敷島の初日-4
果苗「勝負辞め、光隆君の勝利!」
審判の声が甲板に響く。
この勝負は彼女曰く、特殊能力者の中でも運動神経の良い2人だからこそ出来た完成度の高い戦いだったという。
………
時を同じくして、興一が敷島第7フロートで景治と面会していた。
景治「いらっしゃい、弓張興一科学技術副本部長。」
総司令とは言えども、実は景治はかなり物腰の柔らかい人物であった。しかしその藤色の澄んだ瞳の中にはとてつもない覚悟が見える。
興一「総司令、能力術学校の生徒の報告書と例の肥前大空洞第二層に関する第5次報告書です。」
景治「ありがとう、いつも思うけど君は本当に凄いね。」
興一「いいえ、貴方の母さん…いや師匠のお陰です。」
この雰囲気から2人は旧知の中であろう事は察する事ができる。しかし、それを邪魔に思っていた人が居た。
イズナ「カゲハール、そんなショタコンと喋ってる暇あったら休暇取って一緒に何処か…月にでも行こ〜よ?」
興一「し、失礼だな君も本来ならJKの癖に…!」
景治「そんな事よりも、君に頼みがある」
興一「なんでしょう?」
…………
……
興一が戻って来た後、光隆と光音が艦橋に呼ばれた。
光隆「興一さん、どうしたんですか?」
興一「お使いに行って欲しい」
光音「何を買いに行けばいいの?」
興一「例のチョコクランチバー6箱と1箱100円のお得用消しゴム、そして有田焼のお皿全員分、2万円あげるから余った分好きに使っちゃって」
光隆「そんなに!」
光音「いいんですか?」
興一「うん(景治司令に指示されたのだけど、一体何故なのだろう?)」
………
そして敷島メガフロートの特性上、居住区が高い所にありそれを幅の狭い犬走りと言う海岸部(テニスコートとかがある)で囲っている。端から1kmの所にはメガフロートを貫く運河が東西に2つあり、漁船や水上バスが行き来している。
敷島の町はいくつかの地区に分けられていて、世界中の名物やお土産だけでなく、街並みごと再現されているすごいエリアだ。
光隆と光音は、そんな町に足を踏み入れた。
光隆「すげぇ、時代劇みたいだな!」
光音「本当、どうやら2年前の大河ドラマのロケ地にもなったみたいよ!」
光隆「へぇ、凄いなぁ」
カリブディスが居る桟橋があるのは日本町地区と言って、和風建築が沢山並んでいた。ここ1番の名所“おさかな横丁”は活気のある商店街で、江戸時代の日本橋…と言うより小江戸こと川越を彷彿とさせる街並みだった。そしてその直下には魚市場があるようで、敷島全体だけでなく日本全国に魚を出荷しているようだ。
光音「(光隆もデートとしてみてくれてるのかな?)」
光隆「見てみて、近海で取れたビンナガだって‼️」
光音「」
光隆は敷島に来る前、金沢八景や弘明寺時代から終始こんな感じのテンションなので、流石にもう頭を抱えるしかない。されど、光音はこれからも果敢にこのニブヤロウにアタックを続ける。
幼稚園の頃から、光隆は周囲を照らす太陽だった。スポーツをやらせれば1人を除いて比類する人は居ないし、困っている人が居ても見捨てることはない。そして、彼はお父さんのような立派な“海の男”になる事を目指しているみたいだ。その海に向けられる情熱は、南国ナウルを真上から照らす太陽のようだった。
………
2037年、馬堀(まぼり)海岸。
私はお母さんに連れられてこの砂浜に来た。私は海なんてそこまで好きでもなかった、でも女の子はキラキラしたものに惹かれるの。そこで、砂浜に置いてあった青くて透明な“何か”が気になってそこへと行こうとする。
「なんだろう」とそれの元へ2mくらいの所まで近づいた所で、波がそれを連れて行ってしまった。だけど、波打ち際に比べたら割と離れていて少し驚いた。その横で、海のような目をした髪の毛が短い女の子に遭遇した。
「あの子、カツオノエボシは人を殺す毒を持っているんだって。でも、海に居る怖いサメとかから身を守るために、必死に頑張った証なんだって。」
彼女は、そう言いながら波打ち際へと入って行く。そして水面に足をつけると、海のお水が急に柱を作ってかれを包み込む。
その水の柱から「おいでよ」と彼女は私に手を差し伸べた。私は少し怖かったけど、興味で彼の手を取った。すると自分の体がふと持ち上がり、まるで天使になったのかなと思った。
その後、何故か海の中で呼吸が出来たから海の中を2人で探索した。アマモやサザエ、おさかなの群れが私の前を通り過ぎて、海の中は青くて、綺麗で神秘的だった。私は、この景色を見せてくれた彼女がとてもかっこよく見えた。
今思えば、この時点で彼女に惚れてたんだと思う。私をカツオノエボシの猛毒から守ってくれた、そして海の素晴らしさを教えてくれた。こんな事を幼稚園の先生に話したら、熱中症を疑われたり除霊に行ってと勧められた。でも、母さんは違うと言って跳ね除けて、また馬堀海岸へと連れてってくれた。
彼女は私の家の近くに引っ越した、それから幼稚園に一緒に通った。その時、光隆が女の子じゃなくて男の子だったことが分かった。
そしていつの間にか、彼の天真爛漫な性格に惹かれてゆく人が増えた。その中に埋もれないように、私は必死に彼にアピールしたけど、幼稚園児や小学生のアピールは可愛らしいもので、彼の核心的な部分に刺さったのかは分からない。それでもあの景色を見せてくれた光隆を私は好きであり続けた…。
………
光音「海の中、また見たいね」
光隆「どうしたんだ?」
光音「ううん、何でもないよ。じゃあアイスでも買って、中央公園に行こう?」
光隆「アイス?やったぁ!!」
彼女たちはビルよりも超巨大な木に登り夕方に迫る敷島を眺めていた。巨木の幹の周りには上に続く階段が設置されていて、しかも展望台まであると言う、おとぎ話に出てくる様な存在だった。
光隆「すげえ綺麗だなぁ…‼️」
光音「また一緒に行きたいね」
光隆「あぁ、今度は陸唯たちも…」
光音「」
第五フロートの南西方面にある8番フロートから伸びる巨大なレールを光隆は双眼鏡で発見した。
光隆「見ろよあれ!」
光音「マスドライバー!」
光隆「これを見て欲しかったのかな」
マスドライバー、これは超高速のリニアモーターカーをそのまま射出する装置とも言えるが、これは人類が昔から夢見てきた宇宙へ向かうためのロケット以外唯一の答えと言えた。
光隆「打ち上げされるぞ!」
光音「うん!」
大きなSSTOがレールの上にセットされ轟音と共に急加速して空へと飛んでいってしまった。ロケットの発射ほど派手ではないものの、光隆はそのスタイリッシュな発射に目を奪われていた。
光隆「すげぇ、磁石の力で飛んで行っちゃったよ」
光音「やっぱりロケットの方が私は好きかも」
光隆「比べるもんじゃ無いと思う、どっちも人類が作ったすげぇもんだからさ」
光音は、もしかしたら思い人をこの“ふとした一言”で傷付けてしまったかもと思い口をふと手で覆うが、気付けば光隆は居なくなっていた。
詰んだ、彼女はそう思って呆然としていたが後ろから光隆がサイダーを持って走ってきた。
光音「こ、これは?」
光隆「喉渇いただろ?あげるよ」
光音「あ、ありがとう!」
彼と一緒に、大きな木の上で飲んだサイダーは、少し空の味がした気がした。
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