第2話 重苦しい生活

 俺はそいつに生活費を渡しているのだが、月の中頃で使い切ってしまう。そして、足りないと催促してくる。生活費を毎月5万渡しているのに、すぐなくなってしまう。何に使っているかわからない。家計簿を付けろというのに、時間がないと言ってやらない。金の計算が全くできない人だからだ。


 家は汚れて散らかり放題。キッチンもトイレも風呂場もカビが生えている。買いだめしすぎて、冷蔵庫の中の物の半分は腐っている。それなのに、ゴミの日に捨てない。やつは朝起きられないから、ゴミ出しは俺の仕事だ。俺が腐った物をビニール袋に放り込んで、自分で捨てに行く。金を捨てているようなものだ。これだったら、毎日弁当を買って食べた方が環境に優しいと思う。


 とにかくすべてが滅茶苦茶。


 こんな汚れた部屋に住んでいながら、家にいると俺に始終触って来る。とにかく、ど淫乱で俺が音を上げるほどだ。情けないけど、俺もすぐに反応してしまう。しかし、そんな女とは子どもを作ろうという気がしない。母親になる姿が想像できない。


 寝室に行っても、ベッドのシーツは月に1回も洗われていない。

 洗うのは俺の仕事。俺は何のためにこいつと結婚したんだろうと思う。離婚したいが、籍を入れてまだ1ヶ月だ。もし、俺が離婚を切り出したら、こいつは死ぬと言って騒ぐだろう。


 俺は次第にうつ状態になっていた。

 実は仕事も大変だった。責任の重い案件の書類をチェックしなくてはいけない。俺が見過ごしたら、会社が大損してしまう。部下たちはほとんどが無能だった。重すぎる何かが俺の肩にかかって来る。高い給料をもらっていても、割に合わないのではないかと思うほどだった。


 電車に飛び込めたら楽だろう。


 会社に行くときに見かけるホームレスを羨ましく感じてしまう。

 すべてを放り出して、ホームレスになりたい。

 仕事も家庭も捨ててしまいたい。

 俺は本気でそう思うようになっていた。


 しかし、簡単に踏み切れるものではない。それまで築いて来た、キャリアや社会的な信用。それを手放したら、もう二度と取り戻すことはできない。


***


 悪いことはさらに続く。気がついたら、妻が俺の金を使い込んでいた。俺が財布をリビングに置いていたのも悪いが、勝手にカードを使って買い物するようになっていた。俺は怒鳴る。あっちは泣く。反省はしてないと思う。怒鳴られることに対して、怖がっているだけだ。


「だって、すぐ買わないと売り切れちゃうから」


俺はそれなりに高収入だったが、住宅ローンの残高がかなりあって、そんなに余裕のある生活はしていなかった。俺が怒ると、やつは泣いて謝る。風俗で働いて返すと言いやがった。


 俺はこんな生活はもう無理だと思った。でも、離婚はできない。離婚すると言うと、多分”死ぬ”というからだ。自分のせいで人が死んだらすることがあったら、俺も後を追いたくなるだろう。


もう限界だった。 


 


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