14.生き人形
マーキュリーがテーブルにティーセット等を置き始めると、有栖とユキも戻ってきた。
「お口にあいますか?」
「はい。とっても美味しいですね」
「フフ、それは良かったです」
マーキュリーが淹れた紅茶を飲み、納はにこやかな笑みを浮かべた。感想を伝えれば優しく彼女に微笑まれた。
紅茶から漂うダージリンの上品な香りが納の鼻に通る。菓子もどうぞ、と言われるも納はお礼を言うと一つだけ頂いた。
実を言うと納はあまり食には拘らない。と言うよりも、食べることにあまり興味がないのだ。ただ勧められたら食べる。そうじゃなかったら食べない。特に空腹で苦しむことはあまりないため食べなくても平気でいられるのだ。
不意に有栖が部屋の周りをキョロキョロし始めた。
「あれ? アイたちは?」
「カノジョラ(彼女ら)は出かけていきましたよ。用事があると言って」
「そっかー。残念、納のことを紹介したかったのになー」
「あの、アイさんとは……」
「私の友達だよ。それとあと、もう一人居るんだけどね。今はいないんだ」
「そうなんですか」
納は納得し、それ以上は深掘りはしなかった。納は棚にある沢山の人形に目をやる。
「ここには人形が沢山あるんですね」
「そうなんだよー! アリスったらねー毎日違う人形と寝てるんだよ。朝も弱いし、ボク起こすの大変なんだからねー!」
「ちょっとユキー! それは言っちゃダメ!」
(友達ってそこまで知ってるのが普通なのでしょうか……)
納はそう疑問に思うも口に出すことはなかった。
「おや? 棚の隙間に何か落ちてますよ……」
「えー? 何々〜?」
納が手袋をはめて、隙間の中に手を入れる。チャリンと金のような音がした。納は構わずそれを取り出す。
鈴の付いたベルト型の首輪だった。
「だめ!!」
突然、有栖が叫ぶ。パシんと叩く音がして気がつく納の手から首輪が奪われてしまった。
「ごめんねー! これ、大事なものだったの。失くしちゃって困ってたから良かった。ありがとう、お兄さん」
「アリス。ねぇ……」
ユキの地を這うような低い声が聞こえる。有栖はビクリと肩を震わせた。よく見ると有栖の表情は青ざめていた。先程まで明るかったが、今では怯えるように肩で息をし始めている。
周りを見ると様子が変わったのは一目瞭然だ。マーチは「知らねー」と呆れ顔になってるし、マーキュリーの方も有栖を見て心配そうな表情をしていた。
有栖は無理矢理表情を変え、納に話を添える。
「お兄さん、そろそろ時間が結構経つし戻った方がいいんじゃない? そう言えば仕事中だったよね? 邪魔しちゃってごめんなさいー!」
「あ、いえいえ。大丈夫ですよ。まだ時間もありますし……」
「でもでもでも、このせいで仕事が長引いちゃったら大変でしょー? 私、お兄さんを団地の入り口まで送っていくー!」
「それもそうですね。あまり長居するのも申し訳ありませんから、これでお暇させて頂きますね」
納は皆にお礼を言って、有栖と一緒に部屋から離れた。
◇
団地の入り口、納と有栖が出会った場所へと戻る。有栖は未だに震えている。
「ごめんね。突然、無理に帰ってもらっちゃって」
「良いんですよ。気分転換になりましたし、有栖さんの友達と会えて良かったです」
「そう、なら良いんだけれど……」
「どうしました?」
先程から有栖の様子が可笑しい。顔を俯かせ納に視線を与えないようにしている。やがて有栖は気まずそうに口を開いた。
「あの子たち、別に悪い方じゃないからね」
あの子たちとは部屋にいたユキたちのことか。
「みんな、ずっと一緒に居たがるの。だから他の友達とも遊べないんだ。お兄さんのことだって話したら最初は不機嫌だったけど、やっと許してくれたんだ」
有栖は続ける。
「ユキたちの機嫌取りしなきゃいけないの。もしかしたら、お兄さんを巻き込んじゃうから」
「そうですか……」
「お兄さん、また来てくれる? 私と少しだけでも良いからお話しよ? 一分でも良いから!!」
「分かりました。では、明日も話しましょうね」
「本当!?」
「はい。ただ、仕事が終わってしまうと無理かもしれませんが……」
納の本来の目的は怪異の遺失物を見つけること。それが最前線である。道草をするのは良いが、仕事に支障をきたすだなんてもってのほかだ。
それでも有栖は元気よく頷いた。
よっぽど苦しかったのだろう。
納にはその苦しさがよくわからなかった。
「では、私はこれで……」
「うん。お兄さん、またね」
有栖はそう寂しげな声で手を振っていた。
〈有栖の友達〉
ユキ→白い髪に大きなウサ耳を持ってる
素直
マーキュリー→紫髪に小さなシルクハットをかぶっている 完璧主義者
マーチ→茶髪に大きなウサ耳を持ってる 人懐っこい
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