光妙の鋼-3

 興一「戦況はお分かりですね、松浦景治総司令?」

 松浦景治「LA15が最もこの海域で安全な場所ではあるが、担保すべく弓張興一准将…いや、海護財団トップクラスの能力者である彼を付ける。光隆、そして光音。この船に乗って欲しい。」


 カンナ「中々の美男子が…」

 チョウナ「こういうのが好きなの?」

 光音「…姉さん!」

 カンナ・チョウナ「!?」


 松浦景治、海護財団の総司令であり光音の姉。映美と祐希からしたら従姉に当たる存在であった。


 興一「つまり、出撃させたいと?」

 景治「生憎、セイファート級全艦の近代化改修中かつ、守備隊は海賊騒ぎで相模湾や紀伊、伊豆半島に出払っている。故に先に完成したLA15“ミライ”に乗って戦うのが得策であろう。」


 目の前に現れたのは、藤色の“異形の”巨大戦艦。


 光音「“ミライ”…」

 光隆「すげぇ…これ、本当に乗っていいの?」


 興一「それなら僕が…」

 景治「LA15は君にはコントロールできなかった。だから、光音と光隆にお願いしたい。君もそのつもりだからこそ、他の子達は“学校艦カリブディス”に逃しておいたのだろう?僕は君にしか出来ないと思っている、期待している。」


 光音と光隆は困惑していた。自分しか、今の状況では敵を倒せない。取り分け光音は自分を数年もほったらかしていた姉に対してハラワタが煮え繰り返っていた。


 光音「姉さん、」

 景治「…何だ?」

 光音「帰ってきたら、絶対に殺す。」

 景治「帰って来てから言いたまえ、まずは乗れ」

 光隆「何で…こんなに仲悪いんだよ、景治。」

 景治「僕も昔の様に接したい、だが…」


 警報音が鳴る。メガフロート上部要塞群が艦砲射撃を開始、更に側面から来るレトキシラーデに対して重VTOLや保安部仕様だが無人艦隊にいるロゼア通常動力型が対抗。海護財団本部の南方にバトルフィールドを形成する。


 しかし、敷島の総本部が襲われると言う事は危急存亡を示す。LA15に乗り込んだ弘明寺カルテットと興一は発進準備に取り掛かっていた。


 掛瑠「ここでやらなければ皆まで死ぬ…」

 祐希「掛瑠…」

 興一「機関正常に作動、全システムオールグリーン。」

 光隆「あれ?」

 光音「どうしたの?」

 光隆「何か懐かしい気がして」

 光音「私もこの船乗ったのはじめてなのに?」

 光隆「体がふわふわする…」

 光音「熱中症?」


 興一「もしや…艦のコントロールをCICに移行、みんな艦橋から離れろ!」

 祐希「一体何で?」

 興一「船が目覚める、ここに居たら死ぬぞ!」

 掛瑠「でも兄さんと光音さんが!」

 光音「私はここにいる、居ていい気がする」

 興一「…っ仕方ない、閉めるよ」


 ハッチが勢いよく閉まると同時に、光隆の身体が翡翠色に発光。この光景に、彼女は何やら見覚えがある様だった。


 波佐見里帆「LA15、起動しました。」

 要「出撃ハッチなどの操作権限がLA15に移行、上位のコードです!」

 景治「目覚めたか。人類の明日を築く、光妙の鋼が…!!」


………


 戦況は最悪だった。夜空に暗雲が立ち込める中、レト戦役の序盤にその場しのぎに建造されたロゼア急増型ではメタリックな巨大エイリアンに通用する事は無かった。自慢の機動艦隊すら設備の不具合で出せぬ危機的状況の中、一筋の光が戦場を引き裂く。


 光音「すごい加速、本部の加速装置は使えなかったはず。これがLA15の、“ミライ”の力?」


 光音が驚く中、光隆は何かに取り憑かれた様に立ち尽くす。メガフロートの発進口が開かれ、LA15は海中へと飛び出す。しかし速力はむしろ爆発的に上昇、周囲の海水を蒸発させるほどだった。

 刹那、LA15は急速に艦首を上げ巨大な水柱を作り出す。本機関の轟音が鳴り響き、一気に空中へと躍り出た。


 光隆「うぉぉぉぉぉぉお‼️」


 光隆の雄叫びと共に、メガフロートへと肉薄するレトキシラーデの群れに対して陽電子砲の大砲撃をお見舞いする。その威力はロゼア型の荷電粒子砲とはまるで違い、レトキシラーデの外骨格を一撃で食い破りコアを蒸発させ蹂躙する。


