敷島の初日-2

興一「光隆、あの街が…君が守った街なんだよ」

 光隆「綺麗だ…」

 光音「夜空…余り期待できないか」

 光隆「そうしょんぼりするなよ」

 興一「さてと…」


 再び放送が流れた、夕飯の時間だ。


……………

……


 光隆「すげぇ‼️」

 光音「ソースの色が濃い」

 興一「弓張家直伝、ミートソースパスタ。僕もかなり久々だから実家に連絡しながら作ったよ…」


 テーブルの上にはべらぼうに美味しそうなスパゲティが並び、興一がイチから作ったと言うミートソースの香りが船全体に広まり、見た目としてもソースの上にバジルが乗る事で彩りも豊かな一品に仕上がっていた。


 光隆「いただきます‼️」

 光音「わぁ…凄い!」

 果苗「ふむむ、興一くんにしてはやるじゃない」

 興一「果苗まで…まぁいい、みんなはどう?」

 陸唯「これならバクバク食べれる!」

 カンナ「こんなの初めて‼️」

 チョウナ「パクパクですわ‼️」

 興一「良かった、みんな喜んでもらえて。」

 掛瑠「(ここまでパクパクってなるものか…ん?これは…)おいしい」

 祐希「(久々にここまで頬張るとは…)」


 お皿にたんまり盛られたミートソースパスタは割と早くに机の上から消えていた。

 “そんなにパスタが好きになったか少年たち”と言いたくなったが、興一が産まれた年に丁度公開された映画の事なんて彼らに通じるのか不安であった。


 光隆「掛瑠、久々に俺が洗ってやろうか?」

 掛瑠「さ、流石に自分でできますって!」

 陸唯「ほーん、やっぱり良いもの使っているんだなって」

 興一「(やっぱり、純真無垢な少年って最高だなぁ…でもここの少年たちは凄いぞ、最高だ。既にインドぞうなんてぶちのめす、ターミネーター(の様な存在)だからなぁ…)」


 体を洗っている光隆たちを見る興一の目は、まさにエロオヤジの目と言っても過言ではなかった。だが、彼の容姿をしっかりと思い出してほしい。

 彼は先生ではあるものの、見た目自体は光隆たちの年齢の少年と変わりないのだ。そんなウォッチングの最中、興一に電流走る。


 『ボクの“親友”をいやらしい目で見るな』


 興一は混乱し、更には上からタライが落ちてきたかの様な衝撃を受け気絶してしまう。


 掛瑠「…興一さん?」

 光隆「やべぇ、沈んでる!」

 陸唯「お前ら引き上げるぞ!」


 一同は即座に興一を引き摺り出し、脱衣所へと運び込む。そして、ちょっとしたベンチに横たわらせ掛瑠が能力で作った氷を洗面台にかけてあるタオルで包み興一の頭に乗っけた。


 掛瑠「…兄さんと陸唯は寝巻きを着て、それまで氷で冷やしておきます。」

 光隆「分かった!」


 光隆と陸唯が着替え終えると、掛瑠が着替え始め光隆がキッチンからお水を持ってきて陸唯は魔法で服を着せた後能力で涼しい風を送って興一を冷やしていた。


 掛瑠が着替え終わったあたりで騒ぎを察っした女性陣が入ってくる。


 光音「慌ててたけど一体何があったの?」

 光隆「興一さんが倒れた」

 果苗「興一くんまさか…」

 掛瑠「…持病とか?」

 果苗「この人、実は…ショタコンなのよ。流石に相浦兄弟with陸唯くんは流石に刺激が強かったか…」

 陸唯「弓張ってやっぱヤベーやつばっかりか?」

 果苗「私こいつの半年後に生まれた妹だけど、正直次期当主(こいつ)が色々異色なだけよ」


 優しい心を持ちながら鬼神の如く勇敢な興一さんでも落ち度はあるもので、少年に対して変な気を抱く存在だったのだ。


 興一「あの…色々と酷い言われようだけど、流石に彼らに酷いことはしません。そんな事をする奴は人間のクズだから」

 果苗「…まぁ、この次期当主変態だけどこんな変態に付き合える人だけこの船に残ってほしい」


 果苗によるどうにかの弁明は、彼らにどう受け止められただろうか。弓張家の当主がここまでアレな人間だと世にバレたなら、いくら名士であろうと没落は避けられない。


 掛瑠「…なら、誠意を見せてくださいよ」

 祐希「掛ちゃん?」

 掛瑠「幾ら弁明したとしても、人間と言うものは信用ならない。レトキシラーデに襲われた時に助けようとしてくれたのは確かに凄かった。特殊能力者として尊敬できた。でも、人間と言うものは本質なぞ振る舞い次第で誤魔化せるもの。やはり、大人を少しでも信用しようとした俺が馬鹿だった。」

 祐希「掛瑠…」


 掛瑠の冷徹に、されど的確に本質を突く掛瑠の発言に周囲は一瞬沈黙した。


 陸唯「確かに興一さんはやましい気持ちはあるかも知れない。でも、人間ならそんなの誰でも持ってるだろ!」

 掛瑠「それをコントロール出来ないから風呂なんて一緒に入ったんだろう?」

 陸唯「でも襲わなかった、人間が守るべき最低ラインは守ってるんだ。イギリスは、正直言って治安悪いよ。人間として最低限な部分を守らない輩も割と居るから…。」

 掛瑠「陸唯は感覚が鈍って…」

 光隆『お前らちょっと黙れ!』


 白熱する二人の口論を止めたのは、掛瑠の兄で陸唯の“親友”光隆だった。光隆は興一の目を見て何かを感じていた様だ。


 祐希「興一さんの実力は本物で、頭が良いのも本物。掛瑠、確か言ってたよね“ライちゃんは犬だから目の前にお肉があったら食べちゃうけと、人は食べちゃダメって言われたら食べない”ってさ。この理屈なら興一さんは理性のある“人間”だから襲わなかった。そう言う事でしょう?」


