光妙の鋼-2

光隆「何だ!?」

 掛瑠「…葉山賊、出て来ましたか」


 葉山賊、元は“葉山族”と呼ばれる暴走族の一派として付けられていた総称だったが、今となれば連絡船や漁船相手に海賊行為を働く連中の総称となっている。


 掛瑠「…倭寇と同じですね、倭国民…つまり日本人、恐らく松浦党と呼ばれる武士団の一部の元寇への報復攻撃として“倭が○○を寇する”と言う記録から取られたらしいです。」

 チョウナ「松浦って…申し訳ないけど」

 掛瑠「…うちは相浦掛瑠、うちらの目の前に居る頭髪が霜色の二人が“敷島松浦家”の子女です。」


 敷島松浦家、松浦党から分派したとされる一族だが相神浦氏と共に滅んでいた筈だった。しかし松浦半島の山岳地帯にて生き延びていたとされている。


 チョウナ「敷島松浦家…まさか!?」

 光隆「そんな事より、このまま船が襲われたら危ねえ。奴らを

 光音「仕方ない、私も…」

 陸唯「お前ら…全く変わんねえな、行くぞ!」


 周囲に何やら船が集まって来た。しかもその船には機関銃や無反動砲など何やら物騒なものばかり搭載されていた。


 海賊A「怒髪天!同士を殺したあの船を許すな!!」

 海賊共「うおおおおお!!」


……………

……


 オペレーター「ゆ、弓張興一船長!」

 弓張興一「どうしたんだい?」

 オペレーター「例の子供たちが、甲板に出て包囲する海賊に攻撃を開始。」

 興一「船足で逃げ切れると思ったが、どうにも無理か…」

 オペレーター「船が故障し、改修中で武器を下ろした船を級に連絡船に寄越したのが悪かったのでわ…って興一さん!?」


 オペレーターの報告が終わる前に、船長…いや“艦長”弓張興一は船を動かすブリッジの上に登り見渡す。複数人の子供たちが真ん中の甲板に集まっていた。


 祐希「敵船、右に5つ、左に7つ!」

 チョウナ「そう言う時は“敵艦見ゆ。右舷に5隻、左舷に7隻!”いいね?」

 陸唯「見せてもらおうか、4年で上げた実力とやらを!」

 光隆「おうよ…お前ら!初陣だ、盛大にやるぞ!!」

 光音「…!!」


 最初に攻撃を飛ばしたのは光音、掲げた模造刀の周りを水が取り巻く。そして敵船に向けて、ウォーターカッターの一撃を撃ち込んだ。“アクア・プレッサー”その一撃は全長60メートル程の強化プラスチックの船では軽々と真っ二つに出来る。


 光隆「光音に続く、おんどりゃぁぁぁ!!」


 光隆は移動に噴射を使うのは得意だが攻撃となると打撃型になる。拳に水を纏い、パンチを速射。水の塊が大量に漁船を偽っている海賊船に直撃、破口を多数開けて転覆する。


 陸唯「左舷は粗方やったか…ならば!」


 陸唯は熱エネルギーの塊をぶつけ、海中でエネルギーを解放し液体を気体にする時の体積の増大で武装漁船を何隻も葬った。


 陸唯「しまった、2体取り逃がした!」

 カンナ「shield of falling stone!!

 チョウナ「マルチレンジ・ロングボウ!」


 落石の如く盾が武装漁船の甲板に落ち、質量と運動エネルギーで船底を突き破る。更にロングボウを飛ばし乗員を串刺しにして殺す。


 陸唯「こっちは粗方片付いたぞ」

 光隆「殺す必要は無いだろ、船沈めればさ」

 光音「海に投げ出された瞬間、大概の人はサメの餌食でしょうに」

 祐希「まだ後方から敵多数」


 いつのまにか船尾に移動していた祐希から連絡が入る、更に後ろからも団体様が来ていたのだ。


 光隆「任せるぞ!」

 掛瑠「今はこれが…精一杯です」


 後方から迫る武装漁船の武器を氷結させ、更に甲板及び船底をツララに置換して破壊。全て航行不能にしてしまった。


 祐希「掛ちゃん…」

 掛瑠「…いつも身勝手で、申し訳なく思っています。」


 片手に持つコーヒーのペットボトルを振るわせながら、そう呟く。祐希はその視力を生かして周りを見渡せば遠くに大きな船が幾つか見える程度、そして漁船は連絡船を追うものではなく魚を追っていた。


