7.写真
「あれ、先程までいたのですが……」
「居なくなっちゃったの?」
「そうみたいですねぇ」
納はとりわけ悲しい顔をする訳でもなく、それを受け入れるような平然とした顔をしていた。
「そう言えば写真の方はあれから見つかりましたか?」
「ごめん。見つからなかったの。思い当たる場所を探したんだけれど……」
百合音は瞼に哀愁をのせて言った。納は攻めずに彼女を励ますように、彼女の華奢な肩に手をかける。
「別に気にすることはありませんよ。探さない限り落とし物は見つかりませんから」
「そう……?」
「はい。そこでなんですが、百合音さん。その写真の内容なのですが、この学校で思い出のある場所はありますか?」
「思い出?」
百合音は微かに首を斜めに傾ける。そして、考え込み始めた。百合音が顎に手をあて、目線を右上に逸らすのを納はじっとり見つめていた。
「あ」数十秒後。百合音の口から空気の声が聞こえた。
「一つだけ……あるかも」
「おや? もしかしたら、そちらに行けば何か分かるかもしれませんね」
「本当? じゃあ、今からそこに向かいましょ」
「はい。案内、よろしくお願いしますね」
◇
「ここよ」
「わぁ、良い景色ですねぇ」
百合音に連れられてやってきた場所は、旧校舎の四階を上った先にあった。
「なるほど、百合音さんが言っていた場所とは屋上のことだったんですね」
「ええ。風も気持ちいし、何より此処から見える景色が好きなの」
百合音は思い切り腕を伸ばし「綺麗〜」と嬉しそうに言った。納も倣って彼女と同じ方向を見る。
頭上には雲が嫌いそうな真っ青な空が広がっていた。
そこから、街の中心から照らす日の光。きぃきぃ、と高音で鳴く鳥がかけ飛んでいた。
遠くからエンジンが吹くのが聞こえた。視線をずらすと、向こうにある十字路で何台もの車とトラックが走っていた。
メッシュ越しであったが空間が広く感じた。
景色に感銘を受けていた百合音が再び口を開いた。
「懐かしいわ。生きていた頃、嫌になったことがあったら屋上に来てボーッとしたり、お菓子食べたり、自由に過ごしてた」
百合音は顔を俯かせ、うっすらと瞼を閉じる。
「どうしてこんな事忘れてたんだろう。死んで幽霊になっちゃっても、本当に良い事なんてないわね。成仏は出来ないし、こんな幸せだったことも覚えてないなんて……」
「幽霊になると生きてた事を覚えているって事例は少ないですからね」
「そうなの? じゃあ、仕方のないことね。確かに、その都度思い出したら、思い出したで辛くなるのはもうたくさんだわ」
呆れたように笑う彼女に納も微笑む。
「そうですよね。誰しも、忘れたい過去はあるものらしいですよ」
「らしいですよって、納はいつも他人事よね」
「そうでしょうか? よく分からないのでなんとも言えませんが……」
納はキョトンとしながら頭を帽子ごとさする。わけ分からなさそうな表情を前にして百合音がはあ、とため息を吐いた。が、すぐに目を見開いて何もないコンクリートに視線を一点集中させた。
「そう言えば私、ここで……」
百合音の表情に影がさす。途端に目は虚ろにかわり何も受け付けさせない。先程の澄んだ空を写した瞳はかき消されていた。
気になった納は彼女の顔色を伺った。
「どうかしましたか?」
「な、何でもない」百合音は、いつの間にか元の表情に戻っていた。
納は何も深く考えることはなく落ち着いていた。だが、百合音の表情は再び曇る。
「百合音さん?」
「ねぇ、納」
「はい」
「どうして怪異だけなの? 人間の落とし物なんてそこら辺に沢山落ちてるじゃない。ダメなの? もし、仮に見つからなかったらどうするの?」
「うーん。取り返しのつかない事になるから? ですかね」
曖昧な表現に「はぁ?」と百合音は不審気になる。
「怪異の落とし物は曰く付きなんですよ。だから、放っておくとよくない事があるんです」
「放っておくと良くないことって……?」
百合音の言葉に納は言葉を詰まらせる。
「例えば……災害とかですかね」
「災害?」
「基本的に何が起こるとかは定まってないんですよ」
「申し訳ありませんが…」心苦しそうに言う納だが、顔は穏やかのままだった。
「あ、これだけは言えます」
納は百合音に微笑んだ。
「怪異の落とし物は、
「じゃあ……」
「はい。つまり、情を持てば持つほど周りに降りかかる不幸は酷くなる。それは、自然が巻き起こすものか、人が巻き起こすものかなど私たちには分かりません」
「……」
「まぁ、誰が不幸になろうとも構いませんよ。幸せばかりが続く人生はないと思いますからね」
「……」
百合音は納の何かを見抜くような視線に額から汗が垂れる。
嫌気がさしたのか、視線を逸らした。
その途端だった。
ガチャリ。
屋上に繋がるドアが開く音がした。
中から男女の生徒たちが和気藹々に入ってくる。
「あっ」
「おや? 誰か来ました」
納は彼らの姿を一度見たあと、興味を示すことなく景色へと視線を変えた。
しかし、最後に入ってきた生徒を見たとき、百合音は目を大きく見開いた。
「
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