 興一「訓練もなしに…リミッターを10段階中2段階解除した?」

 掛瑠「レトキシラーデの群れを、半壊させた?」

 祐希「こんなの、化け物だ」

 光音「強い、何で光隆は乗れてるの?」


 光隆は何も答えてくれない。やはり催眠状態になってしまったのだろう、だが狙いは確定しており操縦も何やら光隆らしさがあると光音は悟った。

 群れの半数の喪失と言う危機にレトキシラーデが複数、LA15へと突進を仕掛け後方からまた別種が援護射撃を行う。


 レト「キィィィィ!」

 光隆「遅い」


 突進してくる全てのレトキシラーデを躱し、後部のリニア砲が火を噴く。


 興一「まさかフェンリ…いやサンパチか?」


 放たれたは燃料気化弾頭、外骨格へ着弾した瞬間熾烈と言う言葉すら生温い大爆発が分厚い外骨格や筋肉を吹き飛ばしコアをも溶かし尽くす。コアの誘爆は、他のレトキシラーデを巻き込み大爆発を発生させた。


 掛瑠「気化爆弾、予想以上の効果」

 祐希「知ってるの掛ちゃん」

 興一「待て、リミッターを1に下げた。まさか…」


 光隆「プロトゲイザー砲、発射用意。」

 光音「まさか…母さんの本に書いてあった、“星団破壊兵器”を?」


 いつしか敵の攻撃目標が敷島自体からLA15自体へと移っていた。奴らもビーム砲を使うが、通常のロゼア型フリゲートや一回り大きいノーザンプトン型防護巡洋艦も打ち抜く能力がある。しかしLA15などいわゆる「ライラック艦隊」はそんな凄まじいビームをまんまと跳ね返してしまう。


 そして海護財団が世界を守る“隠された切り札”こそ“プロトゲイザー”であり、リミッター2の全力で放てばオーストラリア大陸を蒸発させる危険性がある代物だ。ビーム砲を未だ健気に撃ってくるレトキシラーデに、全てを無に帰す一撃が放たれる。


 光隆「プロトゲイザー砲、撃て!!」


 甲板二段目に存在する大筒みたいな存在から、暗みを帯びたコバルトブルーの強大なエネルギー流が海をかっ裂き、残るレトキシラーデ全てを洗い流し一筋の光とそれに続く爆炎と共に無へと還してしまった。


 光隆「はぁ、はぁ…」

 光音「光隆?大丈夫?」

 光隆「あ、あぁ…」


 光隆が体制を崩しコックピットへともたれ掛かる。それと同時にリミッターが元の数値に戻り、LA15は通常状態へと戻る。


 興一「止まったか」

 掛瑠「兄さん達は?大丈夫なんですか?何で避難させなかったんですか?」

 興一「何故か起動コードを持っていた。いや、まさか乗った瞬間艦自体がコードを与えた?」

 祐希「それってどう言う?」

 興一「本機関型だ、どんな非常識が起こってもおかしくない。だがこれだけは言える、早すぎた。でも兎も角二人も後でメディカルチェック、僕は艦橋の様子を見てくる。」


 興一は二人を残し、艦橋へと全速力で駆け上がる。


 光音「光隆。ねえ光隆、起きて!」

 興一「2人とも、無事でよかった…LA15は強い意志を、望みを持つ人間にしか、動かすことはできない。彼が暴走したのは多分、LA15に取り憑かれていたのだろう。見込まれてるな、この怪物に」

 光音「光隆は、助かるんですか?」

 興一「当然だ、でも君にも眠ってもらう必要がある。すまない」

 光音「!?」


……………

……


 興一によって医務室に運ばれた光隆と光音。景治は興一の案内でそこへと入る。


 景治「興一さん、二人は…」

 光音「チェストォォォ!!」

 

 その鬼神の如く覇気は武士そのものだった。だが景治は余裕の表情で瞬時に懐から扇子を出し光音の攻撃を受け止める。


 光音「…!?」

 景治「…で、この程度か?」


 何と手持ちの扇子で病床に突き飛ばしてしてしまったのだ。


 イズナ「カゲハール、幾ら妹とはいえこいつ姉に刃物向けたから拘束した方が良いよ」

 景治「いや、イズナのいう通りではあるがこれは「総司令」としてではなく「姉」としての僕の落ち度だ。かならず落とし前は付けさせる。」


 懐から、光音と光隆にペンダントを手渡しした。片方は圧縮空間筒と呼ばれる母の形見で景治も同じものを持っていた。光隆に渡されたのは、謎の緑色の宝石であった。


 景治「強くなれ、僕を超えるくらいに。僕と同じ領域に、最強と、究極の能力者に。」

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