 興一「大したものだ…逗子の海賊を悉くやっつけた。」


 彼らの戦いぶりを見て、何やらこの男は満足げに“森の紅茶”を海の上で飲むと言う“背徳的行為”を行なっていた。


 祐希「いやでも、遠くからこっちに来る船…その後ろでパッシャンってなってる」

 掛瑠「どう言うことですか、祐希?」

 祐希「レトキシラーデ多数、左舷後方に視認」


……………

……


 光音「レトキシラーデ!?」

 光隆「何だっけ?」

 光音「簡単に言えばエイリアン、でもマゼラン銀河まで空気清浄機を取りに行く時に出てくる青い人達じゃなくて金ピカでねじ切って攻撃してくる様なタイプ。」

 カンナ「どう言う事ですの…?」

 チョウナ「だから日本のサブカルも履修しとけって言ったでしょう、それなのに高尚(と思い込んでる)クラシックばっかり聴いて聖書やアーサー王物語とか読んでばっかの頭でっかち」

 カンナ「黙りなさい」


 興一「この船では、彼らでは奴らに勝てない…そして僕も、守り切る事は無理だろう。海護財団本部へと案内します、琴子さん…」

 オペレーター→吉野琴子「はい、准将」


 日本海溝の真上に存在する敷島第七メガフロート、“海護財団”と呼ばれる国連により半ば公認され、国連軍や各常任理事国にも内政・軍事介入権を持つ超法規的特務機関の根拠地だ。


 そのドックにオーバーカムが入ってゆく。どうやらこの船は元々海護財団の船であり、臨時で連絡船としての任務を帯びていた。


 興一「さっきの戦いぶりはすごかった。」

 光隆「お前だれだ?」

 興一「改めて、僕は弓張興一。海護財団で准将をやらせてもらっている者だけど、今日から敷島能力術学校の先生になった。」

 光隆「という事は…俺たちの先生?」

 興一「そうさ、相浦光隆くん。だけど今はかなり危ない、金沢瑞景に住んでいた子達を除いて先にあそこの船“カリブディス”に移ってほしい。」


 オーバーカムの横に停泊していたのは、全長190メートルはあろうかと思われる大きな船。試作航空巡洋艦“カリブディス”との事だ。


 陸唯「じゃあ、光隆達は?」

 興一「安心して、僕が守る。君のことも。だから横にいる琴子さんのいう通りに動いて欲しい。」

 琴子「吉野琴子です。教員志望だったのに、何故か海護財団に来てしまいました。」

 祐希「先生じゃ無いの?」

 琴子「いや…ちょっとね」

 弓張果苗「私の可愛い部下の事、あまり詮索しないで?」


 後ろから現れたのは弓張果苗、海護財団の科学技術本部長。それでいて興一さんの妹であった。


 果苗「はじめまして、特殊能力者の皆さん。興一くん、彼らを守って。」

 興一「当たり前だ。それと…」


 横にいる試作塗装を意味する赤色に塗られた船を一瞬だけ見た。


 興一「この船は、あの時の“ゆうぐも”と同じだ。佐世保の弓張重工に送ってくれないか?」

 果苗「もう…いや、ちょっとイングランドとの取り引きに使っててね…カルメア級系統の船が欲しくって。いい?」

 興一「妹、いや科学技術本部長の命令なら聞くしかないね。」


 その時、CDC(海護財団の司令室)から連絡が入る。


 雲仙要「歌浦直人羽合探題司令、敵大型と差し違えたとの事です。」

 興一「なんだと!?」

 果苗「自爆特攻?ハワイの敵をこっちまで引っ張ってきた?」

 興一「包囲下のハワイを救うためか…最も危ない場所が安全な場所と言ったが…覚悟を問わねばならない。」


………


 再び光隆たちの前に興一が現れる。その横には白髪長身の、威厳を備えた少年が現れた。


 興一「戦況はお分かりですね、松浦景治総司令?」

 松浦景治「LA15が最もこの海域で安全な場所ではあるが、担保すべく弓張興一准将…いや、海護財団トップクラスの能力者である彼を付ける。光隆、そして光音。この船に乗って欲しい。」


 カンナ「中々の美男子が…」

 チョウナ「こういうのが好きなの?」

 光音「…姉さん!」

 カンナ・チョウナ「!?」


 松浦景治、海護財団の総司令であり光音の姉。映美と祐希からしたら従姉に当たる存在であった。


 興一「つまり、出撃させたいと?」

 景治「生憎、セイファート級全艦の近代化改修中かつ、守備隊は海賊騒ぎで相模湾や紀伊、伊豆半島に出払っている。故に先に完成したLA15“ミライ”に乗って戦うのが得策であろう。」


 目の前に現れたのは、藤色の“異形の”巨大戦艦。


 光音「“ミライ”…」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る