 光隆「そうカッカするな。ほら、アイス食え」


 彼はキッチンから持ってきた棒アイスを二人の口へと突っ込んだ。当然、光隆のことだから全員分持ってきているのは明らかで、口喧嘩していた2名を除いては普通に手渡しをした。


 果苗「こんな事もあろうかとチョコクランチバーを買っておいてよかった」

 興一「いや絶対自分がサボって食べたかっただけやろ…」

 果苗「ものはいいよう」


 彼らの喧嘩を止めたのは光隆たちにとっては慣れ親しんだアイスだったが、英国貴族の二人には新鮮に映ったようだ。


 カンナ「なんですの…これ?」

 チョウナ「チョコってことは分かるけど、何?」

 陸唯「おいちょっと待て。前に話したヤキトリと同じだよ、フォークとかスプーンとかを使わずにその楊枝を持って食べちゃえば良い。」

 カンナ「ちょっと、下品ですけど…」

 チョウナ「郷に入っては郷に従う、私の好きな言葉です」


 やはり、文化圏の違いか庶民と貴族の違いか、こう言ったジャンキーな食べ方は習っていなかったようだ。


 カンナ「何ですの…チョコクランキーをそのまま冷やしましたの?」

 チョウナ「聞いていた通り、日本人の食への拘りはデザートにまで及ぶか…」

 カンナ「だれが、どこのパティシエが作ったの?」

 興一「天保製菓だよ、流石に一本あたり30円もしないかな。」

 カンナ「嘘でしょ…」


 カンナが驚くのも当然だった。海外の甘味は高級な物でも、割と濃厚でかつ甘過ぎるものが多い。しかし日本人に見つかった結果と言おうか、チョコレートをここまで繊細にかつ大胆に味わえる様な一品は彼女の人生に於いて無かったのだ。


 チョウナ「果苗さん、もう一本ある?」

 果苗「そうだ、明日買い出しに行ったら?この街を散策する良い機会だし」

 光隆「賛成!前に来た時は水族館しか行けなかったから」

 光音「この街、本当に凄いところだよ。私が案内するから」

 光隆「よーし、朝早くから出発だ!」

 興一「待て待て、授業はやってもらうぞ?」


……………

……


 話は再び海護財団本部へと戻る。幹部の異動に関する折衝はもう終わっており、残っていたのは入社早々夜勤を命じられた不運な士官だけだった。


 要「里帆さん、流石に疲れましたね…」

 里帆「通信管制、この時間帯はそこまでだからね…そっちは無人パトロールボートの運用だけど、平気?」

 要「一応、分野ではありますから。」


 雲仙要、北海道の酪農家出身のプログラマーで興一に助けてもらった人間の一人だ。そしてシフトが同じになった波佐見里帆は地方出身の、一般的な庶民であった。

 そんな新入りが休憩していた所で、水を差すように上官が現れる。


 関宿「よぉ新入り。上からの指示なんだが、敷島の内側に居る27号パトロールボートを外洋へと移動させてほしい」

 要「え?しかしこれ、巡回ルート的には…?」

 関宿「関係ない、やれ」

 要「は、はい!」


 関宿理板、彼は正直言って割とステレオタイプな中間管理職のようだ。上司にはへり下り、部下には厳しいありがちなクソ。是非とも要と里帆には頑張ってほしいものだ。


 オペレーター「こちらチヌクルム4号機、本部ヘリパッドへの降下を許可されたし」

 里帆「了解、チヌクルム4着地ガイドに従い降下せよ。」

 壱岐成茂「なぁ、あそこにチヌが居るけど今日って敷島でのガサ入れあったか?」

 オペレーター「いいえ、存じません」

 攻撃手「同じく」

 成茂「なんか引っかかんなぁ…」


 壱岐成茂、科学技術本部の第一試作兵装実験部隊のリーダーで彼は賢三世代の中で最もマッチョマンだと言う。


…………


 翌朝、マフィアへのガサ入れ計画が記載された書簡が興一元へと届く。


 興一「暫く、この街のマフィアが騒がしくなりそう。」

 弓張政一「やはり、そう上手くは行かなかったか…一視同仁な街を作ろうとしたワシのプラン、見事に国連の政治屋どもに利用された。じゃっと子供たちは守る。興一、手伝っちょくれ。」

 興一「はいはい、プライベートでは方言が出るんだから…。」


 弓張政一、興一と果苗の父親である。今は弓張家・弓張重工の半隠居人と言う扱いだが、昔はCEOとして剛腕を振るっていた。


 政一「大きな1つの政治団体として纏まるから、こう言う草の根が軽視される。」

 興一「それが言えるのは政治力も財力もある父さんだけ、必死に善意で動いてる人間を貶してる事になりますよ。」


 興一と政一の話を縁側で聞く者がいた。相浦の弟、弘明寺カルテットの“4人目”掛瑠だった。


 掛瑠「(そんな夢物語を、弓張と言う大財閥の主だった存在が…。同じルーツを持つ存在であれど、違いを“洗い出して”それを根拠に、対立を挑む。それなのに…)」

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