13.写真
納は校舎から出た後、近くの歩道をゆっくりと進む。車の走るエンジン音が通り過ぎ、そこからできた小さな風が納に強く当たる。頬にひんやりとした冷たさが伝わった。
暫く歩き、校舎から少し離れた所に駐車場が見えた。そのまま通り過ぎようとするとすぐ側の電柱から誰かが納の方へ飛び出てきた。
突然の登場に納は立ち止まる。その衝撃で、彼が持っている回収箱の中身がガチャリと小物が擦れる音がした。目の前の人物はお構いなしに片手を軽くこちらに振った。
「やぁ! 納さん。また会ったっスね〜」
「
納の視線の先には、数日前校舎で出会った死神の
どうやら四も仕事帰りらしく、途中まで納と同行することになった。気さくで人柄の良い四は納に積極的に話を降らせる。納は頷いたり、時折話題を深掘りしながら二人の会話はどんどん弾んでゆく。
暫くして会話も底を着き、沈黙が流れた頃、四が再び口を開いた。
「納さんさぁ〜。よくもまぁ、随分と凄いことをしたっスねぇ」
「どう言うことですか?」
首を傾げる納に、四は信じられないような視線を送った。そして「はぁ」と疲れ切ったため息を吐く。
「学校に居たあの女っスよ」
「百合音さんのことですか? もしかして見ていたんですか?」
納が言うと、四が頷く。
「まぁ、大丈夫と思ってたんスけどね。でも念の為っスから。影から見てたっスよ〜」
「おや、そうでしたか」
納は突然の監視行為暴露に驚くことなくすんなりと受け止める。声色も上げることなく、あまり興味がないようだった。揶揄うような口調の四に納は平然と次の言葉を発する。
「百合音さん、これで心は少し軽くなったと思います」
「まぁね、少しはマシになったっスよ」
四は鎌を反対側の腕に担がせる。
「写真、捨てさせても良かったんじゃないんスか? どうしてそんな取っておいた方が良いとか面倒なことを言うんスか?」
「どうしてと言われましても……特にはありませんね。それが最善なんじゃないかと思っただけですよ」
「まさか、何も考えてなかったんスか」
納が首を上下に振るとと四は「マジっスかー」と呆れ気味になっていた。
「アンタのことだから何か深い考えでもあるのかと…」
「それにあまり刺激しちゃ大変でしょう? ケジメもつけてないままこちらが勝手に決断するのはどうかと思いまして」
「まぁ、それもそうっスね」
四はヘラりと笑う。
「あの女の憎悪はそれが主体じゃないっスからね
納はゆっくりと頷いた。その反応を見た四は発言を続ける。
「落とし物の件が一件落着しても、まだ解決していないことがありますっスからね」
「そうですね」
不意に納は空を見上げる。先程まで快晴の青空がいつの間にか雲が灰色に染め上げられどんよりとした空気になっていた。何だか雨でも降りそうな天気だ。
「四さん。
「言われなくてもやるっスよ〜。でも、アレはオレ一人じゃ無理なんで、上司に報告するのが先になるけれど……はあ、ダルっ」
そう言いげんなり顔の四に納は苦笑を漏らした。
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