11.写真
建て付けの悪い扉が悲鳴を上げながら開く。その先に通る爽やかな空気が美味しい。そしてやはり、二度見ても屋上からの景色に目を奪われてしまう。
「見た所特に何もありませんね。……ん?」
首を動かしながら何か気になった所がないかを探していく。ふと、目を数回瞬きさせた。屋上の端っこに何かが落ちていた。
気になった納はそれに手を伸ばす。
角先が折れ曲がったノートだった。
「これは、日記……?」
納は日記の表紙に目が留まった。
そこに表記されている名前欄に誰かの名前が丸い癖字で書かれていた。
『
「百合音さん……?」
聞き慣れた名前が書いてあり首を傾げた。そのまま何も考えずに表紙を開く。
もう随分前に使われていたのだろうか。用紙が少し黄ばんで見えた。日付と曜日、綴られた文字が所々赤褐色の汚れでふやけ、読みづらくなっていた。
『◯月◯日
今日はお弁当箱を捨てられた。お昼の時間になってご飯を食べようとしたら取り上げられた。また、いつもの四人メンバー。特に真ん中の
◯月△日
小田川マキが同じクラスの
彼は私の好きな人だった。
学年一イケメンと言われているその人は女子からの人気がある。
なんで、そんなことしないといけないの。でも、嫌と言えばまた酷いことしてくる。嫌だ。いやだいやだ。たひねよ』
「柊……涼太? もしかして涼太さんの事ですか?」
だがしかし、ここまで読んで納はとある事に気がつく。
「じゃあ、待ってください。百合音さんは告白してないんじゃ……」
(もしかして、
納は視線を日記に戻した。
『◯月◇日
嘘だって思った。まさか、柊くんと付き合えることになるなんて。夢を見ているみたいだった。
そしたら、あいつらイジメてくなくなった。
あの小田川マキの顔。いい気味よ。
柊くんが居るから、自分たちがイジメをしていること柊くんにバレたら嫌だからって思ってるんだ。
最後まで、自分勝手なやつ。たひねばいいんだ。
◯月◯◯日
今日、柊くんといっぱい話した。
そして今日も、あいつらはイジメてこなかった。
柊くんに名前で呼んでよと言われた。
恥ずかしかった。
きっと、顔が真っ赤だったと思う。
柊くんの下の名前は涼太と言う。
涼太っていうの恥ずかしいなー。
◯月◎日
涼太にプレゼントを渡した。イニシャル付きの可愛いクマのキーホルダー。手作りだけど、初めてにしては上手く出来たと思う。お揃いにしたくてあたしも自分の分を作った。
涼太はすごく喜んでくれた。
やっぱり、趣味で手芸をやってて良かった。
口で言うの恥ずかしいけれど思いを形にすることならできるかもしれない。
こんなあたしと付き合ってくれてありがとう、涼太』
「百合音さん……」
何かを呟く訳でもなく、次のページに手を伸ばした。
『◯月●日
最近、涼太の様子が可笑しい。
柊くんと付き合って二週間は経つけど、何だかずっとぼーっとしている。
どうしたのって声をかけてみても、なんでもないよとはぐらかすばかりだ。
あたしね、涼太のお陰で救われたんだよ。だから、力になりたい。
でも、どうしたら良いんだろう。
×月×日
信じられない。
あいつが、マキが涼太と一緒に居るの?
しかも、キスもしているとこを見た。
なんで。なんでなんでなんでなんで!!!!
涼太、嘘だよね。
×月××日
今日も二人で居るのを見かけた。
だから、問いつめてた。
そしたらふたりとも驚いていた。
こっち来ないでよ、って小田川マキは叫ぶ。
涼太はただ困った顔をしていた。
そして何も喋らない。
そしたら、女が涼太はお前のこと最初から好きじゃねぇよってまた叫んだ。
そこであたしは何かが切れた。
¿月¿日
気がついたら、廊下に立っていた。
見上げるとあのクソ女と涼太が階段の上から
ふたりとも、顔が真っ青だった。
下をみると、なぜかあたしが倒れていた。
足が、変な方向に曲がってて頭から血がふきでていた。
あたし、たひんだの?
¿月¿¿日
いやだ。いやだいやだ。いやだいやだ!!!!!!
あたし、あたし、たひんだの?
なんで。どうしてどうして。ひどいひどいひどい。
あ、そうだ。こうしちゃおう。
みんな、みーんな、たひねばいい。
ねぇ、たひんでよ。あたし、もういっぱい苦しんだよ。
あたしだけこんな思いするの、おかしいよね。
ねぇ。たひんで。たひんでよ。
みんな死ねよ!!!!!!!!!!』
「たひねよ……
「納」
納の背後から死んだ声が聞こえた。
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