北の方に行ったな、よぉし!」
陸唯「光隆待て!」
光隆はクラウチングの体制に入ると、彼らが夕方見たマスドライバーの如く加速して一気に柵を飛び越えた。
彼はスーパー堤防の芝生に体を強く打つが受け身の姿勢だった為ダメージはなく、そのまま体制を立て直してもう1回クラウチングの姿勢に入る。
陸唯「お前、漁船は山手線みたいなスピードなんだぞ、まさか…」
光隆「とぉぉぉぉう!」
奇声を上げた瞬間、彼は馬鹿力を発揮して目にも止まらぬ速さで突っ走って行った。その速度たるや、彼が住んでいたエリアを走る緋色の電車に迫る勢いだ。
陸唯「あいつ…あそこまで早いのか?」
光隆「(あの海賊、父さんの言う通り漁船のふりしてあがった。人の苦労を潰すって、絶対に許さない‼️)」
最早陸唯は自転車を使っても追いつくことはできない、海賊はイカ釣り漁船から散々略奪した後素早く北へと逃げていた。だが、光隆が見せた驚異的な走りはそんな漁船へと迫る。
海賊A 「これで漁港に卸せば」
海賊B「たんまり金が入る」
光隆「そんな事…」
海賊A・B「ん?」
光隆『まかり通る訳ねぇだろ‼️』
堤防の端を使って踏み切ると、海賊のモーターボートへと迫る。そして強烈な水圧砲を投射する。
海賊A「クソ、何だあの小僧」
海賊B「ば、化け物だ」
海賊A「スピードを上げろ、あのまま海の藻屑になるはずだ」
だが、そんな海賊の希望的観測は一瞬のうちに砕け散る。光隆の“水を操る力”には海の上を、まるで水中翼船のようにウォータージェットで飛ぶ力があるのだ。
光隆「父さんは言った、他人のものを盗むこと程ダメなことは無ぇ!!」
海賊B「何で沈まないんだお前」
海賊A「くたばれ!」
海賊は無反動砲を取り出すと、光隆に向けてぶっ放す。だが光隆はこれを横に逸れて回避すると、そのまま回転してしぶきを作り出す。
光隆「これでも喰らえ‼️」
しぶきが大きくなり、モーターボートに迫る。最早、波が襲ってきたようなものだ。特殊能力で硬化された横波の前には、武装漁船の船体を作る繊維強化プラスチックなぞ紙切れに等しい。
海賊A「うわぁぁぁ!」
海賊B「畜生めぇぇ!」
光隆「これで懲りたら、2度とやるんじゃねぇ」
光隆による海賊退治が終わったのを見計らい、カリブディスや周囲に展開していた巡視船が近づく。光隆の海の上に入ってからの能力の使用はすぐに興一に気付かれていたようで、本部に巡視船の手配を頼んだのも彼だった。
海賊A「一攫千金が…」
海賊B 「これで完璧だったと思ったのに…」
成茂「お前ら良い度胸してるなぁ、ちょっと面貸せや」
興一「流石に海賊相手とは言え罪刑法定主義に乗っ取って処分を下さないとダメです、貴方も最悪逮捕しますよ」
成茂「ちぇー、それよりもお前の弟子中々に強えじゃねえが。」
興一「本当、いつの間にか海賊を退治してたとかヒヤヒヤしましたよ。」
成茂「ちな、どんな奴なんだ?」
そこに、一部始終を見ていた陸唯も合流する。
陸唯「あいつはとにかく海が好きで、目を離したら海岸線をずっと走っているか海の果てまで泳いでいってしまうんじゃねえかって心配になる。だから、俺が引き留めてやんなきゃいけねぇんだ」
成茂「何か重力感じるな」
興一「能力使ってませんよ、地球の質量だけかなと…」
陸唯が割と光隆に重めの感情を持っていたことが興一にバレたその頃、光音は光隆を介抱していた。
光音「海賊を船の上から攻撃するのはまだいいよ。だけど、海の上まで追って沈めるって流石に危険だよ光隆…」
光隆「でも自分で獲れば良いのにひとから奪うなんて、イカも確かに生きていて食べられたくないだろうけど、ズルは許せなかったんだ。」
光音「だったら海護財団か保安庁に電話すれば…」
光隆「やだ、自分でやった方が手っ取り早い」
光音「私は心配なの、光隆が私の知らないところで変なことに巻き込まれて大変なことにならないか。」
光隆「大丈夫だ、そうなっても。俺は強いしこれからも強くなるから。」
光隆はただ海が好きなんじゃない、海と海に生きる生き物、そして人間の調和が好きなんだ。光音はこの日光隆の海が好きな理由を改めて知ったのだ。
光音「(陸唯が引き止めようとするならば、私はそれを断ち切って光隆と海の上を渡り続ける。絶対に)」
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